第53話「秘密の約束と信じる心」
#第53話「秘密の約束と信じる心」
いじめへの対応――
それは思っていた以上に、心をすり減らすものだった。あまりにも対応が難しい。村井先生がいじめを放置してしまったのも仕方がないのかもしれない。
ではどうすべきか?やはり放置という選択肢だけはない。それを断罪した俺が同じことをやるのは許されない。
前回は証拠を集め、事実を突きつけ、生徒に認めさせた。
だがその後、親が学校に乗り込んできて大騒ぎ。
結果、主担任の教師にまで迷惑がかかってしまった。
あの方法は駄目だ。何かを変えないといけない。とりあえず対応を考えると言って生徒を帰し考え込んだ。
「……さて、どうするか」
前回のように大きく動けば波風が立つ。主担任に負担をかけることになるかもしれない。一方で放置する選択肢もないとなると…
「……だったら、やるしかないか」
俺は腹を決めた。
俺が一番信頼している人、霧島先生がかつて俺にアドバイスしてくれた。俺のやったことは「間違いではないがやりすぎ」だと。
ならばできる限り“やりすぎない”よう注意しながら解決策を探っていこう。悪いことした人間を断罪するというのは独りよがりだ。更生の余地を残しておこう。
すなわち俺が考えた方法は……証拠を突きつけいじめを認めさせつつも断罪はしないというもの。指摘し反省させる。そしてその後は辛抱強くその生徒を信じる。
綱渡りのような気もするがここを狙おう。
そこで俺は今回もカメラとボイスレコーダーを用意し証拠を積み上げた。なんのことはない。証拠を集めいじめを認めさせることまでは同じだ。数日後、決定的ないじめの場面が録画された。
「……これなら、言い逃れはできないな」
俺は、いじめをしていた生徒を呼び出した。
証拠を突きつけると、生徒は黙り込んだ。やがて、小さく頷いた。
「……すみませんでした」
俺はしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。
「お前がやったことは悪いことだ。でも反省して今後二度といじめをしないならば、今回だけは俺の心の中にしまっておく。俺はお前を信じる」
生徒が顔を上げる。
「でもな……これがまた繰り返されたら、証拠を出さざるを得ない。次は、親にも学校にも報告する。分かるな?」
「……はい」
かすかな声だったが、うなずいたその姿は、少し震えていた。
「だから、このことは親にも言うな。言えば、俺も動かざるを得なくなる。これは……お前と俺だけの“秘密”だ。俺はお前を信じる。お前も俺を信じて欲しい」
俺は静かに言い聞かせた。
「分かりました。先生を信じます」
「ありがとう。あと、お前が何かで悩んでいるならば相談してくれてもいい。もちろん何でも解決できるわけではないけど聞くことぐらいはできる。逆に言えばそれぐらいしかできないがな」
そう言って笑うと生徒も笑ってくれた。
その笑顔にほっとした。とにかく俺は生徒を信じよう。別に裏切られてもいい。もう裏切られることは慣れっこだからな。裏切られることに疲れたら先生を辞めてもいい、何とでもなる。
一度の過ちくらい、誰にでもあるんだ。大切なのは、繰り返さないことだ。俺は彼らを信じよう。
これで、丸く収まるといいのだが。
彼が帰った後、俺はひそかにつぶやいた。
「……霧島先生、これで良かったのかな」
まあこれが今の俺にできる限界だ。これ以上考えても仕方がないだろう。
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