第44話「やりすぎだったかもしれない」
#第44話「やりすぎだったかもしれない」
「なあ、霧島先生。せっかくタイムリーパーの先輩から何かアドバイスはないか?100回以上もタイムリープしているなら俺の行動に何か思うところもあるんじゃないか?」
放課後の誰もいない面接室。霧島先生は椅子の背にもたれながら、俺の言葉に少し笑ってから首をかしげた。
「私からのアドバイスねぇ……。そうね、とにかく“人生を楽しむこと”。まずはこれに尽きるわね」
「楽しむ、か」
その言葉が、少し胸に刺さった。思い返せば、これまでのタイムリープで俺はひたすら『生き抜く』ことに集中していた。
「やりたいことはやったつもりだけど……どちらかといえば、生きるためにやってたな。楽しむというよりは、必死だった」
「だったら今回は、もうちょっと楽しんでみたら?」
「……そうだな。考えてみる」
「で、今回は何をやるの?」
「とりあえず、格闘技は続ける。体を鍛えるのは楽しいし、強くなれば自分を守れるから」
「ふーん。まあ、それもいいけど……女でも、食事でも、旅行でも、車やバイクなどの趣味でも散財でも、まだやっていないことたくさんあるんじゃない?もっと未知の世界に飛び込んだら?人生はいろいいろな意味で広いのよ」
霧島先生の言葉には、100回以上のタイムリープを重ねた人間だけが持つ余裕があった。俺は思わず苦笑する。
「未知の世界、ね……。じゃあ、ちょっと考えてみるよ」
そう言いかけたとき、霧島先生の目がふと鋭くなった。
「あとね、これはアドバイスっていうより、“指摘”かもしれないけど……」
「ん?」
「あなた、ちょっとやりすぎ。いじめしていた同級生への復讐とか、やりすぎてると私は思うわ」
「……それはどういう意味だ?」
「あなたは徹底的に追い込むでしょ? 相手がどんな人間であれ完膚なきまでに。確かに“悪”を裁くのは必要かもしれない。でも私から見ればやりすぎなのよ。人によっては立ち直るチャンスすら奪ってる」
俺は黙った。言われたことは、確かに心に刺さる。
「もちろん、殺人とか重い犯罪なら別かもしれない。でもいじめとか裏切りとか……。確かに悪いことよ。でもその報いが『人生破壊』までやってしまっていいの?そこまでの重罪?」
「……俺は、被害者が出る前に止めたかった。だからこそ――」
「その気持ちは分かる。だけど“断罪”って時に独善的になるの。あなたの基準が絶対じゃない。私もそうだったからよく分かる。あなたの基準ではそれが良いと思ったのかもしれないけど……私から見たらやりすぎに見えたわ」
「……」
「時には“警告”にとどめるっていう選択肢もあるわ。諭すとか、話し合うとか。それで反省しないなら、その時にもう少し追い込んでもいいかも」
しばらくの沈黙のあと、俺はぽつりと答えた。
「……確かに。俺の基準で断罪するのは危険だったかもしれない。少し、やり方を変えた方がいいかもな」
「でもこれはあくまで私の“価値観”。これが正解じゃない。人によって考え方は違うし、正義の形も違う。あなたがどうするかは、あなたが決めればいい」
「国が変わったら不倫したら死刑とか、麻薬持っているだけで死刑とかもあるからね。基準は人それぞれ。国によっても違う。だから絶対はないけど……私から見ればあなたの復讐はやりすぎに見えたってだけよ」
「あとはその人がどうしてそうなったのかも考えるといいかもね。例えば明日の食事にも困っている人が万引きした場合どう思う?犯罪だからと言って断罪する?」
「確かに……それは許してあげてもいいかもしれない」
「でしょ。その人の事情も考えたらケースバイケースで変えてもいいかもしれないのよね」
「結局、私たちは裁判官でもない。過去の判例を知っているわけでもないから正しい判断なんて無理。そして感情に左右され断罪が行き過ぎてしまうことが多くなってしまうと思うの。だから復讐とかは緩すぎると思うぐらいが丁度いいと思うのよ」
霧島先生の言葉は、いつも穏やかで芯がある。
「そうだな。参考程度に考えておくよ」
「うん、それでいい。頭にとどめておく程度でも十分よ。そしてあんまり気負わないでね」
「さっきはああ言ったけど、やりすぎたかも?とか思い出したらキリがないから。私たちは、もう“人生のやり直し”を何度もしてる。だから考えすぎない方がいい。肩の力を抜かないと、壊れちゃうから」
「……ありがとう」
素直に、そう思った。霧島先生がいてくれて、本当に良かった。やっと、俺にも“話せる相手”ができたのだ。
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