3話「柴田、崩壊のカウントダウン」
#3話「柴田、崩壊のカウントダウン」
1時間目の授業が終わった直後、教室のドアがコン、と軽くノックされた。
現れたのは学年主任の井之上先生。無駄にでかい声で言った。
「柴田くん、ちょっといいかな? 職員室まで来てくれる?」
教室内に、目に見えない波紋が広がった。
誰もが一瞬息を呑み、そしてチラチラと柴田を見る。
「……俺? なんで?」
柴田は笑いながら聞き返したが、その目は笑っていなかった。
「詳しくは言えないが、、、ちょっと問い合わせが来ててね。話を聞かせてほしいんだ」
井之上の声は柔らかかったが、明らかに“本気”だった。
「くそっ!」
柴田は明らかに動揺していた。軽く舌打ちして、机を蹴って立ち上がる。
ドアを開ける手に力が入りすぎて、バンッと音が鳴った。
(ああ、いい音だ。これからもっと良い音が聞けるだろうな)
俺は心の中で呟きながら、佐藤くんの様子を見た。
すると今更だとは思うが佐藤くんに謝る人もいた。
「ごめん、佐藤くんがいじめられていたことは知っていたけど言い出せなかったんだ」
「私もそう。ごめんね。佐藤くん」
「ごめんな。でも俺はいじめてないよね」
あからさまな自己保身の人達だな。肝心な時に何もしないくせに風向きが変わったら急にいい人ぶる奴、他には保険で自分に矛先が向かないようにしたい奴。反吐がでるがまあいいや。
佐藤くんはまだ怯えた表情を浮かべていたが視線はしっかりしていた。
「大丈夫、みんなのことを悪くは思っていないから」
佐藤くん、、、いい奴だな。周りの人を巻き込まないように考えているようだ。
(何も問題はない、柴田はもう終わる)
昼休み、柴田は戻ってこなかった。
岸本と藤本が、ひそひそと何かを話している。表情には焦りと疑心が入り混じっていた。
「……マジでやばいって。新聞とか週刊誌に出てんだぞ? 写真も……校門にはカメラマンまできているぞ。ニュースでもやっているらしいぞ」
「もしかしてその写真お前が撮ったのか?そういえばお前だけあの写真写ってなかったよな」
「は? ふざけんな、俺がそんなことするかよ!そもそも俺はいじめていない。俺は見てただけだし、関係ない。俺を巻き込むなよ」
作戦成功だ。いじめていた仲間の1人だけは写さなかった。その結果、お互いに疑っているのが見て取れる。あいつも馬鹿だな。今更、保身に動いても無駄なのにな。もう遅いよ。
こういうやつらは、仲間なんかじゃない。
敵が来れば、真っ先にお互いを売るタイプだ。せいぜい仲間割れして言い合いをして自滅してくれよ。
(さて、さらに追撃するか)
俺は今度は“学校相談窓口”へ匿名の手紙を送った。
「柴田くんの件について、保護者への説明はされていますか?このままでは地域社会全体の信頼を失う恐れがあります」
「いじめの隠蔽が疑われる場合、教育委員会への通報も検討します。報道機関への情報提供も視野に入れています」
大人の世界で通じる“圧”を込めた、社会人経験者らしい文章。
こういう文章が一番効くのは、“保身で動く上の人間”だ。
特に教育の上層部ってのは保身しか考えていない。昭和から令和までずっとそうだ。何十年も変わらないのはある意味すごいよな。
翌日、教室に貼り紙が出た。
『本日より担任の村井先生は体調不良のため休職となります。後任は井之上先生が兼任します』
ざわざわ……。
騒がしい教室の中で、藤本がひとり顔を伏せていた。
岸本は席で落ち着かずにペン回しを繰り返している。うまく回らず、2回落とした。
柴田は、、、もう来ていなかった。
俺は静かに教室の隅でノートを閉じた。
(やっとスタート地点に立っただけだ。ここからが本番だぞ、柴田)
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