1話「本当に高校生にタイムリープした!」
#1話「本当に高校生にタイムリープした!」
目を覚ました瞬間、違和感が全身を包んだ。
天井が……低い。
布団の匂いが懐かしい。畳の部屋?
いや、違う。これは――昔の俺の部屋だ。
焦って起き上がり、鏡の前に立つ。そこに映っていたのは、色白で痩せた少年の姿だった。
「マジかよ……ほんとに、戻ってる……」
目の下のクマはない。腹もへこんでいて、髪もちゃんとある。
服は――ブカブカの学ラン。
そして肩痛も腰痛も関節痛もない。
学ラン。
この制服、間違いなく俺が通っていた高校のものだ。
机の上には、分厚い英単語帳と、紙の時刻表。
そしてカレンダーには「199X年 4月10日(火)」の文字。
俺が高校に入学した、その週だ。
「……本当に、戻ってきたのか」
神様の言葉が脳裏に浮かぶ。
「よかろう、タイムリープだな。ならば高校1年生からやり直せるように手配しよう」
50代で人生を諦めていた俺が、子どもを助けて死に――
あの不思議な空間で、神様と名乗る存在からタイムリープの機会を得た。
それが、現実になったのだ。
しかも記憶に間違いがなければ最後に付け足した条件もある。何らかの拍子に失敗しても再び高校1年生に戻れる。すでに勝ち確定だ。
よくあるタイムリープものだと「次は努力して頑張って成功してやる」「次こそは助ける!」なんて描写はあるが俺はそんなことをするつもりは全くないし、する必要もない。
バブル崩壊で株がFXが大きく動くことを知っている。仮想通貨で大儲けできることも知っている。努力など全く必要がない。誰も助けなくてもいい。俺だけの楽勝人生、金も女も自由にできる人生を生きてやる!
俺は学ランに袖を通し、鏡でネクタイの位置を直した。
この頃の俺は、いじめに怯えて登校するだけで精一杯だった。だが今は違う。
俺の中身は、何十年も人生を積み重ねてきたおっさんだ。
俺はここから楽勝な勝ち組人生を楽しむ。
ただしその前に復讐が必要だろう。いつも俺をいじめていたあいつらへの復讐だ。
頭の中ではすでにリベンジの準備はできてる。
家を出ると、空気が懐かしい。
朝の通学路、コンビニではなく“酒屋”が目立つ時代の景色。
スマホのない高校生たちは、制服姿で笑いながら自転車をこいでいた。
そして、校門が見えた。
赤茶けた鉄柵に、青い横断幕。
「ご入学おめでとうございます」の文字が、妙に眩しい。
昇降口で靴を履き替え、1年3組の教室に入る。
その瞬間――空気が変わった。
ざわっ、と視線が集まる。いや、刺さる感覚だ。
前の席には、イジメの主犯格《《柴田拓也》》。
筋肉質で坊主頭。無駄にガタイが良く、声もデカい。今も仲間と悪ふざけをして笑っていた。
「お、○○。ちゃんと来たか。今日は誰の机壊す?」
「はは、昨日はロッカー蹴ったらビビってたよな~」
軽口を叩きながら、もうひとりの標的《《岸本》》が笑う。
俺の目を見てニヤリと笑ったその瞬間――思い出した。
俺はこの笑顔に、心を何度も折られたんだった。
教師が入ってきた。
《《村井》》。この男も腐っていた。
柴田の親が地元の有力者だという理由で、何があっても柴田には指導を入れなかった。
「起立、礼、着席――。ああ、今日も元気だな、お前ら」
元気なのはてめぇだけだよ、と心の中で毒づいた。
そして、教室の後ろの席。
窓際に、静かに座っているのは――《《水川由梨》》。
俺が初めて本気で好きになった子だった。
当時の俺は、勇気を出して告白して、「気持ち悪い」とまで言われた。
でも今は、少し違う気持ちだ。
美人だけど、心が冷たいのを知っている。
その上で、どう向き合うかを決めればいい。
とりあえずの標的はこの4人
・柴田(いじめの主犯
・岸本(柴田の取り巻き
・村井(いじめを放置した教師
・水川(ひどい振り方をした女
授業中、柴田が前の席の佐藤の背中を鉛筆で突いた。
俺と同じく、昔から標的にされていた大人しい生徒だ。
「なあ、借りてた漫画どこやったんだよ?」
「返したって言ったじゃん……」
「言ってねーよ。じゃあ責任取れよなぁ? なんか買えよ」
小声で囁かれる脅し。
そして、教師はそれに気づかないふり。――あるいは、気づいてるけど放置。
懐かしい、でももう本当は二度と見たくなかった光景だ。
でも俺は、今までの俺じゃない。
これまでの50年で、腐るほど理不尽を見てきた。
けど今回は違う。俺には先が見えてる。
情報、経験、計画、そして――恨み。
全部ある。復讐の準備は、整っている。
俺は、ゆっくりとペンを握った。
まずは、柴田からだ。
そして村井、岸本、水川……順番に片付けてやる。
これは、50歳ニートの俺が“初めての人生”を取り戻すための最初の一歩だ。




