16話「交際の公開と少しだけ芽生えた違和感」
#16話「交際の公開と少しだけ芽生えた違和感」
「ねえ、私たち付き合ってるって、みんなに言っていい?いいかげん他の男子の告白を断るのが面倒なんだ」
水川がそう言ったのは、告白の翌日だった。
驚いた。だが同時に、心の奥から喜びが湧き上がってくるのを感じた。
水川のほうから“堂々と公表したい”と思ってくれるなんて、想像すらしていなかったからだ。
「……ああ、もちろん、いいよ」
そう答えると、水川はふっと笑った。その笑顔を見て、俺の胸は熱くなった。
翌日、教室は少しざわついた。
「え? マジで? 高嶺の花の水川が……あの黒崎と?」
「どういう関係? 前から仲良かったっけ?」
「水川って、意外とそういうタイプだったんだな……」
ざわつく声は、俺の耳にも届いていた。
俺ははっきり言えば地味で目立たないタイプだ。
顔も標準以下だし、スポーツが得意なわけでもない。
成績だって普通。今回はいじめられはしないが、決して“モテる側”の人間ではなかった。
だからこそ、驚きとともに、少しばかりの嫉妬や呆れそして好奇の視線が俺に向けられたのは当然だった。
「お前、何か弱みでも握ってんのか?」
「いやいや、前世で世界でも救ったんじゃね?」
男たちの冗談交じりの嫉妬。
女子たちの、少し意外そうにこちらを見る目。
「そう言えば、黒崎もよく見るといい男……なのかな?」
でも――
(どうでもいい)
そんな反応すら、俺には心地よかった。
羨望される側にいるという実感。
水川が俺を選んだ、という事実。それが誇らしくてたまらなかった。
これで俺も人生勝ち組だ。これが本当の幸せなんだ。
昼休みには、もう屋上へこっそり行く必要はなかった。
教室で一緒に昼食をとる、話をする、水川のそばにいる――
それだけで、周囲は空気を読むように距離をとってくれた。
一緒にスーパーへ買い物に行ったり、放課後の帰り道でジュースを飲んだり。
そんな何気ない時間が、今の俺にとっては何よりの宝物だった。
「ねえ……不思議だよね」
ある日、並んで歩いていた水川が呟いた。
「つい最近まで、毎日が必死で誰かに何か頼る余裕なんてなかったのに……今は笑っていられる。あなたのおかげよ。本当にありがとう」
「……こっちだって同じだ。ありがとな」
笑い合って、俺たちは商店街の角を曲がった。
本当に、何もかもがうまくいっている気がした。
でも――なぜだろう。
どこか、胸の奥に、小さな違和感が残っていた。
不安でも、恐れでもない。
ただ、胸のどこかがざわつくような、言葉にできない感覚。思い出しそうで思い出すことができない。何とも不思議だった。
(……なんだろうな)
そんな疑問を抱えながらも、俺はその“違和感”の正体を深く考えることはなかった。
まだ、そのときは――
それが、嵐の前の静けさだということに、気づいていなかったのだから。
いつも読んで頂いてありがとうございます。毎日7時ごろ、20時頃の2話投稿を限界まで続けていく予定です。
ブックマーク、評価ポイント、レビュー、いいね、感想などもしていただけると励みになるかもよ?
その他、何らかの頑張れパワーをいただけると更に頑張れるかもです!
べ、べつに何も無くても頑張るけどね、、、 (^O^)/




