12話「心の隙間に入り込む」
#12話「心の隙間に入り込む」
午前の授業が終って食事の時間。
教室でお弁当を広げる人、購買にパンを買う人など様々。みんながちょっと安堵している時間。この時間が俺は嫌いじゃない。
でも水川はこの時間に屋上に行っていることが多い。
今の俺はその《《理由》》を知っている。
彼女は昼食を用意する金がないのだ。
(さて……今日はどう出るか)
俺はパンを3つ購買で購入し階段を上がった。
屋上の扉を開けると、春の風が吹き抜ける。
そこには柵のそばで静かにたたずむ、水川の姿があった。屋上から外を眺めているようだ。
制服のスカートが風に揺れ、髪がその横顔にかかっている。俺はその姿に少し見とれていた。
「なんであなたがここに……来ないで」
気が付いた彼女に低い声で言われた。
「別に何もしねえよ。昼飯を一人で食べようと思ったら先客がいただけだ」
俺は近くに腰を下ろしパンを取り出した。
ジャムパン、たまごパン、そしてツナマヨ。
予め多めに買ってきたパン。
「お前、昼飯、食ってねえだろ。ほら、どれでも好きなの取れ。二つでもいいぜ?」
水川は一瞬だけこっちを見たが、すぐに顔を背けた。
「……いらない」
「そっか。じゃあこんなに食べれないから捨てるしかねえな、もったいないけど」
俺はパンの包装をわざとくしゃっと握る仕草をした。
案の定、数秒の沈黙の後、水川の声が返ってくる。
「捨てるぐらいなら……もらうわよ」
彼女は柵から離れ、俺の隣に腰を下ろす。
無言でたまごパンを手に取り包みを開ける。
「なんでたまご?ツナマヨの方がおいしいぞ?」
「じゃあ、あなたが食べればいいじゃない?もしかしてあなたがたまご食べたかったの?」
「いや、もうお前が選んだし。そもそも俺が好きなのはジャム!」
「ふふ、何を言っているのだか、、、」
彼女は軽く微笑んだ。
「その方がいいよ」
「何?」
「君は笑っていた方がいい。いつもしんどそうだ、その方が君らしい」
「余計なお世話よ!」
彼女は少し顔を赤くして再びたまごパンに口を付けた。
口には出さないが、俺が「捨てる」なんて嘘をついていたことに、水川は気づいているはずだ。
でも――それでも、受け取った。
それが何より大事だった。
それから言葉はなかった。二人でパンをかじりながらしばらく無言の時間が流れた。
だが、それは苦痛ではなかった。俺によってはむしろ心地よい静けさだった。無理に聞き出す必要もない。何かあれば自分から話してくるだろう。
「……あんた、なんなの?」
ふいに水川が呟くように言った。
「は?」
「なんで私にこんなことするの。私、あんたに何もしてないのに」
「してるとかしてないとか関係ないよ」
俺は即答した。嘘ではない。
「勘違いするなよ。別にお前が好きとかじゃない。たまたま気づいて気になっただけだ。お前は真面目に勉強も校外活動も頑張ってる。だけどいつもしんどそうだ。」
「……勝手に見ないで」
「勝手に見て、勝手に気づいて、勝手にパンを押し付けてるだけだよ。何も気にする必要はない」
水川は視線を落とし、たまごパンを小さく一口、かじった。
口元にわずかに残るマヨネーズを、指で拭っている。
「……おいしいじゃない」
「当たり前だ。購買の人気パンだからな。」
彼女の頬がわずかにゆるむ。
(そう、それでいい)
俺は踏み込みすぎずかといって退かず心の隙間に爪先だけをねじ込むように関係を築いていく。
“助けてくれる誰か”じゃない。“黙って見ている誰か”として。
急に迫る必要はない。必ずこいつは俺を必要とする。困っている時に少しずつ助けてやれば何かあった時に心のどこかで頼るようになる。
「……じゃあ、明日は俺がたまご食べるぞ」
「別に、また来るつもり?」
「気が向いたらな」
そう言って立ち上がると、水川は背後でつぶやいた。
「……あんたのそういうとこ、ズルいわよ」
聞こえないふりをして、扉を閉めた。
風が吹いていた。
春の匂いと、静かに芽吹く何かを感じながら、俺は階段を降りていった。
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