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ダンジョンに眠る冷凍食品を探せ! ※このエルフは冷凍食品を食べないと死ぬ ~冷凍食品異世界転生物語~  作者: 杉林重工


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3/5

君はまだ本当の冷凍チャーハンを知らないのか

「……はい。長老」レエジは、放っておけばすぐに詰まりそうになる咽喉から、言葉をなんとか押し出した。


「わたしは、ずっと後悔していることがある」


「なんでしょうか」


「お前と、アーテのことだ」それを聞いて、レエジは俄かに耳が熱くなるのを感じた。


「わたしは今まさに、死のうとしている。この世界に絶望しているのだ」


「なぜです。この集落には冷凍食品がたくさんあるはずです」


 レエジの言葉に、長老は首を振った。


「いいや、わたしの絶望は、お前にはわかるまい。この、白い闇の中、もう、手にすることができない、否、口にし、舌に乗せ、息を吸い、鼻や脳を揺することができない、そのことが、いかに無常であるか。もう、耐えられそうにない」


「どうしたというのです。教えてください!」


「わたしは、これがほしい」


 そういって、老人は布団の中から、じゃがじゃがと不快なプラスチックフィルムの擦れる音を立てて、一枚のパッケージを取り出した。


「これは!」思わずレエジは口を両手で覆った。


「『本格炒め炒飯』(ニチレイ)!」


 レエジは、目の前に死の淵に瀕した老人がいることを忘れて叫んだ。背後では、そのパッケージを見ただけで涎を啜るエルフ達の不快な音がした。


『レンジでパラっと!』

『自家製ゴロゴロ焼豚!!』

『が旨い!』


「しかも、『数量限定+五十グラム増量』版だ……」


 それは、恐れか、それとも畏敬か。わなわなとレエジの体が震えだした。


「ですが、『本格炒め炒飯』(ニチレイ)はすでに絶滅したと聞いています。百年前には乱獲され、取りつくされ、全てはエルフ達の胃の中に納まったと……」


 その言葉に、モザは一度深く目を瞑った後、開いた。彼の瞳の奥、そこにまだ生はある!


「『本格炒め炒飯』(ニチレイ)は、存在する」


「馬鹿な!」


 レエジは声を抑えることができなかった。生前、その冷凍食品らしからぬ旨味に何度も舌鼓を打った逸品にして、冷凍食品が人気なこの世界では二度と口にできないと言われていたからだ。


「それは、遠く、この霜の森に連なる霊峰ウォルマルトの向こう、ゼイジュー岳の山頂にある。二千年前にこの集落を訪れた旅人のエルフがもたらしたのだ」


「まさか、そんな……」


 レエジは愕然とした。霜の森はすでに、ほとんど人のいない高い標高四千メートルに位置している。そこからさらに高く、そして果てなく、北へ北へと続くのが霊峰ウォルマルト。そしてその先のゼイジュー岳といえば、永遠に雪が降り続ける魔境である。


「ゼイジューの山頂には、いまだに大量の冷凍食品が眠っているらしい。だが、そこには恐ろしい罠や守り人がいて、その獲得は容易ならざると聞く」


 その言葉に、レエジは唾を飲んだ。エルフがダンジョンに挑戦して冷凍食品を取りに行って、帰ってくる確率は低い。その場でチンして夢中になって食べている間に魔物に背後を取られたり、うきうき気分でスキップして罠にはまって死んだりするからだ。


「しかし、お前は別だ、レエジ。頼まれてくれないか。冷凍食品を、お前の手で解放するのを、許す」


「確かに、わたしは冷凍食品の声を聴き、彼らを解き放つつもりで確保に向かいます。ですが、できません。わたしは、アーテと約束したのです。もう雪の中旅に出ることは……」


「冷凍食品持ってきてくれたらアーテとの結婚を許す」


「その任、引き受けました」


 二つ返事ほどで頷くと、レエジはそのまま長老の家を飛び出した。


「これを、持っていけ」


 そのまま集落を旅立とうとした彼を止める声。振り返ると、集落の守りを担うエルフだった。彼は、橙色の豪奢な鞘に入った剣を、レエジに突き出す。


「これは……」


「長老モザが使っていた宝剣だ。これを、お前に渡すように頼まれていた」


「そんな、畏れ多い。おれは人間だし……」


「だが、長老はお前を認めた……アーテのことも」彼は唇を噛んだ。


「わかった。受け取る。君達と違って、おれには一瞬一瞬が眩しい」


 レエジは剣を受け取り、すぐに支度をした。いつも雪山に出るときと同じく、魔物の素材で作られた外套に手袋、ブーツ。そして、ナイフと長老の剣。


「……いくのね」


 集落の入口に、アーテはいた。


「君にはあっという間だろう。気にしないでくれ、最悪、おれのことも」


「馬鹿!」


 アーテは、まるで捕らえるようにレエジに抱き着いた。アーテのまるで森林の木々のような爽やかな香りが、ふとレエジの鼻先まで持ち上がった。レエジはそっと、彼女の背を抱き返しながら、頭を撫でた。


「消えて、なくならないで」


「大丈夫だ。おれは、雪じゃない」


 それでもアーテはレエジを離そうとはしなかった。仕方ないので、レエジはおやつとして持っていた『井村屋謹製たい焼き(つぶあん)』(井村屋)を取り出し、集落の奥へ投げ込むと、アーテはまるで海岸でサンドイッチを狙うトンビのように跳躍してそれが地面に落ちる前に滑り込んでキャッチした。その隙にレエジは旅に出た。


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