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幕末巨人剣豪異聞  作者: カキヒト・シラズ


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第4話

「申しわけありません」

 お鈴が畳に手をついて謝る。

「本来、奥様をお守りするのが自分の役目のはず。

 ところが賊が家に押し入ったとき、こわくて自分だけ押し入れに隠れてしまいました。

 奥様がお亡くなりになり、千代丸様もお亡くなりになられました。これもすべて自分のせいです。

 かくなる上は、自分が死んでお詫びいたします」

「ならぬ」

 大石進種昌は毅然として言う。

「それだけは断じてならぬ。

 お凛も千代丸もいなくなった今、お鈴までいなくなっては、おれは一人になってしまう。

 もとより父上、母上、兄上はとうに他界している。

 おれに身内がいるとしたら、お鈴、おまえだけだ」

「種昌様」

 まだ涙が止まらないお鈴を種昌はきつく抱きしめる。

 居間にはまだお凛の遺体が転がっている。

「ときにお鈴。一体、何があったのだ。知ってることを話してくれ」

「……」


 お鈴の話はこうだった。

 四人の侍が種昌を訪ねて玄関にやって来た。

 お鈴がまだ帰宅してない旨を伝えると、土足で家に入り込み、種昌がどこかに隠れてないか探し出した。

 種昌が本当にまだ帰宅してないことがわかると、水原又十郎典膳と名乗る首領格の男は不機嫌になり、刀を抜いて千代丸とお凛を殺害した。

 お鈴はこわくなって押し入れに隠れた。

 実は水原以外の三人の侍は水原に雇われた用心棒で、事情をよく知らされてなかった。そこで彼らは居間に座り、水原が事情を説明した。

 水原は幕府の隠密。全国各地を巡っては幕府に謀反を起こす動きがないか探りを入れる。

 土佐藩・藩校、致道館に赴いたとき、種昌が土佐藩士と懇意になっているのが気になった。

 土佐藩士のほとんどが尊王攘夷にかぶれている。だとしたら種昌もその危険思想に洗脳されている可能性がある。

 幕府の方針としては並みの侍が尊王攘夷を唱えていても危険ではないが、剣客と謳われる一騎当千の凄腕の侍が尊王攘夷にかぶれたら幕府の危機だと考える。謀反を起こしたときの戦力が違うからだ。

 そこで水原は種昌の暗殺を考えた。

 まず柳川藩主、立花鑑寛に直談判し、種昌暗殺の許可を得た。

 さらに地元の刺客を立花に手配してもらった。

 同じ侍でも柳川藩士では種昌に顔がわれている。それに刺客や用心棒を生業とする浪人の方が並みの侍よりも剣の腕が立った。

 水原は今日、種昌が土佐から帰宅することを知り、一足早くここに来たということだった。


「それにしろ」

 種昌が言う。

「土佐藩士とはよくしゃべったが、おれは政治の話には興味がない。佐幕だの倒幕だの尊王攘夷だの開国だの、おれには関係ない。

 おれの関心事は武道、それも剣術だけじゃ。

 なのになぜ、おれを暗殺しようとする」

「わかりません」

 お鈴が言う。

「ただ種昌様があまりにお強いので、危険人物に見られたのではないでしょうか」

「そうなのか……。それに、なぜ水原はおれの女房や子供を殺したのだ」

「水原は隠密。常に命をねらわれる仕事をしているのです。

 こういう手合いは少しでも身の危険を察知したら、だれかれ構わず斬るのが習性ではないでしょうか」

「……」

 お鈴の説明を聞いてもやはり種昌には解せなかった。

 なぜやつらは無関係なおれの家族を斬ったのか。

 そのうちに怒りの矛先が今度は柳川藩主、立花鑑寛に向いてくる。

 なぜ立花は自分を裏切ったのか。

 武士の主従関係を考えれば、立花は自分を殺しても罪にならないが、自分が立花を殺すと謀反になる。それが儒教哲学の倫理だ。

 そういうことは頭ではわかっていても、心がどうしてもついていかない。



 その日、種昌は庭に穴を掘り、お凛と千代丸の遺体を埋めて手厚く葬った。

 お鈴の作った夕飯を食べ、いつもより早く就寝した。 


 (つづく)


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