第13話
その後、英艦隊のうち二隻がさらに海岸に近づき、砲撃した。
一方、薩摩藩も台場で大砲で反撃した。
双方いずれもあまり損害はなかったが、そのうちに旗艦ユーライアランスが完全に海中に沈むと、戦意喪失からか、すべての英軍艦は鹿児島湾から撤退した。
鹿児島城ではその夜、戦勝の宴が催された。
「早く自分を連れてここから逃げて下さい。命がねらわれます」
お鈴が大石進種昌の袖を引っ張りながら言う。
種昌たち三人にあてがわれた二の丸の十畳の部屋は殺風景だった。
鳥海弥左衛門は本丸で饗宴に興じていた。
「どうしたのじゃ」
種昌が言う。
「なにをそんなに怯えておる」
「実は太漏斗歌留多で占いましたところ、ここにいるのは凶と出ました」
「そんな迷信信じられるか」
「……」
「よいか。おれは絶対、ここから逃げない」
弥左衛門はしたたか酔っていた。
大宴会場を離れ、人気のない厠へ足を運ぶ。
ふと奈良橋喜左衛門が弥左衛門に近づく。
奈良橋は脇差でいきなり弥左衛門の脇腹を刺す。
弥左衛門は腹を抑えて倒れる。
「なぜじゃ……」
弥左衛門は奈良橋をにらみながら言う。
「最初からこのつもりだったのだ。
素性の知らぬ浪人風情にわが藩が借りを作っては後々面倒なことになりかねない。
浪人の用心棒は利用するだけ利用して、後は消してしまうのがわが藩のやり方」
「なんだと……。だったらなぜ拙者が海で溺れたとき助けたんだ」
「あんな簡単に英国が降参するとは思ってなかったからだ。
いずれ英国兵は鹿児島に上陸して、われらと陸上戦を交えることになる。
そうなるとおまえたちのような兵力は残しておいた方がいい。
これが当初の作戦だったのだ」
奈良橋が言い終わる前に弥左衛門は動かなくなっていた。
ひときわ大きいいななきとともに馬が内側から鹿児島城の門を飛び越える。
馬はそのまま全速力で鹿児島城から走り去っていく。
馬の手綱を引いているのは種昌。種昌の前で体を縮こませて馬の首につかまっているのがお鈴。
二人は逃げるように薩摩藩を後にした。
お鈴は月夜を見ながら、なぜかしら名状しがたい郷愁を覚える。
それはもしかしたら、自分が生まれる前の前世の記憶かもしれない。
お鈴はそう思った。
(つづく)




