表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末巨人剣豪異聞  作者: カキヒト・シラズ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/16

第12話

 その頃、二の丸の十畳ほどの空き部屋にはお鈴が一人で太漏斗歌留多(タロットカルタ)で占っていた。

 絵札を畳みの上に並べる。最後に出てきたのは死神の絵札だった。

 大事な人が死ぬ。この一戦で種昌様か弥左衛門様のいずれかが死ぬ。

 そういう考えが啓示のようにお鈴の脳裏に閃いた。

 お鈴の目から涙が流れる。





 鹿児島湾に英国の軍艦が停泊してから一週間が過ぎた。

 薩摩藩は蒸気船、天祐丸を英軍艦へ向けて推進させていた。

 藩士、梅江田信義は天祐丸の甲板から敵軍の旗艦と思しき最大規模の軍艦を眺めていた。

 天祐丸にくらべ、大きさはけた違いだ。だが梅江田にも秘策はあった。

 実は生麦事件で英国人を斬ったのは梅江田自身だった。その負い目もあるがゆえに、天祐丸の指揮を久光公から任されたときは、もとより命にかえても任務を全うする覚悟はあった。

 金の鎧兜は巨人の大石進種昌。銀の鎧兜は鳥海弥左衛門。

 藩士仲間の奈良橋喜左衛門から二人は凄腕の剣客と聞いている。特に巨人は剣豪、大石七太夫種次の子息と聞く。

 甲板には二人の剣客の隣に口径四尺ほどの大砲がある。玉のかわりに兵を銃口に入れば、兵を遠方に飛ばせる。

 これは南蛮渡来の舶来品でなく、薩摩藩の鍛冶職人たちに作らせたものだ。

「大石殿」

 梅江田が言う。

「この大砲の銃口に足から入って下され。大砲を発射して大石殿を体ごと敵艦に乗船させます」

 種昌は不審な表情だったが、やがてしぶしぶ銃口に入る。





 旗艦ユーライアランスの船室では司令官オーガスタス・レオポルオド・キューバーがパイプをくわえ、せわしなく歩き回っていた。

 首が見えないほどたくわえた白髭を指でいじり回す。緊張したときのキューバーのくせだった。

 黄色い猿どもめ。なぜ降伏してこない。やつらに最初から勝ち目などあるわけない。

 キューバーは東洋人を人間とは思っていなかった。とりわけ日本人は猿の一種に思えた。

 未開野蛮の日本人め。わが英国人を殺害するとは許されるはずがない。

 キューバーは双眼鏡でガラス窓から海を見た。

 薩摩藩の船と思われる貧弱は蒸気船が目に入った。

 日本人め、われらと交戦しようと考えてるんじゃあるまいな。

 すると大砲の轟音とともに金色に光る巨大な鉄砲玉が飛んできた。




 発射の瞬間は奇妙な心持ちだった。

 種昌の体は轟音とともに勢いよく宙に投げ出され、空を飛ぶ。

 鳥ならばいつも見ている光景かもしれないと思いながら、二つの蒸気船を上から俯瞰し、次の瞬間、敵艦の甲板に全身が叩きつけられる。

 急いで立ち上がると、英国水兵たちが仰天した様子で自分を見ている。

 種昌は気を取り直し、背中から長刀を抜刀するともに、懐から手裏剣を取り出しておく。

 銃を構えた水兵に種昌は手裏剣を投げる。

 手裏剣は額に命中し、水兵はその場に倒れる。

 サーベルを抜いた水兵が種昌に襲い掛かる。

 二三合切り結んでから、水兵を倒す。

 船室から水兵が多数、出てくる。

 種昌は長刀を振り回し、次々に敵を切り捨てる。

 一薙ぎで二人の首を跳ね飛ばしたり、首とともにマストも切断したりした。

 たちまち甲板は血の海になる。

 そのうちに轟音が響き、銀の甲冑に身を包んだ弥左衛門が甲板に着地する。

「弥左衛門」

 種昌が叫ぶ。

「ここは頼んだぞ。おれは船底に行く」

 船室のドアを開け、螺旋階段を降りる。

 水兵たちはそこにもいた。

 種昌は長刀と手裏剣で応戦する。

 巨大な舵輪の側に白髭をたくわえた軍服の老人がいる。

 この船の司令官だろうか。

 老人が銃を構える前に種昌は長刀で斬り捨てる。

 さらに螺旋階段を降りる。


挿絵(By みてみん)


 船底部屋に着くと、種昌は長刀を床に刺す。

 海水が床を濡らす。

 そのまま力いっぱい長刀を引き、床に楕円形の穴を開ける。

 これは梅江田の指示だった。船底に穴を開ければ船は沈没するはずだからだ。

 海水が増え、いつの間にが種昌の膝まで浸水している。




 天祐丸の甲板から梅江田は敵艦を睨み続ける。

 まだか。まだ船底に穴を開けてないのか。

 種昌たちを大砲で敵艦に撃ってから、かなり時間が経っていた。

 作戦は失敗か。

 梅江田がそう思ったとき、轟音とともに敵艦が二つに割れる。

 船首と船尾が海上に突き出し、中央部分が海中に沈む。

「よし、今だ」

 梅江田が号令をかける。

 すると二艘の小舟が天祐丸を出発し、敵艦の方へ向かう。

 小舟は船頭が操り、数名の地元の海女を乗せている。

 甲冑を着た種昌たちは泳げない。そこで海女たちが彼らを小舟まで引き上げるのだ。

 小舟が敵艦に近づくと、命綱をつけた海女たちが海に飛び込む。

 ややあって、金の甲冑武者と銀の甲冑武者が水上に現れ、小舟に乗せられる。

 二人とも意識はあるようだった。

 作戦は概ね成功した。

 梅江田はほくそ笑む。

 再び轟音が響き、敵艦はまた少し海中に沈む。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ