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また、招待状が届いたようです。

 公爵家の令息として——いや、世間からは公爵令嬢として——過ごす日々は、レオノールにとって意外にも心地よいものだった。

「ふぅ……」

 自室の片隅で、紅茶を一口。

 ティーカップを優雅に持つ仕草も、淑女としての立ち振る舞いも、もうすっかり板についている。

(最近、すごく平和だ……)

 グラード伯爵家のお茶会から三か月、カッシュが何度かグラード伯爵について家にやってきたがそれ以外の攻略対象たちに出会う機会はなく、変に絡まれることもなく穏やかな日々が続いていた。

 カッシュは一週間から二週間に一度、公爵家にグラード伯爵と共に訪れる。

 グラード伯爵がリオンと話している間はレオノールがカッシュの相手をすることになってしまった。

 レオフィアとして会っているが、それなりにカッシュとはいい関係が築けていると思う。。

 話していて面白いし、楽しい。

 このまま友人として過ごすのも悪くはないと、近頃は思うようになっていた。

 たただ、ときおり自分をジッと見つめる視線が気にはなるが————。

「このまま、余計なフラグを立てずに公爵家の令息(女装中)として穏やかに過ごせたら……」

 そんな淡い期待を抱いていた矢先————。

「レオノール様、公爵様が執務室にてお呼びです」

 サイモンが恭しく告げる。

(……なんか、嫌な予感がする)

 しかし呼ばれた以上、行かないわけにはいかない。

「失礼します」

 リオンの執務室に足を踏み入れると、リオンは難しい表情を浮かべていた。

「レオノール、少し話がある」

 その雰囲気に、レオノールは思わず身構える。

「……何でしょう?」

 リオンはしばし沈黙した後、重い口を開いた。

「今度、王宮の園遊会に招待されることになった」

「…………は?」

 一瞬、頭が真っ白になる。

「……お父様、もう一度お願いします」

「王宮の園遊会に招待されたのだ」

「……オレが?」

 リオンは頷く。

「もちろん、何度も断ろうとした。しかし、今回は正式な王室の行事の一つであり、貴族としての義務だ。今回は断れん」

「いやいやいやいや、待ってください。何が悲しくて男のオレが王宮の園遊会に……」

 レオノールは顔を引きつらせながら、なんとか現実を受け入れようとするが、思考がぐるぐると回るばかりでまとまらない。

 そこで、さらに追い打ちをかけるようにリオンは言った。

「もう一つ、伝えなければならないことがある」

「まだあるんですか……?」

 レオノールの頬がぴくりと引きつる。

「今回の園遊会は、第一王子の婚約者を決めるためのものだ。年齢の合う令嬢は、全員参加が義務づけられている」

「…………」

(詰んだ……)

 レオノールは青ざめた。

「お、お父様……オレが男だってこと……」

「分かっている」

 リオンは重々しく頷いたが、その視線はどこか彷徨っている。

 冷静を装っているものの、その指先はわずかに動揺を示すように机を叩いている。

「……だが、それでも断ることはできない」

 リオンは努めて淡々と告げるが、どこか言葉に詰まりがちだ。

 その態度に、レオノールは眉をひそめる。

「……お父様?」

「……すまない、レオノール」

 レオノールは目の前が暗くなるのを感じた。

「いや、でも流石に王子の婚約者選びに、オレが混ざるのはまずくないですか……!?」

 目の前の机に思わず身を乗り出し、抗議するようにリオンを見上げる。

「心配するな。第一王子・ヴァンツァー殿下の婚約者候補には、名門貴族の令嬢たちが揃っている。よほどのことがなければ、レオノールが、いや、レオフィアが選ばれることはないだろう」

 リオンはそう言うが、その目はわずかに逸らされている。

 レオノールの心の中では警報が鳴り響いていた。

(いや、そういう時に限って変なフラグが立つんですよ……!!)

 とはいえ、逃げることはできない。

 レオノールは肩を落とし、額に手を当てた。

「……はぁ……わかりました……参加します」

「……すまない」

 仕方なく園遊会に参加することを受け入れるしかなかった——。


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