表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんな裏設定があるなんて聞いてない!裏設定を知ったオレは悪役令嬢の婚約破棄を目指します。  作者: 雪野耳子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/69

変だな、と思った時点でだいたいアウト。

 陽は高く昇っているというのに、どこか霞がかかったように頭が重い。

 広い寝室の窓辺には、穏やかな陽光がカーテン越しに差し込んでいた。

 白地に薄桃色の花が刺繍されたカーテンは、風のない朝に静かに垂れているだけで、まるで時間まで止まってしまったようだった。

 鏡台の前に腰をかけたまま、レオノールは無言で自分の顔を見つめる。

 目の下にできた薄い影が気になって、思わず指でそっと触れた。

 あまり寝られていないわけではない。

 むしろ、最近はやたらと眠い。

 眠っても眠っても、身体の芯に疲れが残っているようで、朝になってもすっきりしない。

 侍女のアリーが丁寧に髪を梳きながら、心配そうに声をかけてきた。

「レオノール様、やはり少しお顔色が……」

「……そんなにひどい?」

 鏡に映る自分の表情は、確かにどこかぼんやりとしていた。

 目の奥に霧がかかったようで、考えがまとまらない。

「寝不足ではございませんか?ここ数日、夜中にうなされているようなお声を何度か……」

「……そうだったのか」

 自覚はなかった。

 夢は見ている気がするのに、内容をまったく覚えていない。

 起きた瞬間だけ何かに怯えていたような感覚だけが残っていて、それも時間が経てば溶けて消えてしまう。

「昨日も妃教育のお時間を少し短くされましたし……」

「そうだったね。当主教育も、最近まったく頭に入ってこないんだよな。勉強しても、すぐに霧がかかるみたいに消えてしまうっていうか」

 何かおかしい。

 この数日間、ずっと体の中でなにかが重く淀んでいる。

 最初は疲れかと思っていた。

 けれど、それにしては長すぎる。

「いつからだったっけ……こんな感じになったの」

 ぽつりと漏らすように呟いたレオノールの言葉に、アリーともう一人の侍女、シェラが顔を見合わせる。

 二人ともレオノールの身支度の手を止め、記憶をたぐるように視線を宙に泳がせた。

 そのとき。

「……あっ!」

 アリーが少し大きな声を上げた。

「ヴァンツァー殿下とお茶会をされた日の次の日からですわ!」

 レオノールは一瞬、目を見開いた。

 でもすぐに視線を落として、少しだけ眉間に皺を寄せる。

(……ムカついたから?)

 思い出すのは、赤いブローチを受け取った、あのときのこと。

 あのときも、特別なことがあったわけじゃない。

 相変わらず一方的で、少し苛立たしくて、けれどいつものこと。

 ……いや。

 いつものこと、だっただろうか。

 ふと胸の奥に、何かがひっかかる。

 でもその感覚すら、すぐにぼやけていく。

「シェラ」

 レオノールは呼びかける。

「例のブローチ、まだ部屋にあるよね。持ってきてくれる?」

「かしこまりました」

 シェラはすぐに立ち上がり、衣装棚の奥から小さな黒い箱を取り出してきた。

 差し出されたそれを受け取ると、レオノールは一度小さく息を吸い、そっと蓋を開けた。

 そこに収められていたのは、深紅のルビーのブローチ。

 光の加減で、まるで宝石の奥で血が脈打っているかのように揺らめいていた。

 ただの石のはずなのに、不思議と視線が離せなかった。

 気がつけば、じっと見つめていた。

 その赤が視界いっぱいに広がった瞬間、頭の奥で光が明滅するような感覚が走った。

「……っ」

 目の前がぐらりと揺れる。

 意識が一瞬、薄くなる。

 すぐに箱を閉じ、ブローチから視線をそらした。

「レオノール様!?」

 アリーが駆け寄ってきて、肩に手を置く。

 シェラも心配そうに見つめている。

「……大丈夫。ちょっと、眩しくてクラクラしただけ」

 笑顔を作ってそう言いながら、箱を差し出す。

「これ、しまっておいて。……やっぱり、今は見たくないな」

 二人の侍女が不安げに顔を見合わせながらも、丁寧に頷く。

「少し、疲れたのかもしれないな」

 レオノールはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

「今日は……このまま、横になるよ。着替えなくていいから、少しだけ休ませて」

 アリーとシェラが控えめに部屋を下がっていくのを見届けてから、レオノールは重たい身体を引きずるようにしてベッドへと向かった。

 カーテンは閉じていないのに、部屋の中が少しだけ暗く感じられた。

 窓の外の空は青く澄んでいるはずなのに、視界はどこか霞んで見える。

 横になり、ブランケットを肩まで引き上げる。

 ぬくもりに包まれているはずなのに、心はどこか冷たい。

(……変だな、と思ってたんだけどな)

その感覚を振り払うように、レオノールは静かに瞼を閉じた。

読んでいただきありがとうございます。感想など頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ