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こんな裏設定があるなんて聞いてない!裏設定を知ったオレは悪役令嬢の婚約破棄を目指します。  作者: 雪野耳子


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夢を見たはずなんだけど?

 夜の部屋には、モニターの明かりだけがぼんやりと灯っていた。

 ゲームコントローラーを握る手は、ほんの少し汗ばんでいる。

 画面の中でキャラクターが転がり、爆発音が派手に鳴り響いた。

 HPはギリギリ、でも。

「っしゃあ、これで終わり!」

 フィニッシュの一撃とともに、BGMが高らかに鳴り響く。

 画面には「MISSION COMPLETE」の文字。

「ふぅ……やっとクリアか」

 ソファに身を沈め、軽く背を伸ばす。

 テーブルの上には、飲みかけのスポドリと空のポテチの袋。

 時計は深夜1時を回っていた。

 エアコンの低い駆動音が室内に静かに響いている。

 夏の終わりの湿気がまだ少し残っていて、部屋の空気はほんのりぬるい。

 どこかで虫の鳴く声が聞こえた気がした。

 いつもの、静かな夜。

 誰にも邪魔されない、大好きな時間――のはずだった。


 バン!


 突然、扉が開いた。

「……うわっ!?」

 勢いよく入ってきたのは、姉だった。

 寝巻きの上からパーカーを羽織り、手にはひとつのゲームソフトが握られている。

 乱れた髪と寝ぼけた目に、やたらと高いテンションがちぐはぐだ。

「ちょ、何その入室の仕方……。ホラーかよ」

「うるさい、あんたに頼みがあるの!」

 ずい、と突きつけられたのは、どこかで見たようなパッケージだった。

 光沢のある表紙には、華やかな制服姿の男女たち。

 中央には、気品ある微笑みを浮かべた金髪の王子。

 その隣には、クールな銀髪の青年、片眼鏡の理知的な青年、そして快活そうな少年。

 手前には、やわらかな微笑みを浮かべた少女がこちらを見つめていた。

「……は? 何これ、乙女ゲーム?」

「そ。今話題のやつ! 『シェインレーラの乙女』」

「なんでそれ、オレに?」

 姉は真剣な顔で言い放った。

「あんた、休み中、暇でしょ。私、イベントで忙しいからコレ、クリアしといてよ。もちろん、全コンプで」

「はあああ? オレだって色々やることが――」

「いいから、やれ。じゃないと」

 小遣いの束が、姉の手からちらりと見えた。

「……っ、わかったわかった。わかりました! やりゃあいいんだろっ、やりゃあ」

 姉は勝ち誇った笑みを残して部屋を出ていく。

 彼はため息をつきながら、パッケージを手に取った。

 でも――。

(……なんか、これ……)

 知ってる気がした。

 見たことがあるはずのないゲームなのに、手が勝手に動く。

 無意識のうちにディスクをセットし、コントローラーを握っていた。

 テレビの画面には、美麗なオープニングアニメーション。

 荘厳な音楽と共に、登場キャラクターたちの姿が流れていく。

 金髪の王子、鋭い目つきの騎士、冷静沈着な青年、明るく軽やかな少年。

 彼らに続いて、画面に現れたのは、ひとりの少女だった。

 胸まで届く栗色の髪に、柔らかなカールがかかっている。

 控えめに笑うその唇と、どこか儚げな雰囲気をまとった瞳。

 彼女の姿は、まるで物語そのものを象徴するように、ゆっくりと画面の中央に浮かび上がった。

(……知ってる。名前も、声も、性格も)

 キャラ紹介のラスト、画面が白く切り替わった。

 そこに立っていたのは――ひとりの少女。

 美しいウェーブのかかった銀の髪。

 エメラルドの瞳。

 しなやかな指先と、完璧に整った笑み。

 画面の中央に、その少女の姿がふわりと浮かび上がっただけだった

「…………」

 心臓が跳ねた。

 音が消えた。

 画面がぐにゃりと揺れる。

 遠くで何かが崩れる音がした。

(オレ……これ、やったこと……ある? でも……なんで、オレ……)

 画面の中の少女が、ふと、こちらを見た。

 目が合った。

 その瞬間――。

 世界が、音を立てて崩れ始めた。

 背景が割れる。キャラクターが歪む。

 ゲームのロゴが滲んで、溶けて、真っ黒に染まっていく。

 足元が抜ける感覚。

 息ができない。

 視界が暗くなる。

 誰かが、名前を呼んだ。

 でも、それが誰の名前だったのか、自分でもわからなかった。


◆      ◆      ◆


 目が覚めたとき、レオノールは息を切らしていた。

 目の奥がじんじんと熱を持ち、喉はひどく乾いている。

 寝室の天蓋がかすかに揺れていた。

 微かな風がカーテンを揺らし、窓の隙間から差し込む月明かりが床に滲んでいる。

 冷えた空気が肌にまとわりつくはずなのに、全身がじっとりと濡れていた。

 汗が額を伝い、首筋を流れ、シーツにまで染みこんでいく。

 なのに、夢の内容が思い出せない。

(……今、何の夢を……)

 目を閉じても、真っ白な霧の中に取り残されたような感覚だけが残る。

 頭が痛い。耳の奥で、心臓の音がずっと響いている。

 胸の奥が、何かを叫ぼうとして押し黙っているような、重いざわめきに満ちていた。

 記憶は、ない。

 けれど、『何か』が引っかかっている。

 その断片だけが、喉の奥で棘のように引っかかっていた。

 レオノールは、ひとつ深く息を吐いた。

 冷静を装うように、布団の中で身を丸める。

 何もなかった。はずなのに。

 呼吸だけが浮いているような違和感に、全身が焦りに似た熱で包まれていた。


読んで、いただきありがとうございます。感想など頂けたら嬉しいです。

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