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こんな裏設定があるなんて聞いてない!裏設定を知ったオレは悪役令嬢の婚約破棄を目指します。  作者: 雪野耳子


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予想外の展開になりました。

 レオノールはゆっくりと息を吐きながら、慎重に自分の脇腹へ手を伸ばした。

 指先が触れると、かすかな熱がじんわりと肌に伝わる。

 服の布地越しに感じる異物感に、一瞬身をこわばらせたが、恐る恐る押し当てると、確かに傷口は塞がっていた。

 じわりと鈍い痛みが広がるが、深く刺さるような痛みではない。

 呼吸を整えつつ、慎重に身体を捻る。

 傷口に鈍い痛みが広がるが、動きを阻害するほどではない。

「そういえば、この傷……誰が手当てを?」

 レオノールが問いかけると、静寂が再び重く降りかかった。

 部屋の片隅で揺らめく蝋燭の灯が、壁に不規則な影を描いている。

 カーテンの隙間から漏れる月光が、床に淡く流れ、ぼんやりとした輪郭を作っていた。

 ほのかに漂う薬草の香りが、消えかけた痛みの名残を思い出させる。

 レオノールの言葉に、ラフィーナの肩がぴくっと震えた。

 彼女は小さく息を呑み、少し戸惑ったように視線を伏せた。

「私が……治癒しました」

「……え?」

 レオノールの心臓が、一瞬鋭く跳ね、喉が詰まる感覚に襲われた。

 思わず視線を泳がせるが、ラフィーナの顔に冗談の色はない。

(マズい、これは……治癒、だって?)

 背筋を冷たいものが駆け抜ける。

 指先に力が入り、無意識に布を握りしめた。

 治癒と浄化に特化しているのは 聖女の力 。

 本来なら、学園に入る少し前に発現するはずのものだ。

(こんなに早いはずがない……なんで……)

 脈打つ鼓動が耳に響く。

 レオノールの視線の先で、ラフィーナはそっと膝の上で手を重ねた。

 彼女の細い指がかすかに震えているのが分かる。

「でも……まだ完全に治せたわけじゃないの」

 声は申し訳なさそうに小さく震えていた。

 彼女の頬にはかすかな赤みが差し、手元を落ち着かない様子で弄んでいる。

「私の力、目覚めたばかりで安定していないみたい……ごめんなさい」

 まっすぐな視線で言いながらも、その目には不安が滲んでいた。

 自分の力に戸惑い、頼りなく思っているのだろう。

(目覚めたばかり……?)

 レオノールの喉がひりつく。

(学園に入る前、ラフィーナの兄貴が街で大怪我をしたときに力が目覚めるはずだった……それが、オレに……)

 レオノールは唇を噛んだ。

 背筋にぞわりと冷たいものが走る。

 無意識にベッドの縁を指先でつかみ、かすかに震える手を押し付けた。

(じゃあ、次に起こる出来事も……変わるんじゃ……?)

 息が詰まるほどの違和感。

 全身をじわじわと締め付けるような焦燥感が広がっていく。

 レオノールは目を閉じ、わずかに息を吸い込んだ。

 冷静になれ。

 だが、胸の奥に燻る違和感は、消えそうにない。

 もし、本来のストーリーと違う展開になったら?

 この変化は、どこまで影響する?

 本来なら、ラフィーナの兄が街で大怪我をしたときに発現するはずの聖女の力。

 それが、レオノールの怪我で目覚めた。

(オレと出会ったことで、色々、変わっちまったってことなのか)

 そう考えた瞬間、背筋に冷たいものが走る。

 ――なら、学園で起こるはずの出来事も、変わるのか?

 王族との関係は? ヴァンツァーとの婚約は?

 考えが次々と巡り、こめかみの奥がじんじんと痛む。

 喉がひりつき、飲み込むのも重い。

 じわりと背中に滲む冷たい汗が、悪い予感をさらに強めた。

 何かが決定的に狂い始めている――そんな確信だけが、静かに膨らんでいく。

 だが、ふと視界の端で、ラフィーナが不安そうに唇を噛みしめているのが見えた。

 拳をぎゅっと握り、か細く震える肩。

 その表情には、「力を使いこなせない自分へのもどかしさ」と「申し訳なさ」が滲んでいた。

 ――今、考えるべきことは何だ?

 焦っても仕方ない。

 まずは、目の前のことに向き合うしかない。

 レオノールは静かに息を吐くと、考えを押し込めるように、できるだけ柔らかい声を作った。

「いやいや、なんで謝るの?」

 無理やり思考を振り払うように、ゆっくりと微笑んだ。

 感情を悟られないよう、自然に振る舞う。

「しっかりと傷口は塞がってるし……ラフィーナ、ありがとう」

 ラフィーナは、一瞬息を詰めるように目を見開いた。

 しかし、すぐにふんわりと微笑み、胸の前で小さく手を組む。

「そんな……お礼なんて……っ」

 ラフィーナは小さく首を横に振る。

 しかし、次の瞬間、ぐっと唇を噛みしめ、まっすぐレオノールを見つめた。

「……レオノールが死ななくて、本当に、よかった」

 その瞳には、安心と、強い感情が滲んでいた。

 レオノールの胸の奥が、わずかに軋むような感覚を覚える。

(……そっか。オレ、死にかけてたんだ)

 今まで自覚していなかった。

 戦闘での負傷も、ゲームの一部として割り切ることができた。

 けれど、ラフィーナの震える声が、それを 現実の危機だった と思い知らせる。

「カッシュ様に聞いたんだけど、治癒師は少ないから、訓練して力を安定させるといいみたいなの」

 ラフィーナの言葉に、カッシュが静かに頷く。

「お前の力は貴重だ。鍛えれば、いざという時に役に立つ」

 彼の言葉は冷静だが、どこか思案げな色があった。

(……あれ?)

 レオノールはふと気づく。

(ゲームのストーリーが始まる前に、ラフィーナとカッシュのフラグが立ったのか……?)

 本来なら、学園に入ってしばらくしてから、カッシュとラフィーナの関係が深まるはずだった。

 だが、今はすでにカッシュが彼女の力に気づき、導こうとしている。

(これ、大丈夫なのか? イベントの順番がズレてる……)

 レオノールが目の前の二人を見つめると、ラフィーナは決意したように小さく拳を握りしめた。

 指先にぎゅっと力が入り、瞳がまっすぐに輝いている。

「それでね、力が安定したら……レオノールのその傷痕も消せると思うの!」

 ぱっと顔を上げた彼女の表情は、希望に満ちていた。

「だから……私、絶対に頑張る!」

 ラフィーナの瞳はまっすぐにオレを見つめ、その奥には揺るぎない決意が宿っていた。

 指先の震えは消え、ぎゅっと力強く握り込まれる。

「……!」

 思わず息を詰まらせる。

 彼女の真剣な眼差しに、ただの励ましではない強い覚悟が感じられた。

(おいおい、これ完全にルートが変わってるんじゃないか!?)

 カーテンの隙間から差し込む月光が、静かな室内に淡い影を落としていた。

 蝋燭の炎がわずかに揺れ、影が伸びたり縮んだりする。

 夜の空気が微かに揺れ、部屋の静けさが深まる。

 空気の流れが変わっていくのを、レオノールははっきりと感じた。

 ゲームの運命が、確実に変わり始めていた。


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