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こんな裏設定があるなんて聞いてない!裏設定を知ったオレは悪役令嬢の婚約破棄を目指します。  作者: 雪野耳子


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救いの光が、秘密を照しちゃいました。

 ラフィーナの体から放たれる柔らかな光が、闇を切り裂くように広がっていく。

 金色の輝きは、朝霧を払う陽の光のように、静かに、しかし確実にレオノールの傷口を包み込んでいった。

 その光は脈打つように揺らめき、鼓動とともに微細に明滅する。

 まるでラフィーナの強い願いが、光そのものに乗り移っているかのようだった。

 暗闇に支配されていた空間が、わずかに温もりを帯びていく。

 血の流れが徐々に緩やかになり、やがて止まった。

 冷え切っていた体にも、微かな温かさが戻っていく。

 それは、死にかけていた命を引き戻すほどの力だった。

 だけれど、それだけでは足りない。

 深く刻まれた裂傷はまだ塞がらず、肌をえぐるような痛みを残している。

 ラフィーナは、震える唇を噛み締める。

(お願い……どうか、助かって……!)

 彼女の心の奥底からの祈りが、聖女の力を覚醒させた。

 本来、この力は攻略対象となる者との親密度によって強まるはずのものだった。

 しかし、この世界では『想い』が、その力の根源となる。

 レオフィア、いや、レオノールに対する純粋な好意が、彼女の中に眠る力を引き出したのだ。

 だが、まだ足りない。

 もっと強く願えば、傷を完全に塞ぐこともできるのではないか。

 そんな考えが頭をよぎるが、光は次第に薄れ、まるで役目を終えたかのように消えていく。

(このままでは……まだ……)

 胸にぽっかりと穴が開いたような感覚。

 力が足りない。

「おい、大丈夫か?」

 鋭くも、わずかに心配の滲んだ声が響いた。

 カッシュがラフィーナの肩を軽く叩く。

 ラフィーナは、はっと顔を上げた。

 自分の指先がまだほのかに温かい。

 だが、黄金の光はすでに消え、冷たい夜の空気が肌を刺す。

 まるで、温もりが離れていくような感覚に、不安が胸をよぎった。

「私……」

 戸惑いに震える唇を開きかけたが、それどころではない。

 意識を取り戻さないレオノールを見て、すぐに思考を切り替える。

「それよりも、レオフィア様を……!」

 ラフィーナは素早くレオノールの体に手を添え、呼吸を確かめた。

 胸の上下がかすかに動く。

 息をしている。

 それだけで、安堵の溜息が漏れた。

 しかし、彼の体は異様なほど冷たい。

 氷のような冷たさが、指先から腕へと伝わり、まるで自分まで凍えてしまいそうになるほどだった。

 彼女が持つ力は、聖女の力と呼ばれるもの。

 それでも今の段階では、誰が見てもただの治癒魔法に過ぎない。

 出血は止まったものの、完全に治ったわけではなかった。

 このまま放置すれば、命を繋ぎ止めた意味がなくなる。

 一方、カッシュは応急処置のために素早くポーチを開き、包帯を取り出した。

 手慣れた動作で傷口に当てようとする。

「待ってください!」

 必死な声に、カッシュの手が止まる。

「レオフィア様は女性です。私がやります」

 真剣な目で見つめられ、カッシュは一瞬きょとんとしたが、すぐに納得したように肩をすくめた。

 静かに包帯をラフィーナに手渡し、一歩後ろへ下がる。

「そうか。なら、頼む」

 ラフィーナは小さく頷き、ゆっくりと深呼吸をした。

 震えを押さえながら、レオノールの服の裾に手をかける。

 止血をしっかりと行うには、傷口をしっかり巻かなければならない。

 意を決して、布を裂くようにして服を開いた。

「え……?」

 指が止まる。

 視線が傷口から外れ、胸元へと向かった。

 頭が真っ白になる。

 見間違いではない。

 息が詰まる。

 心臓が跳ねた。

 指先が震え、体が強張る。

 思考が追いつかない。

 今まで見慣れていたはずのレフィアの体。

 しかし、そこにあったのは女性のものとは異なる骨格。

 しっかりとした筋肉のつき方、そして何より――。

 ラフィーナの思考が追いつかない。

 自分の目を疑いながら、震える声で呟いた。

「レオノー……ル?」

 その名を耳にした瞬間、カッシュの表情が一変する。

「今、なんと言った?」

 ラフィーナは言葉を詰まらせたまま、カッシュの顔を見上げた。

 カッシュは彼女が口にした名前の意味を即座に理解する。

 レオノール――。

 それは本来、ここにいるはずのない人物の名だった。

 カッシュはすぐさまレオフィアの顔に視線を戻し、改めて観察する。

 今まで感じていた違和感が、すべて一本の線につながった。

「レオノール、だと?」

 押し殺した低い声が、静まり返った空間に響く。

 彼は反射的にレオノールの肩を掴み、軽く揺さぶる。

「おい……レオノール!」

 しかし、何の反応もない。

 呼びかけても、瞼は閉ざされたままだった。

(問い詰めるのは後だ。今は、こいつを助けるのが先決だ)

「このままここに置いておくことはできない。俺の家に運ぶ」

 カッシュは無言でレオノールを抱えたまま、夜の闇の中を進む。

 その背中を、ラフィーナが迷いなく追いかけた。

 吹きすさぶ夜風が、冷たく二人の頬を撫でる。

 道の先に灯る街灯の光が、微かに彼らの影を伸ばしていく。

 しかし、レオノールの意識は戻らないままだった。

読んでいただきありがとうございます。感想など頂けたら嬉しいです。

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