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こんな裏設定があるなんて聞いてない!裏設定を知ったオレは悪役令嬢の婚約破棄を目指します。  作者: 雪野耳子


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32/69

ここで会うのは想定外です。

 レオノールは、薄暗い部屋の中で男たちに囲まれていた。

 酒場の奥にある、埃っぽい小部屋。

 壁には古びた棚が並び、使い古された木製の机が一つ置かれている。

 室内には酒と煙草の匂いが染み付いており、換気がまるでなされていないことが窺えた。

(……なるほど、ここが面接会場ってわけか)

 薄汚れた机の向こう側に座る男――『親方』と呼ばれた太った男が、レオノールを値踏みするように眺めている。

 その隣には、さっきカウンターにいた女店員が、腕を組んで壁にもたれかかっていた。

 数名の手下と思われる男たちが部屋の隅で待機しており、全員がこちらに鋭い視線を向けている。

「……で、嬢ちゃん」

 親方は肘をつきながら、にやりと笑った。

「誰の紹介でここに来た?」

 レオノールはあえて間を置き、適度に困惑した表情を作る。

「紹介ってほどじゃないけど、"ここに来たら仕事をもらえる"って聞いてね」

 ぶ厚い指で机を叩き、低い声で囁くように言った

「ふぅん……誰から聞いた?」

「さあ、酒場で噂になってたから……」

 男たちは顔を見合わせる。

 その反応を見て、レオノールは確信した。

 彼らは確実に裏で何かやっていると。

「なるほどな」

 親方はゆっくりと椅子から立ち上がるとレオノールに近づいた。

 太った男の脂ぎった笑みが、不快なほどゆっくりと広がる。

「悪いが、うちは『信用できる』嬢ちゃんしか雇わねえんだよ」

 その瞬間、背後から両腕をがっしりと掴まれた。

 レオノールは表情を変えず、静かに状況を分析する。

(……そうくるか)

 最初から仕事の話などするつもりはなかったのだろう。

 彼らの目的は、『金になりそうな人材』を捕らえること。

 つまり、レオノールは彼らの基準では『売り物』として選ばれたということだ。

 親方はゆっくりとレオノールの顎を持ち上げ、にやりと笑った。

「……いい顔してるじゃねえか」

 レオノールは殴りたい衝動に駆られたがグッと堪える。

(ぜってぇ、後でその顔面、ぶん殴るっ!)

 親方はゆっくりと目を細めながら、レオノールの肩をぽん、と叩いた。

「……案内してやれ」

 親方が顎をしゃくると、男たちはレオノールを乱暴に引きずるようにして部屋の外へと連れ出した。

 地下へと続く階段を降りるにつれ、空気はどんどん湿り気を増していく。

 レオノールは歩を進めながら、鼻を突くような鉄錆びの匂いを感じ取っていた。

 かすかに水滴が落ちる音がする。

 壁は粗末な石造りで、ところどころに苔が張り付いている。

 これは、明らかに普通の仕事場ではない。

(……なるほどね。大人しく捕まったのは正解かもしれない)

 警戒を強めながらも、レオノールは表情を崩さない。

 隙を見て逃げるつもりだったが、監禁場所がどこなのかを確認してからでも遅くはない。

 鉄格子の扉が開く音が響いた。

 男の一人が乱暴にレオノールの肩を押し、薄暗い部屋の中へと放り込む。

「ほらよ、新入りの仲間だ」

 鍵が閉まり、男たちの足音が遠ざかる。

 レオノールは軽く息を吐き、ゆっくりと部屋の中を見渡した。

 ――そこには、すでに数人の男女が閉じ込められていた。

 皆、薄汚れた服を身にまとい、不安げに身を寄せ合っている。

 暗がりの中、縮こまったまま動かない者、膝を抱えて震えている者、虚ろな瞳で天井を見つめている者。

 彼らはすでに希望を失いかけているようだった。

 ふと視線を巡らせると、赤茶色の髪の女性が端のほうに座っているのが目に入った。

(……ジットと同じ髪色……もしかして、あの人が姉さんか?)

 確信はないが、可能性は高い。声をかけようか迷っていると、ふいに息を呑むような気配がした。

「……レフィア様?!」

 驚きに満ちたその声に、レオノールは振り返る。

 そこにいたのは――ラフィーナ・エヴァレットだった。

 ラフィーナは口を開いたまま、何かを言おうとするが、声が出ない。

 ただ、目を丸くし、信じられないといった表情でこちらを見つめていた。

 思わぬ人物の登場に、一瞬、頭が追いつかない。

 夜の闇に紛れて単独行動していたはずの自分が、こんな場所で彼女と出くわすとは。

(……いや、どうしてラフィーナがここに?)

 ラフィーナも驚いた様子で、目を丸くしてこちらを見ている。

 顔にはうっすらと疲労の色が見えるが、無事なようだ。

 レオノールは目を瞬かせる。

「ラフィーナ……本当に、君か?」

 ラフィーナはしばらく言葉を失っていたが、やがて震える声で答えた。

「どうして……レフィア様が、こんなところに?」

 レオノールはため息をつき、肩をすくめる。

「そっちこそ、どうして?」

 レオノールが問いかけると、ラフィーナは少しバツが悪そうに視線を逸らした。

「それが、その……友達がね、仕事を探していたの。でも、一人で面接に行くのが不安だって言うから、一緒に来たのよ……そしたら、こんなことに」

 ラフィーナの隣には、彼女と同じくらいの年齢の少女が怯えた表情で立っていた。

 おそらく、彼女がその「友達」なのだろう。

(まさか、そんな偶然が……いや、偶然じゃないかもしれない)

 冷静になって考えれば、裏で人身売買をしている連中が、「仕事募集」と称して女を集めるのは不自然ではない。

 そして、ラフィーナたちはその罠に引っかかってしまったというわけか。

「……大変だったわね」

 レオノールは安心させるように優しく微笑むと、改めて部屋の中を見回した。

 レオノールは軽くため息をつき、改めて部屋の中を見回した。

 赤茶色の髪の女性を含め、全部で六人。

 ラフィーナとその友人、ジットの姉(と思われる女性)、そしてその他の男女三人。

 この人数を連れて逃げるとなると、ちょっと骨が折れそうだ。

(さて、どうしたもんか)

 レオノールは壁にもたれかかり、少し思案する。

 その様子を見ていたラフィーナが、心配そうに問いかける。

「……レフィア様は、どうしてここに?」

 彼女にしてみれば、貴族の令嬢であるはずのレフィアが、こんな場所にいること自体が不可解なのだろう。

 レオノールは軽く肩をすくめて答えた。

「……ちょっと人を探していたの」

 それ以上は言わなかった。

 ラフィーナがどこまで知っているのか、どこまで巻き込んでいいのか、慎重になるべきだったからだ。

 しかし、ラフィーナはそれ以上は追及せず、小さく頷いた。

 まるで「わかりました」と言わんばかりに。

(……察しがいいな)

 レオノールは心の中で苦笑しつつ、目の前の状況を整理する。

 現在、監禁されているのは 六人。

 自分の身一つならすぐに脱出できるが、全員を無事に逃がすには慎重な計画が必要。

 監視の数や、周囲の構造を把握する必要がある。

(まずは情報収集だな)

 レオノールは、部屋の中の他の囚われ人たちに向き直った。

「ねえ、この部屋にどのくらい閉じ込められてる?」

 一人の青年が、怯えたように答える。

「お、俺たちは三日前に……。昼間は飯を持ってくるだけで、夜は静かだ」

「夜は静か、か……」

 つまり、今が最も動きやすい時間帯かもしれない。

(こっそり鍵を奪うか、それとも……)

 レオノールが思案を巡らせていると、不意に 足音が響いた。

 重く鈍いブーツの音が、石造りの床を踏みしめながら近づいてくる。

 それと同時に、鉄扉が軋む音がした。

「おい、新入り。親方が呼んでる」

 低く荒々しい声が響く。

 レオノールは目を細め、ゆっくりと立ち上がった。

 ――どうやら、行動を起こすタイミングがきたようだ。

(……さて、ここからが本番ってわけだな)

 背後にいる仲間たちの無事を確認し、静かに歩みを進める。

 扉の外には、武器を持った男たちが待ち構えていた。

(どうやって出し抜いてやるか……楽しみにしてろよ)

 レオノールは静かに笑みを浮かべ、男たちの前に立った。



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