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こんな裏設定があるなんて聞いてない!裏設定を知ったオレは悪役令嬢の婚約破棄を目指します。  作者: 雪野耳子


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20/69

剣を交えたら、なぜか仲良くなりました。

 午前中は王宮でのダンスの稽古、午後は家に戻り領地経営の勉強。

 いつも通りの一日だったが、今日は思ったより早く勉強が終わった。

 そこでレオノールは稽古場へ向かい、剣の訓練をすることにした。

 あの市場での出来事から一週間。

 レオノールは通常の稽古に加え、密かに自主訓練をしていた。

 護衛がいるとはいえ、いざという時に自分の力で身を守れるようになりたい。

 木剣を握りしめながら、あの日のことを思い返す。

 カッシュたちが来なければ、命の危険はなかったにせよ、怪我は避けられなかっただろう。

 その思いが、木剣を振るう手に力を込めさせた。

 剣を構えた瞬間、手が自然に動いた。

(竹刀と感覚は違うけど、基本は一緒だよな)

 中学時代の剣道の記憶が、意識するまでもなく体に染みついているのを感じる。。

 しばらくの間、型を確認しながら木剣を振っていたが―――。

「おや、稽古中ですか?」

 不意にかけられた声に、レオノールは驚いて振り向いた。

 そこにいたのは、まさかの人物。

 カッシュだった。

(え!? こんなタイミングで!?)

 驚くレオノールをよそに、カッシュはゆったりと歩み寄ってくる。

「音が聞こえたので気になってね。病弱だったと聞いていたが、ずいぶん元気そうじゃないか」

(まずい……! どっちで会うか決める前に、レオノールの姿で出くわしちまった!)

 今さらレオフィアに変わるわけにもいかない。

 つまり――選択の余地なく、レオノールのままでカッシュと対面することになった。

「まあな。当主教育の一環だから、やらないわけにはいかない」

 そう言うと、カッシュは興味深げにレオノールの剣を眺めた。

「せっかくだ、手合わせしないか?」

 突然の申し出に、レオノールは思わず言葉に詰まる。

「いや、最近は魔法の訓練が中心だったし、剣はそこまで得意じゃないから……」

「ふうん? それにしては、随分といい動きをしていたように見えたが?」

「いや、それは……」

「もしかして、怖いのか?」

(くそっ……煽りやがって)

 カッシュは挑発するつもりではなく、純粋にレオノールの実力を知りたがっているのだろう。

 だが、それが逆に負けず嫌いの気持ちを刺激する。

(……やってやろうじゃないか)

「……わかった」

「いい返事だ」

 カッシュは木剣を構え、レオノールもそれに倣う。

 互いに間合いを取り、静かな空気が流れる。

 そして―――カッシュが動いた。

 一瞬で距離を詰め、鋭い一撃を放つ。

(速い!)

 レオノールは反射的に身を引き、受け流す。

 カッシュの木剣は力強く、無駄な動きが一切ない。

(さすがだな……でも!)

 レオノールは前世の剣道の感覚を思い出し、相手の動きを見極める。

 カッシュが次の攻撃を繰り出した瞬間、レオノールはステップで横に回避し、相手の木剣の軌道を外す。

「はっ!」

 思い切って木剣を突き出した。

 バシッ!

 レオノールの木剣がカッシュの脇腹に軽く触れる。

 一瞬の沈黙。

 カッシュが驚いたように目を見開き、次の瞬間、豪快に笑った。

「ははっ、やるじゃないか!」

 レオノールは息を整えながら、木剣を下ろす。

「……まあ、たまたまだ」

「いや、そんなことはない。君、結構やるじゃないか」

「たまたまだって」

 カッシュは納得したように微笑むと、木剣を肩に担ぎながら振り返る。

「今日は楽しかった。また機会があれば手合わせしよう」

「……ああ」

 カッシュはそのまま歩き出し、稽古場の出口へ向かう。

 しかし、足を止め、ふと振り返った。

「あ、そうだ。一つ言い忘れていた」

 カッシュはニコッと笑い、何気ない口調で続けた。

「この間は帽子で分からなかったが……髪が長かったんだな。一瞬、レオフィア嬢かと思ったよ」

「っ!」

 レオノールの心臓が跳ね上がる。

 稽古の邪魔にならないように髪を結んでいたが、それでも似ていると気づかれてしまったのか?

 誤魔化せなかったのだろうか?

 ドキドキしながら、カッシュの言葉を待つ。

 カッシュは少し考えるように視線を上げ――ふっと、微笑んだ。

「でも、レオフィア嬢なら、もっと可愛らしく微笑んでくれるだろうな」

 そう言って、カッシュはニヤリと笑う。

「……なっ」

 レオノールは思わず言葉を詰まらせた。

 からかうような口調だったが、その奥にある本音を見抜くことはできない。

 ただ、妙な視線の理由が少しだけ分かった気がした。

「……それはどうも」

 皮肉混じりに返すと、カッシュは愉快そうに肩をすくめた。

「じゃあな、レオノール。また近いうちに」

 そう言い残し、カッシュは軽やかに去っていった。

 レオノールはその背中を見送りながら、ゆっくりと髪を撫でる。

(……誤魔化せたよな……)

 僅かに残る動揺を抑えつつ、木剣を握り直す。

 カッシュとの奇妙な縁が、今後どう転ぶのか――それはまだ、誰にも分からない。

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