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「とにかく、今は仕事中だから帰ってくれ」
「でも……」
「いいから」
口をもごもごさせている足立の手を引っ張り、強制的に立たせる。
身長が百八十センチ近くあり、恰幅のいい体を持ち上げるのは骨が折れた。
「頼む。助けてくれ、高階」
大きな手のひらを合わせると、足立は頭を下げた。
盛り上がった筋肉で、スーツの肩がぱつぱつになっている。
「……何を。俺はもう辞めた身だぞ」
「課長が殺された」
驚愕が喉に突き刺さり、歩は言葉を失った。
足立は懇願する目で、歩をじっと見つめている。
「俺、逮捕されるかもしれない」
混乱する頭の中で、記憶が走馬灯のように駆けめぐる。
袖をそっと引かれて、歩はようやく我に返った。
「社務所でお話を伺いましょう。事情がおありのようですから」
落ちついた表情で、桃香は静かに言った。