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桃香は物すごく可愛い、魅力的な少女だ。
性格もよく、期間限定のアルバイトである歩にも打ちとけられるよう、話しかけたり気遣ってくれている。
けれど、本音を言うと、そんなものは必要ないのだ。
とにかく歩は放っておいてほしかった。一人にしてほしかった。
なぜなら、もう、うんざりだからだ。
感情に振り回されるのも、他人と関わるのも。
「高階?」
呼ばれた声に顔を上げて、歩は目をみはった。
スーツ姿の男性が、真っ青な顔で棒立ちになっている。
「足立か」
「久しぶり。よかった。本当に神人になってたんだな、お前」
なぜか泣き笑いの表情で、足立当真はこちらに近づいてくる。
歩は無意識に一歩下がり、彼と距離をとっていた。
「神人じゃない。ただの下働きだよ。何の用だ?」
神人とは、主に沖縄で神に仕える巫女を指す言葉だ。
神社で働く下働きの人間は、神人と呼ぶらしい。
神の人だなんて大それた名前をつけたものだと、最初聞いたときには思ったものだった。
ただ、漢字の読み方より、歩が気になったのは足立の表情だった。
とにかく真っ青で、生気がないというか、見ているだけでぞっとするものがある。
「よかった。よかった……」
足立はその場に座り込み、うわごとのように繰り返している。
「何がよかったんだよ。いきなり来て」
「お客さんですか?」
声を聞きつけたのか、社務所から桃香がやってきた。
その姿を見て、足立ははっと息を呑んだ。
桃香の顔から目が離せないらしく、文字どおり釘づけになっている。
ややこしいことになりそうな気配がして、歩は眉を寄せた。