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無邪気に桜を喜べるのは、その後に地獄の掃除が待ち受けていることを知らない人間だけだ。


歩がこの神社に住み込みの下働きとして雇われたのが三月の末ごろ。


まだ一月も経っていないのに、既に嫌気が差していた。


だが、彼女はいつも上機嫌だった。


歩より確実に若く、遊びたい盛りであろう年ごろの美少女が、想像以上に地味で肉体的にもきつい巫女という仕事をなぜ選んだのか理解不能だった。


「お疲れさまでした。少し休憩します?」


ゴミ袋が五袋ほどになったタイミングで、声をかけられた。


歩は頷き、社務所のほうへ足を向ける。


「高階さんが来てくれて本当よかったです。私とおばあちゃんだけじゃ大変なことになってました」


おばあちゃんと呼ぶのは谷口梅子(たにぐち・うめこ)で、御剣神社のもう一人の巫女だ。


地元では知る人ぞ知る有名人で、『神通力の巫女』と呼ばれているらしい。


ただし、最近は目や耳が弱くなり、体のあちこちが痛むとのことで、ほとんど表に姿を見せなかった。


歩も、ここで雇われることになった際、一度挨拶をしたくらいだ。


玄関口で麦茶を飲み、用意してくれた梅干しのおにぎりを一つ食べる。


「ごちそうさまでした」


歩が両手を合わせて頭を下げると、彼女は「おそまつさまでした」と言って、じっと歩を見つめる。


「高階さんって、陸上競技をされてますか? マラソンとか」


唐突な指摘に、歩は目を丸くした。


「……何で」


思わず素の表情で、つっけんどんに問い返してしまう。


彼女は「当たりですか?」と頬に手を当てて笑った。


「毎朝走り込みをしてるし、フォームがすごく綺麗なので。一般的なランナーではなく、きちんと指導を受けて正しい型を身につけた人だなと思って。それに」


歩の左手首を指すと、そこだけ肌の色が白かった。


「半年以上前から会社勤めをされていないのに、腕時計の形に日焼けの跡があります。ランナーの方は走るときにランニングウォッチをつけるので、こんなふうになると聞いたことがあります」


歩が反射的に立ち上がると、玄関口に座っていた彼女がぎょっととした。


「もしかして……怒らせちゃいました?」


歩は首を横に振ると、素っ気なく言った。


「掃除の続き、行ってきます」




















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