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「……もういいですよ。利用されたのは分かりましたけど、俺の役目は果たせたみたいなので。あと、お金とかも要らないです」


「高階さん、本当に」


「もう謝らないでください。大丈夫ですから」


話しかけた小詠を、歩は強い口調で遮った。


「これから、ここはどうなるんですか?」


強引に話題を転換すると、口を開いたのは成瀬だった。


「御剣神社はしばらくの間、閉めざるを得ないだろうな。けど、神主は引き続き東さんが引き受けてくださるし、月参りの神事は続けていく。ほとぼりが冷めたら、一般参拝も開始できるだろう」


歩が小詠を見ると、察したように口を開く。


「あんな事件があった後ですし、新しい巫女を雇うのは厳しそうなので、しばらくは私もお手伝いしようと思います。さすがに、ここにはもう住めないですけど」


「お二人のご実家も神社なんですよね。たしか……」


「はい。氷鏡神社(ひかがみじんじゃ)といいます」


国見市の北、山の上にある神社だという。


成瀬家はそこにあり、小詠は戻って氷鏡神社の巫女を務めつつ、御剣神社にも通うということだった。


「小詠さんはそれでいいんですか。普通に就活もしてたんでしょう」


歩が尋ねると、小詠はばつの悪そうな表情をする。


「はい。もともと大学を出たら企業に就職するつもりで、内定もいただいてたんですけど……蹴っちゃって。どうせ殺されるんだろうなって思ってたから、その後のことは考えてなくて」


小詠は桃香より四つ上で、今年の春まで大学生だった。


桃香と梅子の失踪を目の当たりにして、就職先を放り出し、桃香になりすまして巫女生活をしていたのだから、この先の展望も何もないというのが本当のところだろう。


「しばらく巫女をしながら、自分に何ができるのか、何がしたいのか考えようと思います」


本来なら社会人一年目、新卒に当たる年だ。


そんな大事な人生の節目を棒に振って、後先考えず危険に身をさらすというのは、よほど自暴自棄になっていたのだろう。


まるで、御剣神社に初めて来たときの自分を見るようだった。


「小詠さん。俺は神様は信じてないし、俺なんかの言葉に説得力がないのも分かってます。

ただ、一つだけ言わせてください。


あなたは霊能力も神通力もないのに、依頼者の方の話を聞いて、驚くほど正確に真実を言い当てた。

社会や企業のことをある程度知らないと分からないようなことも含めてです。


あなたは多分、熱心に企業研究や就職活動をしていたんだと思う。

それに、北橋杏奈さんのときのように、困っている人に敏感に気づいて、手を差し伸べていた。


あなたはその力で、多くの人を救うことができると思う。

それが巫女でなのか、他の職業でなのかは分からない。けど、そのことだけは間違いないと、自信を持って言えます。


俺はこれから就活して、人生を再スタートしたいと思います。

だから、あなたもご自分が納得できる人生を送ってください」


「……はい」


小詠の目は、かすかに潤んでいるように見える。


歩は立ち上がって一礼した。


「今までお世話になりました。ありがとうございました」






















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