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――時遡(トキサカ)――  作者: 素通り寺(ストーリーテラー)
第四章 呪いを打ち破れ!
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第三十七話 絶望の未来

※この物語はフィクションです。実際の施設や出土品とは一切関係ありません。

 突線袈裟襷紋銅鐸とっけんけさだすきもんどうたく


 矢野町遺跡から出土し、重要文化財に指定されているそれは現在、徳島県文化の森総合公園内、県立博物館に秘蔵されている。当然軽々しく扱える代物ではなく、持ち出して調べるには様々な手続きをクリアしなければならない。ここに駆け付けてから館長と県の職員に話を通し、レントゲン機械の乗ったトラックを呼び寄せて、ようやく銅鐸の調査を始められたのは、もう陽も傾きかけた時間だった。


「でも、よくあれで銅鐸って気づきましたね」

 未来君が調査を見守りながら大荻(おおおぎ)さんにそう問う。確かにあの魔法陣の少女のリアクションだけで銅鐸の型を想像するのは普通の人では難しいだろう。

「まぁ、これでも銅鐸マニアだからね、私は」

 なんでも彼が発掘員として一躍有名になったのが、この矢野遺跡での銅鐸の出土だそうだ。なのであの地に案内された時から、彼の頭はどうしても銅鐸のことを考えてしまっていたのだ。


「ひょっとしたら・・・・・・ほんな事も計算の内で、あの子は現れたんやろうか」

 思わず勘ぐってしまう。仮にあの場に向かったのが私と未来君だけなら、その秘密が銅鐸にあるなんて想像できなかっただろう。あえて大荻さんまで巻き込んで、こちらが答えを出せるように状況を誘導されたかとすら思う。


 銅鐸を横倒しにした状態で内部を調べる。目で見てもその裏面に何かが描かれている様子はない。だたよく目を凝らすと、わずかに表面を走るデコボコが見えている。

「X線撮影機器、入ります!」

 現在は劣化などにより肉眼では確認できない当時の姿も、X線を使った機器での撮影でなら浮かび上がらせることが可能だ。機械技師が突貫で作った棒状のレントゲン撮影機を銅鐸の内側に差し込んで、周囲に放射線が漏れないようにカバーで覆った後、二度三度、カシャ! という撮影音が響く。

 その映像をトラック内に転送してモニターに映し出した時、私たち一同は「おおおーっ!」と声を上げずにはいられなかった。


 そこに描かれていたのはまさに記録のための壁画だった。片側には荒れ狂う大河(おそらく吉野川)に流される家や集落と、それを鎮める為に祈る人々の姿が記されていた。

「これって、あの資料館の壁画の・・・・・・」

 天野君と水原さんが顔を見合わせて頷き合う。矢野資料館の職員だった彼らはこの絵を知っていた。でも一つだけ違う所がある、そこには人身御供として流されている子供たちの姿が無かったのだ。代わりに人々は小さなお面のようなものを川に放り込んでいる。

「これって、やっぱりあの陶器?」

「多分、間違いないだろうね」

 七海(ななみん)の言葉に大荻さんが頷く。さっき資料館で見て、未来君が手に取った瞬間に呪いの魔法陣が発動した、あの三つ穴の焼き物、やっぱりあれは人身御供として川の神に捧げられる子供たちの身代わりアイテムだったのか。


 そして、反対側の面に描かれていたのは、川とは対照的な山の絵だった。そしてその頂上には、まるで狼のような一頭の獣が、頭上の満月に向かって遠吠えをするかのように天を向いている姿が描かれていた。

 そして山の麓からその獣に向かって一直線に道が伸びている、その(たもと)にはやはり大勢の人が祈りを捧げるように(ひざまず)いており、その道の中腹には数人の子供が列を成して、山頂の獣に向かって登っていく様が見えていた。


「これって、もしかしてあの子供達?」

 魔法陣から現れた七人の子供達、もし彼らがこの絵の獣に捧げられる”生け贄”だとするなら・・・・・・

「ほな。この獣が、おおかみさま(・・・・・・)!?」

「十分に在り得るね、古来より日本では狼は八百万の神の中でも『大神(おおかみ)』の名で崇められていたからね」

 大荻さんが私の言葉に応えてそう返す。西洋の狼は恐怖の象徴であり、数々の童話でも悪者として描かれる事が多いが、日本では神獣のひとつとして扱われるのが一般的らしい。


「でもなぁ、だとしたらこの子達、狼に食い殺されてた、って事だよな」

 水原さんの言葉に全員が身震いする。現代の現実的な見方をするなら、山に捧げられたこの少年少女はその後、野犬(オオカミ)の餌食になってしまったに違いない。今では考えられない信仰が人の命を無為に散らせる行為は、馬鹿げている以前に時代の違いによる狂気すら感じさせた。


 どどっ、と音がした。見れば未来君が尻もちをついて倒れ込んでいる、その表情は真っ青に染まり、口を開けたまま小さく震えている。

「ちょ、未来君、いけるん(大丈夫)せこい(苦しい)?」

 慌てて彼の元にかがみ込んで肩を抱く、彼は身を縮めながら震えていた。私は彼を助け起こしてその場を離れ、近くのベンチに座らせる。


 そうだ、うかつやった。彼は動物が苦手なんやったのに、ほんな動物に食べられるなんて話は彼にとって一番怖い話題なんや。ましてや彼の真面目な性格を考えたら、ほれはまるで自分の事のように・・・・・・


 -ねぇ、かわってよ―


 全身を冷気の氷柱(ツララ)で射抜かれたような衝撃が走った! そう、あの子たちは確かにそう言っていた。食い殺される自分たちと、『かわって』とお願いされていたんだ、私と、そして今は、未来君が。


 つまりそれは、もし未来君の呪いが解けなければ、やがて彼はこの『おおかみさま』に――


「心配せんでええけん、絶対にそんな事にはならへん、その為にみんな頑張っとるんやけんな」

 怯え切った表情の未来君の肩をつかんで、おでこをくっつけてそう励ます。そんなんあかん、ほんな事にさせたら絶対にあかん、なんとしてもそれだけは止めなんだら、絶対に!



 たとえ私が、もう一度その呪いを受けることになってでも。


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