ひまわりと僕ら
「ひまわりが見たい」
「え?」
それは本当に突然だった。ぽつりと聞こえた君の声に手元の漫画から視線を外し、隣を見る。君は読んでいた雑誌を閉じ、僕の顔を見た。
「ひまわり畑が頭に浮かんだの」
君はそう言って窓の外を見た。外はチラチラと雪が降っている。
「寒すぎて夏が恋しいのかな」
君の言葉にそうかもねと返事はしたものの、僕は内心慌てていた。
ソファーからすっくと立ち上がる。どうしたの? という表情をしている君に僕は答えた。
「探しに行こう! ひまわり!」
中心街に向かって二人並んで歩く。君にああ言ったものの、冬空の下に出て、肌を刺すような冷気に現実を突き付けられた気がした。
今の君と僕との関係って一体何なのだろう。
『これからも変わらず遊びにおいで』
君の両親の言葉に甘えて、幼馴染という関係を続けている。
「ねえどこに向かってるの?」
「……うん? 本屋」
君の何てことのない一言に鼻の奥がツンとして、ワンテンポ遅れて返事をした。
「あ、これは? じゃん! ひまわり!」
風景の写真集を手に取り、ひまわり畑のページを開いて、君に聞いてみた。
君はじっとそのページを見つめている。
「この景色見たことある」
そう言った君は、目をキラキラさせていて純粋で、本当に嬉しそうで、僕はまた鼻の奥がツンとした。
「……花屋さん行ってみない?」
君の提案にえ? と小さく声が出た。
「ひまわり畑が難しくても、本物のひまわりが見たい」
ひまわりが見たいと言った、あの日の君の無邪気な顔と重なった。
「あ……」
これで何軒目の花屋だろうか。やっぱり冬に夏の花だなんて無いよな。そんなことを思いながら、店内に入った僕の目を惹いたのは、探し求めていたひまわりだった。可愛らしい小輪のひまわり達がこちらを見ている。
「あったね」
君が顔を綻ばせた。
「うん」
僕が決めつけていただけだったと思い知る。何事も最初から無理だと決めつけていたら駄目なんだ。雪の降る冬空の下、確かにひまわりが綺麗に咲いている。
……君の失われた記憶も絶対に取り戻せる。恋人だったことを今は忘れているかもしれない。でも僕に、僕らの大切な思い出の花……ひまわりが見たいと言ってくれた。
「買って帰ろう」
「うん」
帰ったらあの日みたいに、ひまわりに見守られながら、もう一度伝えてみようか。
「好きです」