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魔王でない魔王は力を求める  作者: 斗樹 稼多利
18/22

魔王でない魔王、新たな標的の下へ


 格闘家のソウコクに続いて、大剣豪のヤリュウダイジロウにも勝って喰らってやった。

 転がっていたトロールとかいう、デカいだけの魔物もついでに喰らったらその場を離れ、今は手持ちの肉と酒で祝宴中だ。


「おら! ガンガン飲め、ガンガン食え、んでもって歌って踊れ!」

「食べはしますがお酒は飲みませんし、歌って踊りもしません」

「あむあむ……同じく」

「んだよ、ノリ悪ぃな。酒くらい飲んでもいいじゃねぇか」


 転生者の女がいた世界には、酒を飲むのや女遊びするのに法的な年齢制限があるようだが、こっちにはそんな頭の固い法律なんざねぇんだからよ。

 単にまだ早いって言われるだけで、明確に禁止されている訳じゃねぇ。

 つうことは、何歳だろうが酒を飲んで女と遊んでもいいってこった。


「というか、いつの間にお酒なんて買ってたんですか」

「前の町でちょろっとな。こっちの酒は美味えぞ」


 転生者の女が言うところの日本酒に当たる、ヤマト酒ってやつだ。

 甘口と辛口があるが、キレのある辛口が俺には合うぜ。


「まったくもう。そういえばメイランは、だいぶ力を制御できるようになったね」

「あむあむ。うん、もう力に飲まれて暴走はしない」


 随分と苦労はしたがな。

 まあこっちとしちゃ、暴走する度にしばいて気絶させた後で、罰としてその晩は徹底的に楽しませてもらったから気にしないぜ。


「それにしても、大剣豪をああもあっさり倒しちゃうなんて」

「父上との戦いも直に見てましたけど、本当に規格外ですよね」

「あいつらが弱いんだよ」


 所詮は魔王に勝った集団の内の一人だ、一対一ならあんなもんだろ。

 手応えとしちゃ、ソウコクと似たようなもんだったな。

 だがあいつを喰ったお陰で、戦闘で使っていた「逸器刀千いっきとうせん」や「森羅万象」といった技を習得できた。

 完全に使いこなすにはちょっと練習が必要だが、実際に使っていたあいつの経験を利用すれば問題無い。


「あむあむ……んぐ。ところで、次は誰のところに行くの?」


 次か。残るは勇者と重戦士と聖女と賢者と魔導師と暗殺者の六人。


「近いのは聖女のいる国だったか?」

「そうですね。現在地からすると、聖女メルシアンがいる聖教国ソワールが近いですね」


 聖教国ソワールに関する知識……あったぜ。

 王家や貴族も含め、国民のほとんどが聖女の所属する宗教、ローツ教の信者の国か。

 だからといって政治に宗教が関わることなく、一定の距離を置いているのは、建国者でありローツ教の開祖が政治と宗教を別物として扱う遺言を残したから。

 それもあって聖女や教皇であろうと政治に介入はせず、あくまでローツ教の幹部として働いているのみ。

 まあ正直、国や宗教の事情なんて知ったこっちゃねぇ。

 肝心なのは聖女自身の力だ。


「聖女自身の力は、さほど大したことねぇんだ、今回のは楽勝だろう」


 ソウコクとヤリュウダイジロウの記憶によると、聖女は攻撃力が皆無らしい。

 得意なのは怪我や病気を治す治癒、消耗した体力を戻す回復魔法、防御魔法、能力を強化する付与魔法、それと死霊系に特化した浄化魔法。

 規模が大きく効果が強力だから聖女と呼ばれているようだが、その程度の力なら俺の敵じゃねぇ。


「んぐ……油断大敵」

「そうですよ。ローツ教の総本山なら、たくさんの教護きょうご騎士もいるでしょうし」


 教護騎士……ああ、ローツ教所属の騎士団か。

 つっても素人に毛が生えた程度の似非騎士団だろ。

 やってることだって教会幹部の護衛や炊き出しの警備、それと教会内での見回り程度じゃねぇか。

 その程度の名ばかり騎士団なのに、信者達へ威張ってるって勇者達に愚痴ってる聖女の姿が、ソウコクとヤリュウダイジロウの記憶にあるぜ。


「こりゃあ油断じゃねぇよ、余裕だ余裕。んな似非騎士が何人いようと、俺の敵じゃねぇ」

「……それもそうですね」

「本職すら相手になってないしね」

「だろ?」


 仮に国中の信者が敵対して一斉に襲いかかってきても、切り抜ける自信があるぜ。


「そうなると問題は、どうやって聖女自身と会うかですが……どうせ力づくでしょう?」

「ったりめぇだろ。今さら何言ってやがる」


 焼けた肉を食い千切りながら、当然のことを肯定する。

 邪魔する奴はぶっ飛ばして、防壁かなんかがあったらぶっ壊して、力づくで聖女の下へ辿り着くだけだ。


「そういえば、聖女には不出来な双子弟妹がいると聞く。あむ」


 うん? ああ、確かにそんなのがいるって記憶があるな。


「その子達って、僕やメイランさんと同じだったりしませんかね?」

「あん? 優秀な姉貴への劣等感から、力を欲してるってのか?」

「あくまで推測ですけどね」


 可能性は捨てきれねぇな。

 ソウコクとヤリュウダイジロウの記憶によると、聖女は能力だけでなく内面まで聖女らしいようだ。

 だから聖女によって劣等感を与えられることはねぇだろうが、周囲の勝手な評価で劣等感を覚えているかもしれねぇ。

 ソウカイだった頃のソウファンもそうだったが、周りってのは何故か英雄の身内にまで、英雄同様の能力を求めるからな。

 まあそのお陰で、こいつらのような遊び道具の連れができたんだから、悪くねぇ。

 もしも本当に聖女の弟妹が力を求めていたら、力をくれてやって楔で遊び道具を増やすか。


「ねぇ、いいの? こいつの性欲の被害者増やして」


 おいコラ指差すな。

 それと何被害者面してやがるんだ、俺はちゃんとテメェらに力をやったじゃねぇか。

 代償と考えりゃ、安いもんだろ。


「……負担、減るよ?」

「前言撤回する。ガンガン増やして負担を減らそう。蛇は……嫌ぁ……」


 くははははっ、そういう魂胆か。

 だがそう甘くねぇぞ。

 色んなのを喰らった分、性欲も精力も強化されてるからな、一人や二人増やした程度じゃ今までと変わらねぇぜ。

 後でその事を分からせるため、言わないでおくか。


「んで? 聖教国はどっちの方角だ?」

「あっちです」

「……また直進?」

「当たり前だろ。その方が早いんだからな」


 何があろうが力づくで突破すりゃいい話だ。


「構いませんが、この方角へ直進すると死の谷がありますよ」

「なんだそりゃ」

「聞いた話だと、死霊系の魔物が住み着いている深い谷だそうです。昔は罪人の処刑に使っていたみたいですけど、死霊系の魔物を増やさないために今は使われていないとか」


 ほう、なかなか面白そうな場所じゃねぇか。

 つうことは死霊系の魔物が食い放題ってこった。

 そいつらは欲望のみで動いているし、意思がある奴は怨みや憎しみに染まってるから、死霊系は魔王の力を強化するのに向いてる。

 普通の奴らには厄介な死霊魔物も、俺にとっちゃ最高の餌でしかねぇ。


「よし、決まりだ。聖女の前にそこへ行くぞ」


 たっぷり喰らって力の糧にしてやる。


「また勝手に決めてるし……」

「そういう人とはいえ、一切の躊躇が無いなんて‥…」

「テメェらのいい修行にもなるだろ?」


 なにせ数は多いし死ににくいから、いくらでも修行できるぜ。

 喰らえば再生できずに倒せるが、その前にこいつらの力を強化するために利用させてもらうか。


「普通はそんな所で、修業しようなんて思いませんよ!」

「こいつは普通じゃないから、仕方ない」


 テメェらもとっくに普通じゃなくなってるけどな。


「とにかく決定だ。異議は認めねぇ」

「どうせ聞く気も無いくせに」


 分かってるじゃねぇか、その通りだ。

 さて、ボチボチ酒も肉も無くなってきたか。


「そろそろ祝宴もお開きにするか」

「ですね」

「じゃあ、明日に備えて寝」

「つーわけで、二次会の開催だぁっ!」


 魔王技 ―色欲の無限触手責め―

 さらにおまけで蛇バージョンだ!

 こいつを二人に絡みつかせ、持ち上げて動きを封じる。


「だああぁぁぁぁっ! 結局これですかっ!」

「だから蛇はやめてって! いやあぁぁぁっ!」


 聞く耳持ちませーん。

 んじゃまっ、二次会をおっぱじめるぜぇっ!



 *****



 ヤリュウダイジロウ殿の部隊をトロール討伐へ向かわせて既に五日。

 三日前に現地へ到着したという一報を受けて以降、一切連絡が入らない。

 ふと頭によぎるのは、ヤリュウダイジロウ殿と共に勇者の仲間として戦い、魔王討伐に貢献したソウコク殿がチャニーズ帝国で行方不明になっている事件。

 未だに死体すら見つかっておらず、我が国へ協力要請が届いたほどだ。

 盟友が行方不明とあってヤリュウダイジロウ殿は不安そうだったが、お役目があるため向かわせることは出来なかった。

 しかし今回のトロール討伐が済めば、その褒美として帝国からの要請を受け、向こうへ行かせようと考えている。

 それなのに連絡が入らないとは、何やら嫌な予感がする。


「殿、如何なされましたか」

「うむ、トロール討伐に向かわせた部隊からの連絡が入らないため、少々不安でな」

「確かに連絡が遅いですな。よろしければ、人を向かわせましょうか?」

「……頼む。何やら嫌な予感がする」

「はっ。誰かあるかっ!」


 爺が調査の手配をし、人を向かわせている間も不安が杞憂であってほしいと願ったが、それは叶わなかった。

 数日後に届けられた報告は、ヤリュウダイジロウ殿を含めて部隊全員が行方不明という、ソウコク殿の方で起きた事件と同じものだった。


「なんということだ……」

「殿、お気を確かに!」


 思わず頭を抱えてよろめいたのを、爺に支えられる。


「それは確かなのかっ!」

「はっ! 現地にて戦闘の痕跡と血痕と破壊された防具類を発見しましたが、部隊の者はヤリュウダイジロウ殿を含めて肉片一つ見つからず、トロールすら姿かたちがありませぬ。念のため周辺の村落や町にて聞き込みましたが、それらしき人物やトロールを見たとの情報もありません」


 バカな、あれほど大勢の人や大柄の魔物が、まるで煙のように消え失せたというのか。

 まさかこれが世に言う、神隠しという現象なのか?


「現在も現地へ残した者達が、手掛かりを見つけるため調査を継続しています」

「くっ。チャニーズ帝国のソウコク殿に起きた事件と、まるっきり同じではないか」

「これが何者かの手による物なら、同一犯ということでしょうか?」

「だとしても、一体何がどうなっているのか、見当もつかん!」


 皆が騒ぐのも仕方ない。

 なにせ国の英雄が他国の英雄と同じ形で行方不明になったのだ、これが一大事でないはずがない。


「爺、チャニーズ帝国へ連絡を取れ」

「帝国へですか?」

「今回の件はソウコク殿の事件と同じ。ならば向こうとこちらの情報を照らし合わせる事で、何か新しい発見があるやもしれん。そのためには、帝国との協力が不可欠だ」


 なるほどと頷いた爺が、他の者達と共に帝国へ連絡を取るべく動き出す。

 一方では分からなかった事も、同じ事例を照合すれば何かが見えてくるかもしれぬ。

 確か帝国では、大量の龍が住まう山脈でも同じ事例が起きたと聞く。

 ひょっとすると、既に何か掴んでおるかもしれん。


「並行して情報収集を継続しろ。御庭番を総動員して、行方不明になった者達の手掛かりを探すのだ」

『はっ!』


 とにかく今は情報収集が肝要だ。

 皆の者、どうか無事であってくれ。

 だが何日経っても有益な情報は入ってこず、それどころか別の一報がもたらされた。

 かつて我が国の処刑場として使い、死霊系魔物の巣窟となった後は使用が禁止されていた死の谷。

 そこから、全ての魔物が消え去ったという一報が。


「それは誠かっ!」

「はっ! 我が家名に懸けて、嘘偽りない真実でございます!」


 馬鹿な、一体何が起きたのだ。

 あの谷はいつからだったか、強力な死霊系魔物が住み着き、そいつによって死霊系魔物の巣窟である死の谷と化した。

 当時の将軍は事態を重く見て討伐隊を送ったが失敗。

 逆に死体を利用されて死霊系魔物を増やしてしまったため、地上へ出ないよう谷底への道を破壊して閉じ込め、以降は監視することしかできずにいた。

 しかも監視のために建てられた砦も崩壊状態で、そこへ詰めていた者達も戦闘の痕跡と血痕と破壊された防具を残し、誰一人残っていないというではないか。

 目の前にいる報告を届けた者は、その砦の交代要員だそうな。

 原因が死の谷にあるのではないかと調べたところ、魔物が全て消え失せたのを確認したらしい。


「殿!」

「ああ、明らかにヤリュウダイジロウ殿の件と同じだ」


 帝国とは既に、この件に関して協力する話がついている。

 もう何日かすれば向こうの使者が来て、情報共有と再度の現地調査を行おうとしていた所へ、この一報か。

 死に谷から魔物が消え失せたのはありがたいが、人的被害が出ている以上はそれで良しとはできん。


「とにかく、急ぎ調査せよ。それと帝国との話し合いに、この件を加えるものとする。よいな!」

『はっ!』


 まったく、本当に一体何が起きているというのだ!


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