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魔王でない魔王は力を求める  作者: 斗樹 稼多利
15/22

魔王でない魔王、猫娘を加える


 目が覚めたらそこは山の中だった。

 しかも誰かに担がれて運ばれているみたい。


「おっ、気づいたか」


 誰に担がれてるのかと思ったら、力をくれたお兄さんか。

 右肩に私を乗せて、腰の辺りを抱えるように支えてくれてる。


「随分な寝坊だな、丸一日気ぃ失ってたぞ」


 気を失っていた?

 そうだ、思い出した。

 私はこの人から貰った魔道具から得た力で、惨めで屈辱な日々を送った町を徹底的に破壊して、消したくとも消えない過去への憂さを晴らしたんだ。

 なんかちょっと変なテンションになっていたけど、後悔は無い。


「そんなに気絶してたんですか?」

「力に飲まれて力に振り回されて力を使い切ったからだ。だがまあ、面白いもんは見れたから特別に運んでやってるんだ、感謝しろよ」


 よく分からないけど、心の底から感謝している。

 なにせ、あれだけの力をくれたんだから。


「はい。力をくれたことも含めて、ありがとうございます」


 右腕には貰った魔道具が外されずに残っている。

 これさえあれば、またあの力が……うん? なんかちょっと腕に肉が付いたような?

 いえ、それだけじゃない。

 肌と髪が幾分か綺麗になってるし、服も変わってる。

 スラムで配布されて着ていたボロ服じゃなくて、肩から先が丸出しで深いスリットの入ったチャイナ服になってる。


「あの、この服は?」

「テメェの服は体が変化した時に破れたから、ソウファンのを適当に着せた。その時に体も適当に洗っといたぜ」


 これは連れの褐色肌のお姉さんの物か。

 というか適当に洗ったって、何勝手に人の裸を見てるの!

 まだ幼くて出るとこ出てないとはいえ、乙女の裸体をなんだと思っているの!

 いえ待って、ひょっとしたら体を洗ったのはお兄さんじゃなくて、お姉さんの方かも……うん?


「どうして、お姉さんも担がれているんですか?」


 何故か褐色肌のお姉さんも、お兄さんの左肩に担がれて運ばれていた。

 しかも肌がツヤツヤして、元気溌溂とした様子のお兄さんと違って、まだ日も高いのにやたら疲れてない?


「君が寝ている間にね、色々あったんだよ、色々ね」

「色々、ですか?」

「そうなんだよ。むしろ君は、気絶してて良かったかも」


 気絶してて良かったって、どういう意味なのかよく分からない。

 一体何があったのかな。


「くははははっ、気にすんな。こいつはちょっとばかり躾をされて、足腰立たなくなっただけだからよ」

「あれを躾と言い切るのは、この世であなただけです!」


 躾って、お姉さんはどんな躾をされたの?

 そもそも、足腰が立たなくなる躾ってどんな躾なんだろう。

 想像もできずに首を傾げていると、お兄さんが悪い人がするような笑みを浮かべた。


「おっ、どんな躾か気になるか? なんだったら、この後で体験させてやろうか?」

「やめてくださいよ、こんな真昼間からあんなことするのは!」


 そういうやり取りをされると、余計に気になる。

 あんなことって、どんなことされたんだろう。


「まあそれはそれとして、起きたんなら飯でも食いながら説明してやるよ。俺らのこととか、お前のことをな」

「はぁ……」


 その場で肩から下ろされ、何も無い空間からお肉を大量に取り出して、それを焼いている最中に聞かされた話は衝撃的だった。

 お兄さんがどういった存在か、お姉さんがどういった存在か、ここまでの道中で何をしてきたか、力を得た私がどれだけ大暴れしたのか、腕に付けている魔道具の力の一部を無意識のうちに体へ留めたことで少し成長したこと、気絶している間に楔とやらを打ち込まれてお兄さんに逆らえなくなってしまったこと、そしてトドメとばかりに魔道具の対価を利子付きで請求された。

 支払い方法は勇者の仲間の一人でこの国の英雄ソウコクさんの子供の一人、元はソウカイって名前のお兄さんだったのがお姉さんにされたソウファンさんが、実体験を語って教えてくれたんだけど、足腰が立たない躾ってそういう系の躾だったの!?


「このド変態!」


 こんな人に敬語を使うことはない。

 今後はソウファンさんにだけ敬語を使おう。


「なんとでも言え。こちとら施しや善意で力をやったんじゃねぇんだ、対価はしっかり払ってもらわねぇとな」


 くぅ、あれだけ騙されそうになったり、唆されて連れて行かれそうになったりしたのに、どうしてこの人からの力は安易に受け取っちゃったんだろう。

 しかも故郷を滅ぼして両親を奪った魔族の関係者から。

 こうなったら、手放すのは惜しいけど魔道具を返して早めに手を切るしかない。


「これは返……あれ、外れない!?」


 どういうこと、まるで体の一部になっているようにくっ付いて外れない。


「それはもう二度と外れねぇよ。その中にあった力の一部を、無意識にしろお前が自分の中に留めちまったから、完全に一体化しちまってるよ」


 な、なんだってー!

 ド変態ことクーロンさんの説明によると、私の力を求める強い意志が無自覚に魔道具へ込められていた力の一部を自分の中に留めたことで、それを取り戻そうとする魔道具と一体化してしまったらしい。


「使った素材が魔物由来の物だけだから起きた現象だな。安心しろ、別に体に害はねぇよ」

「そういう問題じゃない!」

「つうか、返品不可だから返されても受け取り拒否だ」

「うわあぁぁぁぁん! とんでもない悪徳商法に引っかかっちゃったー!」


 仮に一体化していなくとも、この人は私を手放す気なんてこれっぽっちも無いんだ。

 ていうか、楔とかいうのを打ち込まれてるから、返品できても離れられないじゃない!?


「そんなに私の貧相な体を弄びたいんですか、このド変態!」

「あぁっ? 貧相なの気にしてんなら、存在に干渉して体つきを変化させてやろうか?」


 えっ、そんなことできるの?


「まあそれくらい、簡単に出来るでしょうね。男だった僕を、こんな姿にしたくらいですから」


 そういえばソウファンさんは、元はソウカイさんっていう人間の男性だったっけ。

 今は魔人族とかいうのになった女性だけど、そんなことが出来るなら体つきを変化させるくらい簡単か。


「当たり前だ。つうか、お前もちょっとばかり外見変わってるぜ」

「はい?」


 ちょっと変な声で反応した後、なんか豪華な見た目の装飾剣を鏡代わりに顔を確認させられると、髪の色がいつのまに銀色になって瞳は真っ赤になっていた。

 猫耳はそのままで角は無いけど、これって魔族の特徴じゃない。

 ひょっとして私も、魔人族とかいうのになっちゃったの?


「おそらくは力を自分の中に留めた影響だろう。最初は元のままだったが、徐々に変化してそうなったぜ」

「これ、種族的には僕と同じ魔人族になるんですかね?」

「角が無くて猫の耳はそのままだから、魔猫族でいいじゃね?」

「適当感が満載!?」


 はぁ、驚いたり怒ったりで疲れたからもういいや。

 とりあえずお肉が焼けたから、久々のお肉を堪能しよう。

 うん、美味しい。

 何のお肉か分からないけど、やっぱりお肉は至高ね。


「あっ、その肉の代金も対価に上乗せしとくからな」

「横暴!?」

「ったりめぇだろ。俺が自分で食うために狩ったんだ、なんもしてねぇなら対価ぐらい支払え」


 飲食店が代金を請求するのは当然といった感じに聞こえるけど、この人の場合はそれすらも横暴に聞こえる。


「……そういう人なんです、クーロンさんは」


 苦労してますね、ソウファンさん。

 いえ、これからは苦労仲間です。

 そんな苦労仲間のソウファンさんから髪と目の色を元の状態へ変化させる方法を教わり、その他にも色々と話を聞かされていると、クーロンさんからは拾ったという身分証を返してもらった。


「私のこれも、ソウファンさんのように偽造したの?」


 この人は魔王技とやらで身分証を作る魔道具を食べ、身分証の内容に干渉して変更させ、偽造することができる。

 そうやって自分のやソウファンさんの身分証も、内容を偽造したらしい。


「んなことしてねぇよ。テメェは正規の手順で町を出たし、暴れたのはその後で正体もバレてねぇ。偽装する必要はねぇだろ」


 それもそうか。

 という訳で、私の名前は元のメイランのまま。

 別に偽名にしてもいいけど、変える必要が無いなら構わない。

 あっ、そうだ。名前はともかく、それ以外に変えたいものがあった。


「あの、体つきを変化させるという話は……」

「ん? あぁ、飯を優先して忘れてたな。ほれ、やってほしいならちょっとこっち来い」

「分かった。希望としては……」

「んなもん誰が聞くか、俺が勝手に決める」

「やっぱりいいわ」

「まあまあ遠慮すんな」


 遠慮してるんじゃなくて、あなた任せにするのが嫌なの!

 個人的希望としては、スレンダーなまま長身になるのを望んでいる。

 というのも、猫人族はしなやかかつ柔らかい体を活かすためか小柄な人が多い。

 私も半分とはいえその血の影響か、昔からチビだった。

 だから長身になりたいと願っているのに、クーロンさんに腕を掴まれて、そのまま変化させられた体は……。

 背丈は今のまま、胸とお尻だけ大きくされたアンバランスな体型だった。


「どうして希望を聞かずに、こんな体型にするんですかっ!」


 ああもう、胸は服から零れ落ちそうだし、お尻も服からはみ出そうだし。

 ていうか下着を身に着けてないから、両手で隠してないと色々見えちゃうじゃないの!


「貧相なのを嫌がってたから、それが望みかと思った」

「勝手な解釈をしないで! あわわっ!?」


 危うく胸が両方とも零れ出すところだった。

 ぐっ、こうなったらお尻のガードは諦めよう。

 このチャイナドレス姿なら、やや前傾姿勢になっておけば背後に回り込まれない限り、正面からは隠すべき箇所が見えないはず。


「くははははっ。どうだ、貧相な体が育った感想は」

「私はこっちを大きくするよりも、背丈を伸ばしてもらいたかったの!」


 そりゃまあ、育ってくれるのなら育ってくれた方が良いとは思っていたけど、これは育ちすぎ!

 大きければ良いという訳じゃないんだから!


「ああそうかい」


 聞く耳を持つ気が全く感じられない!? 


「こんな体じゃ、男達の厭らしい視線が集まるのが目に見えてるじゃない」

「安心しろ。俺の傍にいりゃ手を出す奴はぶっ飛ばすし、そもそも今のお前の力なら大抵の奴は返り討ちだ」

「だとしても、嫌なものは嫌なの!」


 守ってもらえるような言い方に一瞬キュンとなりかけたけど、騙されない。

 この程度で心変わりするほど、私はチョロくないんだから。


「ほらメイランさん、せめてこのマントで体を隠して」

「ありがとうございます」


 苦労仲間になるソウファンさんの優しさが心に染みる。

 今でこそ女性になってるけど、もしも男性のままだったらちょっとだけ心惹かれたかもしれない。

 とりあえず受け取ったマントを纏って、零れそうな胸とはみ出しそうなお尻を隠しておく。

 少なくともこれで、外見上はマントを纏った半猫人族の乙女よ。


「おいおい、せっかく人が盛ってやったのに隠すなよ」

「盛るとか言わないで!」


 こんなことしなくとも、後々育つ予定だったのよ、多分おそらくは。


「もうこの体についてとか、対価とかどうでもいいから好きにしてください。それよりも、これからどこへ何をしに行くんですか?」

「今のところは勇者の仲間だった大剣豪ってのをぶっ飛ばして、その後は魔王技で喰らって力の糧にするつもりだ」


 勇者の仲間だった大剣豪って、まさかヤマト共和国のヤリュウダイジロウさんのこと!?

 そんな人を相手に戦うつもりなのっ!?

 って、確かクーロンさんはこの国の英雄のソウコクさんを倒して、魔王技とやらで食べちゃったのよね。

 だったら同じ事をヤリュウさんにすると言うのも、大言壮語じゃないか。

 しかも勇者とその仲間達への復讐とか、魔王の敵討ちとかじゃなくて、単に力を得るための手段としてそれを実行しているのが信じられない。


「で、そうやって勇者やその仲間を全員食べちゃった後はどうするか、考えてるんですか?」


 どうせ後先考えずにやってるに決まってる。

 それを示すように、ソウファンさんも苦笑い浮かべてるし。


「ったりめぇだろ。テメェ、俺をバカにしてんのか?」


 えっ、考えてたの?


「クーロンさん? 僕はそんなの聞いてませんよ?」

「言ってねぇからな」


 連れにくらいは言いなさい。

 ああほら、ソウファンさんいじけてるじゃないの。


「だったら教えてよ。その後はどうするの?」

「どっかにいる強い奴を探したり、新たな強い奴が現れるまで適当に旅したりするつもりだ」

「「意外と普通でまとも!?」」


 思わずソウファンさんと同時に叫んでしまった。

 でもそれくらい驚きだった。

 だってこの人のことだから、どうせくだらないことや無茶苦茶なことを言うと思ったんだもの。


「文句あんのか?」

「ありません!」


 力強いソウファンさんの言葉に同意する意思を伝えるため、私は何度も頷く。


「ちっ、ならいいんだ」


 いいならどうして舌打ちしたのっ!?

 まさかこの人、文句を言ったらその場で予定を滅茶苦茶なものにするつもりだったの?


「文句を言ったら、転生者の女の知識から得たエロダンジョンってのを、テメェらを実験台にして実現してやろうとおもってたのによ」


 セエェェェェェェェェェフッ!

 超超超セエェェェェェェェェェフッ!

 わざと聞かせたような大きな独り言に、私は思わず心の中で叫び、両腕を真横へ広げた。

 ソウファンさんも同じポーズをしているから、同じ気持ちみたい。


「なんてことを考えてるんですかっ!」

「くははははっ。お望みなら、予定をそっちにしてやってもいいぜ」

「「嫌です!」」

「くははははっ。冗談だ、冗談」


 冗談に聞こえない冗談はやめなさい!

 はぁ、力を貰ったとはいえこんな人に同行しなきゃいけないなんて。

 やっぱり世の中は甘くないんだね、お父さんお母さん。

 そして私はこの日の夕食後、歓迎会の名の下に力の対価を徴収された。

 この触手ってのやだぁっ! 蛇だけは、蛇だけは駄目なのぉっ!


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