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魔王でない魔王は力を求める  作者: 斗樹 稼多利
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魔王でない魔王、力を実感させる


 凄い、凄い、凄い凄い凄い!

 たった一撃で僕より大きくて強そうな男達が吹っ飛んで、痛みに悶絶している。

 あんなに弱くて、周りから笑われていた僕がっ!

 これがクーロンさんのくれた、力!


「はぁっ!」


 思いっきり力を込めた回し蹴りが相手の脇腹に決まって、何かが折れる感触が伝わってくる。

 これが肋骨を折った感触なのか。

 力を貰う前の僕の蹴りじゃ、砂入りの革袋を少し揺らすのが精一杯だったのに、今の僕は相手を破壊できるほどの蹴りを放てる。

 力を与えられた時に力が湧いてきた感覚はあったけど、実際に使うとそれをより実感できる。

 拳で下顎を突き上げたら骨が砕けた感触がある。

 脂肪の厚い腹に拳が深く突き刺さる。

 肘打ちで硬そうな鎧が窪んで、相手が吐血する。

 相手の動きをとても遅く感じて、見てから反応しても余裕で対処できる。


「せいっ!」

「ぐっ!?」


 振るわれた剣を掻い潜って懐へ潜り込み、胸元へ正拳突き。

 また骨を折った感触が手に、腕に、体中に伝わってくる。

 ああ、気持ちいい。

 やばい、他人を破壊する感覚に酔いしれそうだ。

 こんなに強い力を得られるなんて、クーロンさんには感謝だよ!

 代償は大きいけど、それで得た力がこれなら文句は無い。

 約束通り欲しかった力をくれたんだ、これが今の僕の力だ!


「はあぁぁっ!」


 あぁぁぁぁぁっ、凄いよ。

 まさか僕がこんなに強い力を得て、自分より大きくて強そうな相手を圧倒できる日が来るなんて。

 色々とクーロンさんに文句は言ったけど、こんな強い力をくれたことには心の底から感謝しよう!


「こ、こんなバカな、この人数でガキ一人、しかも女に負けるはずが」

「せいやあぁぁっ!」

「なっ!? いあぁぁぁっ!」


 最後の男の頬へ拳を叩き込んで地面に転がしたら、立っているのは僕とクーロンさんだけにだった。

 今の感触、ひょっとしたら顎の蝶番が割れたかも。

 ……きっっもちよかったあぁぁぁっ!

 まさか他人を破壊するのが、こんなに快感だったなんて。

 本来ならこんな感覚に溺れるべきじゃないんだろうけど、この感覚で得られる快感に抗えない。

 手足に伝わる、今までにない感触に心が歓喜してる。


「どうだ、俺のやった力は」

「最高です!」

「ふん、当然だ。それだけの代償を払ったんだ、相応の力は備わってるさ」


 相応どころじゃない、まさかこんなに強い力を得られたなんて。

 これだけの力を得られたのなら、今までのクーロンさんの所業を全て許して受け入れてしまいそうだ。

 それだけの価値が、この力にはある、


「もっと、もっとこの力を試したいです!」

「そうでなくっちゃな。だったら道中で魔物がいたら、頼むぜ」

「分かりました!」


 うん? なんか体よく押し付けられた?

 まあいいか、この力をもっと使ってみたいのは事実だし。


「で、この人達はどうします?」


 ギルドでコケにされたお礼参りに来たハンターと、その仲間達は地面に蹲り、僕に破壊された箇所を押さえて悶えている。


「放っておけ。こんなのに構ってられるか」

「いいんですか?」

「たかがガキ相手にお礼参りする連中だ、助ける義理はねぇだろ」


 ……それもそうか。

 向こうから襲って来たのを撃退したのに、わざわざ治してあげる必要も、助けを呼ぶ必要も無いよね。


「いでぇよ、助けてくれよぉ……」


 大の大人が泣きながら頼んでも、クーロンさんは連中へ汚物でも見るような目を向けている。


「たかが骨が折れたくらいで大げさなんだよ。俺達を襲った代償としちゃ、軽いもんだ」


 確かに。

 魔王技とやらで喰われないだけ、この人達はまだマシだ。

 というか、この人達は食べないのかな?


「謝る、謝るから助けてくれ。金が欲しいならやるし、もう手は出さないから、頼む!」


 助けてくれって言ってるけど、この人の怪我は右肩の骨が砕けているだけで、脚はなんともない。

 帰ろうとも思えば自力で帰れるし、無事な左肩を動けない仲間に貸すことだってできる。

 それなのに助けを求めるなんて、見た目によらず情けない。


「知るか。金なんかいらねぇから、勝手に帰りやがれ。行くぞ」

「はい」


 相手を突き放し、背を向けて歩き出すクーロンさんの後を追う。

 後ろから聞こえる、なお助けを求める声を聞き流しながら横に並んだら、気になっていたことを尋ねる。


「彼らは触手で食べないんですか?」

「アホか。同じことが連日起きたら、騒ぎが大きくなるだろうが。それに顔の汚ねぇおっさんとは、ギルドでいざこざを起こしたんだ。行方不明になったら、俺らが疑われるかもしれねぇだろ」


 食べない理由は分かったけど、アホは余計です。


「くそっ、無視するんじゃねぇよ! ファイアボール!」


 うわっ! 助けを求めておいて、不意打ちで魔法を放つとか何考えて――。


「甘めぇ」


 わー、火魔法の中じゃ弱い部類のファイアボールとはいえ、腕を振るっただけで掻き消しちゃったよ。

 不要な心配だったのはいいけど、熱くないのかな? 熱くないんだろうね。

 というか、クーロンさんならこれくらいできて当然か。

 なにせ魔王でないとはいえ、魔王の力の持ち主なんだから。


「ま、魔法を片腕で……」

「化け物かよ……」


 化け物どころじゃないよ、この人は。

 魔王の複製体で、魔王が持っていた知識と力を持っていて、魔王が習得していなかった魔王技っていうのを習得しているんだから。

 怪物とか化け物なんて範疇に収まる人じゃないんだよ。

 例える言葉を選ぶとしたら……災害かな。

 少なくとも僕にはそれ以外、当てはまりそうな言葉が思い浮かばない。

 ああそれと、夜の行いに関しては性獣とか淫獣だね。


「おい、見逃してやるんだから大人しくしてやがれ」

「ひ、ひいっ……」


 睨まれた相手の顔が引きつって、恐怖から漏らしてみっともない姿を晒している。

 さっきまでの威勢はどこに行ったんだろう。


「今の分は、ちょっとお返ししとくわ。ロック」


 ロックは朝に使ったアクアと同じく、使う魔力の量によって大きさは変化するものの、思い通りの形状の石を出すだけの魔法。

 クーロンさんは自分の頭上に石材のように分厚く、それでいて石畳のように平たい石を作り、片手でそれを支える。

 そしてほらよと言いながら、その人の上に放って石の下敷きにした。


「うおぉぉっ! 重い、出してくれ~!」

「御自慢のお仲間にでも頼みな」


 そう言って去って行くクーロンさんの後を追う。

 さすがにもう不意打ちはしてこなくて、後ろからは助け出そうとしているものの、僕が負わせた怪我のせいで苦戦している声がする。

 ……以前の僕なら、悪いことしたかなって思って手助けしただろうけど、今は不思議とそんな気が湧いてこない。

 やっぱり襲ってきた相手だからかな?

 それとも、力を得たことで僕自身の内面にも変化があったのか。

 まあどっちでもいいか、仮に僕に変化あったとしても、それで変化した僕も僕だ。

 力を得たのなら内面にも変化は出るだろうし、力を得られるのならそれくらい受け入れる。

 とっくに代償を払っているんだ、今さらそんなのを恐れるつもりは無い。


「クーロンさん、力をありがとうございます」

「ハッ、今さら礼かよ。まあいいが、あの程度をぶっ飛ばして満足してんじゃねぇぞ」

「力は求める限り、いくらでも得られますからね」

「そうだ、それでいい。もっと力を求めろ、もっと強くなれ」

「はい!」


 もっと強く、もっと力を。



 *****



 多少振り回されている感はあったが、やっぱりあの程度のクソ雑魚共には問題無かったか。

 まあ、与えた力からすりゃ、あれくらいやれて当然だ。


「そういやヤリュウって剣豪がいるヤマトまで、どんぐらい掛かるんだ?」

「歩きだと一ヶ月くらいですかね。馬車を使えば半月ぐらいです」


 なげぇよ。

 ついソウコクの記憶と知識でも確認したが、普通に歩けば確かにそれくらい掛かりそうだ。

 だがそれは、ちゃんとした道を歩けばの話だろ?


「道なんか無視してひたすら一直線に進めば、もっと早く着くだろ」

「何を無茶苦茶言ってるんですかっ!?」


 別に無茶じゃないだろう。

 ちょっとした谷や川なら跳び越えて、デカい川は泳いで渡って、デカい谷は触手使って向こう岸へ渡って、崖があれば飛び降りるかよじ登ればいいだけだ。

 魔物や盗賊が立ち塞がるならぶっ殺す、岩山や大樹が立ち塞がるならぶっ壊す、ほらみろ簡単なことだろ?

 なのにソウファンの奴は、それを聞いて頭を抱えてやがる。


「それはそれで無茶苦茶ですよ。なんですか、その力ずくな直進は」

「文句あっか? 文句を通したきゃ、力で俺を屈服させな」

「もっと無茶苦茶なこと言いだした!? 僕の力で、出来るはずがないじゃないですかっ!」

「くははははっ、賢明な判断だ」


 力の差も弁えずに掛かってきたら、昨晩以上のことをして、身の程を思い知らせているところだったぜ。


「ちなみに、それ本当にやるんですか?」

「当たり前だ。むしろやらねぇ理由がねえだろ」

「……そう言うと思いましたよ。ですけど、進む方角は分かるんですか?」

「どっちだ」

「分かっていないのに、やろうとしていたんですかっ!?」


 余計なお世話だ。


「いいから教えやがれ」

「えぇっと、確か向こうの方だったかな」


 うし、そっちか。

 ソウファンが指差した方向へ進路を変え、道を外れてひたすら真っ直ぐ進む。

 途中でゴブリンの巣があったから、力に慣れるのも兼ねてソウファンに潰させて、ギルドへの提出用に体内にある魔石とやらを回収。

 流れの強い川を俺は助走無し、ソウファンは助走付きで跳び越える。

 傾斜のキツイ山道をサクサク登って、反対側の高い崖から飛び降りて山越えは完了。

 飛び降りる時にソウファンが煩かったが、あの程度で騒ぐんじゃねぇよ。


「死ぬかと、死ぬかと思いました」

「あの程度で死ぬか」

「普通は死にます!」


 とっくに普通じゃなくなってるくせに、何言ってやがるんだ。


「ゴブリンの集落へ単身で突撃させられた時もどうなるかと思いましたけど、今の飛び降りも大概ですよ」


 何が突撃させられただ。

 千体程度のゴブリンとその上位種共、特にゴブリンキング程度に怯え腰だったテメェのケツを蹴って叩き込んだだけだろうが。


「よく言うぜ、集落じゃ喜々としてゴブリン倒しまくってたくせに」


 最初のうちは文句を言いながら蹴散らしていたのが、途中から楽しそうになっていて、終盤ではヒャッハーとか叫びながら笑顔でゴブリンキングをボコ殴りにしていた。

 そりゃあもう、これ以上ないくらいに楽しそうにな。


「いや、あれは単に変にテンションが上がってしまっただけで」

「だとしても、楽しんでたのは事実だろうが」

「うぅぅ、否定できない……」


 いいぜいいぜ、良い感じに力に溺れてるじゃねぇか。

 力への欲求と渇望を求め続けるには、力を実感して溺れるのが一番だからな。


「それにしても、あんなに高い所から飛び降りて怪我一つしないなんて」

「体の耐久力が上がった証拠だ。あの程度の高さじゃ、骨にヒビすら入らないぜ」

「あの程度って、十五メートルはあったんですけど?」


 そんなにあったか?

 騒ぐような高さじゃねぇから、気にしてなかったぜ。


「なんともねぇんだから、もういいじゃねぇか」

「そういう問題じゃないですよ!」


 だったらどういう問題なんだ。


「はぁ、もういいです。それよりも、日が暮れてきたので野営の準備をしませんか?」

「そうだな。んじゃ、焚き火とか頼む。俺はちょっくら肉を狩ってくる」

「肉をって……食料持ってるじゃないですか」

「あんなんで足りるかよ」


 そもそも新鮮な肉がねぇだろうが。

 道中で狩ったゴブリンは食えやしないし、何か狩らねぇと肉にありつけねぇ。


「そうですか、分かりました。焚き火はやっておきます」

「頼むぜ」


 溜め息を吐きながら了承したソウファンを残して、肉を探しに向かう。



 魔王技 ――色欲の生命察知――



 おっ、割と近くにデカい反応があるじゃねぇか。

 だが何かいるかは近づくまで分からねぇ。

 早速その反応があるへ向かったら、食いでのありそうな魔物がいやがった。

 体は熊で体毛と尻尾は虎、頭部には牛の角と猪の牙を生やした魔物、ベアブルボアタイガー。

 こいつの肉が食えるのは、喰った奴の知識の中にある。

 ちょうどいい、こいつを狩ってやるか。

 おっと、ギルドへ持ち込んで金にできるよう、一撃で首を狩らねぇとな。

 

「行くぜ!」


 不意を突く必要もねぇから正面から躍り出て、咆哮と共に振るわれた爪を避けて懐へ飛び込む。



 魔王技 ――憤怒の獣爪じゅうそう――



 右手に獣如く鋭い爪を魔力で作り出し、その爪で首を一閃。

 頭部は地面に落ちて転がって体を倒れ、切断面からは血が噴き出す。


「他愛ねぇな」


 魔物としちゃ強い方らしいが、俺にとっちゃこんなもんだ。

 さて、さっさと持って帰ってソウファンに解体させるか。

 爪を消して頭を掴み上げ、体は引き摺って帰る。

 あいつのことだから驚くだろうなという予想通り、獲物を見たソウファンは大騒ぎしやがった。

 大げさなんだよ、この程度の魔物で。


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