死因は恐らく尊死である
「ふぉ…フォンディナート公爵令嬢…?!僕何か失礼なことでも申しあげましたか?!」
言ってないです。
ただ尊さに耐えかねて机につっぷして震えてるだけです。
「そっそれか体調でも?!どなたかに…!」
「失礼致します。ガヤーリン子爵令息様。こちらから声をおかけする無礼をお許しください。」
「ひっ?!!」
壁で存在感を消していた侍女に怯えるモブロフ様の可愛さが凶器。
「お嬢様は少しどう話したものか混乱されている様子です。纏まるまで今しばらくお待ちいただけますと…従僕の身でお声をかける無礼、重ねてお詫び申し上げます。」
ナイスフォロー、レナ。
貴方本給アップも考えておくわ。
そうよこれから話さなくてはいけないのですから、どんなところが好きなのか…て。
「え、むり」
思わず頭をあげて呟けば一瞬驚いた後、クシャッと辛そうなお顔をされた。
かわ、じゃなくて!
「わたくしが、好ましいと思うモブロフ様の所、ありすぎて全部言いきれませんわ」
そう誤解を招かないよう、目をしっかり見つめて言えば、じわわっと目もとを赤くされる。
…はぁ〜〜…命の温泉やぁ…
と、思うと同時に、目を逸らされ、どこか辛そうな表情をされる。
「あ、申し訳ありません…許しもないのにお名前をお呼びして…お嫌ですわよね?」
先回りしていえば
「違うんです!そうではなく…」
と言葉を濁される。
「…」
「…」
沈黙がつらい。
色々やらかしてる身だけに色々つらい。
…不思議、沈黙などつらいと思ったことは無かった。はっきりとしない態度に苛立つことはあっても、不安に思うことなどなかった。
—やっぱり、私、モブロフ様が大好きなのね…
しゅん、とする。
するとゆるゆるとモブロフ様が口火を切って下さった。
「フォンディナート公爵令嬢は…とても美しくて…少し、ちょっと近寄り難いですけど、気品もあって、勉強も学年の優秀者でいらっしゃって…」
え?は?天使が褒め殺してきてくださる…!
でもすごく喜びたいのに喜べない!なにか不穏なものを感じるから!
「…最初、リリー令嬢の話、僕は信じてしまいました…僕は前、彼女のことが好きだったんです。相手にされませんでしたけど」
知っています。それを見て惚れ込んだんです!
今思い出しても萌えます…でもなにか、今までになかった胸の痛みが…これは嫉妬?
「リリーれ…そうか、もう大公妃殿下ですね。の話も聞いて。本当だったら死罪になってもおかしくなかったのに、フォンディナート公爵令嬢がとりなされたと聞いて…恥ずかしくなって」
「貴方はこんなに美して優秀で…優しい方なのに、僕は貴方に見合うものを何も持っていません」
とても苦しそうに、告げられた。
その目を見て…
「つまりは私を好きになってくださったということですね?!!!」
きゃほーーーーーーーーーーーー!!!!
と喜びの声を上げて弾けたら、「え゛」と固まられた。後ろで頭を抱えたレナも見えた。
「え?いやいや話聞いてます?!そんなこと一言も…!」
「わたくし自慢じゃありませんけど、ずーっとずぅーーーーーーっとモブロフ様を見てましたの!初めての時はたまたまモブロフ様が告白して振られている所だったんですけれど」
「え゛!!!」
さらに固まるモブロフ様。
ずいっと顔を寄せる。
途端真っ赤に染まる顔。とても愛しい…お顔。
「間違いないですわ。モブロフ様、あの時と同じお顔と目をしてらっしゃるの!」
あの恋しさと切なさを混じえた…いいえ、あの時以上に熱を感じるのは私の勘違いではない!はず。
「私、モブロフ様のことが好きですわ。大好きですわ!どこを一番と言われたら悩んでしまうんですけれど、すぐ転ぶうっかりさんの所もすぐ困った顔なされるところもふにゃっと気が抜けたように笑うところも貴族らしくないところも」
「う!うああ…」
だんだん顔が青ざめるモブロフ様。
それが視界に入りながらも止まらない止められない。
「失敗して落ち込んでも諦めないで訓練される姿も、毎日毎日勉学も努力されて少しずつテストの順位をあげてらっしゃるような努力家のところも」
「え…」
「怪我をしたご友人のために必死になって走られるようなところも、そのためには苦手な教諭に頭を下げられるような優しいところも」
「あっあう」
「全部全部大好きですわ!!まだまだあと三日は語れますわ!!」
「もう勘弁して…」
今度はモブロフ様が机につっぷされてしまった。
唯一見えるお耳は真っ赤。
もうこれだけでお腹いっぱい。
しばらく生きていけます、神様ありがとう。
何よりやっと砕けた口調にニヤニヤしてしまう。
「あと…わたくし、ちょっと謝らなければなりません…」
これだけは言っておかねばならないと姿勢を正す。
「な、何を?」
「わたくし、優しくありませんの」
「え?」
「リリー大公妃のこと…正直押し付けたんですわ。あの名前を言いたくないあの人とまとまってもらえば一番いいわって」
「……わぁ、ぶっちゃけられたー…」
「…モブロフ様は、優しいから。」
「え?」
「リリー大公妃、困ってたら、助けに行ってしまいそうだなって。それでお二人が…恋人にでもなってしまったら耐えられない、と思って…」
「………………」
「嫌いに、なられてしまうかしら。でも誤魔化すのも嫌だったんですわ」
不安になって、行儀が良くないと思っても指先をいじってしまう。
顔をあげられない。
「……えっと、」
「はい…」
「なんか、本当に僕、凄く好かれてたんですね…?」
「あっ当たり前ですわ…!私、最初からずっとお慕いしてるって申し上げておりましたのに…!」
「ごめんなさい!信じられなくて…」
そういってモブロフ様は笑われた。
私の大好きな、ふにゃっと、した笑い方。
—初めて私に見せてくださった…
「やっぱり僕は、貴方に比べたら、何も持ってないです」
「そんな!」
「ごめんなさい、聞いてください」
「…はい」
ふぅ、と深呼吸されて真っ直ぐに見つめられる。
胸がぎゅっと鷲づかまれたように苦しくなる。
「爵位も低いし、貴方に比べたら頭も悪い…もしかしたら、弱いかもしれない」
「でも貴方のために、努力したいと思いました。貴方にずっと僕を好きでいて欲しいから」
「あ、貴方が好きです。よろしければ…僕とこれから、たくさん、たくさんの時間を過ごしてください」
初めて拝見する、真っ赤な、でも紳士で精悍なお顔…
初めて見るお顔に私は…わたしは…
「は、はひぃ…!」
と返事をしたのを最後に気を失った。
あと1話続きます。