派手顔悪役令嬢はモブ男子とお茶をする
「ふっフォンディナート公爵令嬢っ!よければこの後がじぇっ!ガゼボでお茶でもいかがですか?!」
「はい喜んでええエエエエ!!」
率直にやってしまったと思う。
公爵令嬢たる私がどこぞの酒場の店員のような受け答えをしてしまった。(ちなみに行ったことはない。レナと昔下町ごっこをした時に覚えた。)
本当だったら目を潤ませて『はい…』と淑やかに振る舞うはずだったのに。
でもあんなに噛みまくってお誘いをしてくるモブロフ様を見たらダメだった。率直に言って大天使だった。その場で押し倒して既成事実を作らなかったことを褒めて欲しい。
「あ、の!」
「はい!」
「いっいい天気ですね!」
「はい本当に!」
窓の外はゴロゴロ雷鳴がなっているけれど、大天使が言うのであればいい天気に違いないのだ。
反対側では言ったあとに大天使が頭を抱えているけれど。
尊…
ちなみにガゼボに行こうとしたところ、「天気が急変する恐れがある」とレナにとめられ、フォンディナート家が借りているプライベートゾーンのサンルームでお茶をしている。
おかげで外野を気にせずに過ごせるというもの…
「あ、のフォンディナート公爵令嬢」
「ふふ、なんでしょうガヤーリン様」
ソーサーを持つ手が震えてらっしゃる。
かわっ…!
じゃなくて。
「まずはどうぞお茶請けをひとつ召し上がってくださいな。こちら喜んでいただけるかと思って準備してたんですの」
「ふぁ?!はっはい!」
んんんん〜〜!!!!
これは耐えきれるのかしら私…!
可愛いからと言って欲望に負けてはダメ!ドン引き間違いなし!
本当はお茶を飲んで頂く方がよいけれど、うっかり零されてしまったらお着替え美味し…じゃなくて余計に恐縮されてお話できなくなってしまうわ!!!
…着替えイベントはまた後日取り入れればよろしいのよ、うん…
「あ…美味し…」
ポロッと漏らされるようにモブロフ様がつぶやく。
「お口に合いまして?ご一緒に楽しめたらと思って、ご領地近くのお菓子を調べて取り寄せてみましたの」
「は、はい…懐かしいな。最近はあまり領地にも帰っていなかったので」
ふわっと表情を緩められる大天使。
(ふん!!!!)
思いっきり左手の甲をテーブルの下で抓る。
まだよ。まだ倒れる訳にはいかないわ…!
ちなみにこのお菓子は「聖地巡礼!聖地巡礼!!」と騒ぐ私を宥めるためにレナが取り寄せたものである。
なので一緒に食べれなくても私が元々消費する予定だった。
ありがとうレナ…ボーナスは弾むわ…!
ほこほことお茶とお菓子を楽しまれるモブロフ様。
いつもより、素に近い表情で接してくださっている。わたくし、召されそう…
「僕の領地など、遠方の田舎ですし、お知りになってないかと思っていました」
「まぁ…わたくし、ガヤーリン様にご好意を申し上げているんですのよ?好きな方のことは知りたいものではありません?」
「すっ…!!!」
かああああ!と一気に赤面される。
まぁああああああああぁぁぁ!!!
新年会パーティー以降、ことある事にご好意は伝えさせて頂いていましたが、こんな反応をいただいたのは初めてでしてよ!
今までは固まるか、目線をそらすか、顔色を悪くされるかでしたのに…!
「…すいません、あの、失礼だとは思うんですけど…聞いてもいいですか」
赤い顔を必死で隠しながらお話されるモブロフ様。
えぐ!
攻撃力えぐ!
わたくし吐きそう!なんか砂糖とか血とかそんなものを吐きそう尊すぎて!!でも耐えますわだって恋する乙女☆ですからッ!!!
「は、はぃ…なんなりと伺ってくださいませ…」
しまったうっかり声が裏返ってしまった。
まだいける。まだわたくしはいけますわああ
…!!!
となけなしの戦闘力を振り絞って耐えているところ。
「…あの、僕なんかのどこを好きになって下さったのですか…?」
ちらっとこちらを見てすぐに離される目線。
はいわたくししんだ。ごいもしんだ。
通報一歩手前令嬢。
今更ですが、主人公の一人称は
普段気を抜いている時▶私
猫かぶり、気合を入れている時▶わたくし
となっております。
分かりづらくて申し訳ありません。