私のお慕いしている方
「大抵のことは笑って流せるようになっておりますけれど…さすがに今のは受け入れ難いですわ」
「わたくしが?ダグラス王子殿下を慕っている?嫉妬した?」
「そもそも私がどうやったら貴方に惚れるというのです!会ってない!話してないというのに!顔ですら拝見したのいつぶりですかしら?!」
「子どもの頃から貴方をお慕いしたことなんてありまして?!ないでしょう!」
「私が貴方をお慕いしているなんて、とんっっでもない妄言ですわ!!!!」
しーーーーーん、と凍りついた会場。
んん、やっちまいましたわ。でもあちら側の過失が大きいですものね。何とかなるなる。
「だっだがっ…そなた自身が『慕っている者がいる』とほとんどの令息を切って捨てたと」
「だからって何でそれが殿下になるのですか、ありえないでしょう」
「あ、ありえな…?」
「幼少のみぎりより、殿下との婚約だけはないと教えられて参りました。殿下も同じでは?しかもそこからほぼ交流無し。どこでお慕いするんですの?」
「じゃっじゃあお前が慕っているというのは誰なんだ!!!」
やけくそになったように殿下が叫ぶ。
「周りの高位令息はほとんど振ったと聞いたぞ?!まさか婚約者がいる者が?既婚者か?!横恋慕するなぞ恥さらしには違いない!」
「え…?」
ぽっと頬を赤くする。
「「「…え?」」」
そんな、まさか。
「え?え?ここで申し上げますの?いやん!そんなせめて二人っきりでありませんと…」
恥ずかしさから身悶えてしまう。
まさかいきなりそんな公開告白だなんて…
ああでもこうでもしないとモブロフ様とお話する機会なんて得られないかも…!
天啓のように閃く。
恥を晒すくらいなんだというのだ、恥なら既にかきっぱなしの殿下がいるのだ。
行くのよエヴァーレット、女を見せる時よ…!
何やら周りが呆気に取られている気がしますけれど、外野のことなど知ったことですか!
「し、仕方ありませんわ。身の潔白のためでもありますもの。お慕いしている方を申し上げますわ」
もじもじもじもじとらしくなく。
顔を赤らめながらも必死に言い募る。
「わたくしがお慕いしてるのは…」
ごくり。
会場で息を呑む音が響いた。
「モブロフ・ガヤーリン子爵令息ですわ…!!!!」
瞬間空気が凍っていた。
再びの沈黙。
え?だれ?え?子爵?
そんな囁きが聞こえるが、そんなのは無視してただ一人を見つめる。
本当はここに来てずっと只管に見つめていたかった。
話すきっかけを探していた。
大変不愉快極まりない出来事で、なかなかお顔を伺うことも出来なかったけれど。
だから彼がどこにいるかなんて、すぐに分かる。
そっと足を進めれば、人垣が割れる。
胸は先程から爆発しそうなほど高鳴っている。
ああ、ずっと遠くから見ていたあの方にちかづいていってる…!
そしてやがて歩みは止まる。
優雅にカーテシー。
最大限に美しく振る舞うのよ!
「わたくし、フォンディナート公爵家が一女、エヴァーレット・ウルム・フォンディナートと申します。」
「ずっとずっと…貴方を、モブロフ・ガヤーリン様をお慕いしておりました…どうぞわたくしの思いを聞いてくださいませ…!」
顔をあげれば、大好きな方のお顔。
太く、手入れされていない眉、つぶらな瞳。
なんて可愛らしい方…!
他の方からすれば、地味なのかもしれない。
でも私にとって何より愛しくて可愛らしい方…!
そんな方は固まってらっしゃって…
暫くして、ようやくお声を聞かせてくださった。
「は、はひぃ…?」
ああん!もう!だいしゅき!!!