不穏な影?
「そのあと調べたら、好きな子に名前間違えられてるんだもの。それであの神対応よ?もう素敵すぎる!押し倒して困り切った顔を見てみたい!」
「最後関係ないし欲望が溢れてますよ。お嬢様」
ちなみにその後のパーティーは全ての誘いの手を振り払い、ひたすら目的の彼を探した。
(ちなみに断り文句は『お慕いしている方がいるの』で通した。今までにない文句に呆然としているあいだに逃げ切ってやった)
「お嬢様、『お慕いしている方がいる』なんて言うから騒ぎになってますよ。誰なのかって噂が持ち切りみたいです」
「その噂ついでにモブロフ様に伝わったりしないかしら…そしたら思い切ってお話するのに!きゃあ!」
頭に花が乱れさいている。
「…世間では第二王子のダグラス様が最有力候補みたいですよ」
「は?有り得ない」
乱れさいた花がしおれ、冬が来た。
第二王子ダグラス・フェルド・アルカーンは一つ上の学年違いだ。
家柄としては遜色ないが、思い込みの激しい気質などが合わず、それほど親しくもない。
(とはいえ我が家は筆頭公爵家、最低限のお付き合いはしているけれど)
エヴァーレットはフォンディナート家の後継となる。フォンディナート公爵夫妻は仲がよかったが、残念ながら他に子は恵まれなかった。
いずれは婿をとり、夫に仕事を任せるか女公爵として家を継ぐかといったところ。
無論、ダグラスの相手としても考えられたが、国内のパワーバランスをこれ以上傾ける訳にはいかないと見送られた。
ということで有り得ない。
たとえ仮に、万が一に、億が一に、ダグラスを恋い慕ったとしても、認められる婚姻ではない。
(まぁ…本人は昔その話もしたんだし、勘違いって分かってるわよね…?)
周囲は好き勝手に言うかもしれないが、本人は(私もそうだったし)繰り返し説明された事だろうし、間違いだと分かるだろう。
(うんうん、大丈夫大丈夫…)
とは言え…
「気が重くなったわ…寮に帰りましょうか」
「もうモブロフ様のストーキングはよろしいので?」
「ストーキングって言わないで!こっそり街歩きについてって様子みてただけでしょう!」
「それを世間ではストーキングといいます」
ちなみに件のモブロフ青年は友人達と気兼ねなく街歩きをしてたようだ。
それを影から見つめ、今は個室のあるパティスリーで一休みしていたところだった。
ちなみにこの間にも公爵家の影が、青年の後をつけ見守っている。
特殊技能の無駄遣いである。
「でも反省したわ…うっかり遭遇した時の為に着飾ったけれど、この格好では目立つし街歩きには邪魔ね…」
しゅんとしていう姿は普通の世間知らずの令嬢だ。
目的がストーキングでさえなければ。
「次回から変えられればいいでしょう。ほらさっさと帰りますよ。」
「ねぇ私もあなたの主よね…?ときどき不安になるのだけれど…」
「間違いなく主ですから、さっさといってください。あ、お土産買わせていただきました。ホールで。あとで頂きますね私が」
「ねぇ!やっぱり何か違う気がするんだけれど!?」
「…しょうがないですから分けてあげますよ。はぁ…一切れですよ」
「ふ、不敬よ!ちゃんと私のこと敬いなさいよー!」
姦しく立ち去る一行。
それは街中では随分目立っていたのだということを後日知ることになる。
全部で10話未満で完結予定です。