ずっときみと恋をする
「エヴァ、おはよう」
「…お、おはようございます、モブロフ様」
「…どうかな?立ち居振る舞いは結構様になってきたって言われるんだけれど」
「ええ…ええ!前もかわ…素敵でしたけれど、最近は益々精悍になられて素敵ですわ!」
「ありがとう、エヴァ」
にっこりと笑っていえば、エヴァは胸を抑えて顔を真っ赤にしている。
有り体に言って滅茶苦茶可愛い。
あれから僕達は順調に交際と…婚約を調えた。
フォンディナート家は国内勢力として力を持っている。先日の騒動で持ちすぎたほどだ、と言うのがエヴァならびにフォンディナート家の意見らしく、子爵家の三男坊でも問題ないと言われた。
むしろ望ましいとも。
ただしさすがに家格が違いすぎるため、一旦クロヌ侯爵家の養子となり、フォンディナート家に入る形だ。
エヴァは女公爵となる。その配偶者としてフォンディナート家を盛り建てることが今の僕の使命だ。
「日々精悍に素敵になられて…よそのご令嬢が寄り付かないか、不安ですわ」
と心底心配そうにエヴァが言う。
「あはは…有り得ないと思うけど。うーん…今の僕はエヴァのために頑張ってるからね。エヴァなしには君の言う『素敵さ』てのは出ないと思うな」
「わ、私のため…!(はぁ尊死ねる…)」
小声でなにやらつぶやくエヴァを真底愛しいと思う。
自分から「エヴァと呼んで欲しい」とか「敬語を使わないで話して欲しい」とか言うくせに一向に自分がなれないエヴァ。
何か言うと大袈裟に喜んで、「大好き!」を全身で伝えてくれるエヴァ。
僕の婚約者が可愛すぎる。
うん、今日も頑張れそう!
寮から学校までという、とても短い道程をそんなふうに元気をもらって歩くのだ。
「身の程知らずめ…!お前なんてどうせ虫除け程度に使われているだけだろう!」
教材をぶちまけられる。
目の前には憎々しげな顔をした有力伯爵家の令息。昔からフォンディナート家に婿入りしてみせると嘯いていたらしい。
溜息をつきながら教材を集める。
エヴァと付き合い出してから、こんなのは日常茶飯事だ。
フォンディナート家を狙っていたもの、エヴァに懸想していたもの、面白がっているもの…
エヴァは勿論すぐに気づいて、対処しようとしたが僕が止めた。
これは僕の領分だ。
今までなら俯いて自信をなくしていたかもしれない。
でも今は違う。
今の僕にはエヴァが選んでくれたという自負がある。
「今の私はフォンディナート家エヴァーレット嬢の婚約者であり、クロヌ家の者です。日々それに恥じぬよう努力しています」
実際血反吐を吐きそうになるくらい努力している。
今は高位貴族用の会館で勉強をすることになった。今までとは違う内容に戸惑ったが、エヴァの顔に泥は塗れないと必死にだ。
(エヴァが時々心配したり「とうと…!」と叫んだりはしていたが)
その甲斐あって、クロヌ家も元々の友人も「見違えた」と言うくらいにそれらしくなってきている。
背筋を伸ばすことで相手に与える印象が違うことがわかった。
はっきりと話すことで説得力が生まれることが分かった。
「今の私が足りない、ということであれば、私はもっと努力しましょう。エヴァーレット嬢の為に相応しくあるために」
少なくとも家目当てのボンボンに譲る気はない。
「モブロフ様、しゅきいいいいいいいい……!」
突飛な声が場を固まらせた。
入口を見ると慌ててこほん、と咳払いするエヴァの姿。
「こちらの本をお渡しするのを忘れておりましたの。お邪魔してしまいましたかしら?」
にっこりと、上品に笑う。
うーん、僕の可愛い婚約者が迫力美人。
絡んできた令息はたじろいでいる。
「大丈夫だよ、エヴァ。これは前に言っていたアルガヌス国の伝記かな?ありがとう!わざわざ持ってきてくれて。」
「とんでもないことですわ。一緒に勉強することが出来てとても嬉しく思いますの!…今日のお昼はご一緒できますかしら?」
「勿論!大丈夫だよ。楽しみだな」
「ご友人の方は大丈夫かしら?モブロフ様のご交友の邪魔はしたくないのですけれど…」
「大丈夫だよ。元々今日は君と一緒にいれたらと思っていたんだ」
「モブロフ様…」
ぽっと顔を赤らめるエヴァ。
うん、目の毒。
さっとさりげなく他の令息から見えないよう位置を変える。
ちょっと遅かったみたいでぼーっと見とれているやつもいるみたいだ、くそ。
「じゃあお昼に!楽しみにしているね、エヴァ」
「はっはい!一分万秋の思いでお待ちしていますわ!」
明らかな造語を言って、ウキウキと立ち去るエヴァ。かわいい。
「…独り言なんですが…私の婚約者なので。私の婚約者が心変わりなんてするわけないのは私が一番知っていますが、何かするなんて有り得ませんが、万が一そんな事態が起きたら全力で一生かけて処置します」
前までだったら言えなかったこんな言葉まで言えるようになった。婚約者が魅力的すぎると色々成長せざるを得ない。つらい。でも耐えれる。
「…夢のようですわ、モブロフ様とこんな風に過ごせるようになるなんて」
うっとりとエヴァが夢見るように言う。
薔薇園の隠れた所にあるガゼボ。
フォンディナート家が新しく作ったプライベートゾーンだ。
「それを言うなら僕だよ…少し前までこんな風に過ごせることも、自分がこんな風に成長できるとも思ってなかった…ここまで強く誰かを想えることも」
手元のカップをソーサーに戻して言う。
過ぎ去った恋の苦味が、こんな幸福を届けてくれるなんて思わなかった。
「君が好きだよ、エヴァ。ずっとそばに居て」
そういって口付ける。
すると
「は、はひいいい……!」
エヴァが倒れた。
うん、もう少し耐えてくれると嬉しいな!!
今日も元モブ男子は派手顔の可愛い婚約者と恋をする。
おわり!
これでおしまいです!
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別連載もよければお試しください。
成金令嬢〜お金稼いでたら大物が釣れた件〜
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