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第0話 叶うべき想いの先へ

   ~1年後~


「すげえ! さすが転生者ツキガミキョウカだぜ!」

「オレ達も魔物討伐に行こう!」

「おう!」


 ギルドにいた冒険者全員が、我先にと外へ駆け出す。

『有名な冒険者』の話に感化されて、冒険者としての本能をくすぐられたからだ。

 これから魔物討伐に行くらしい。


 

 


 

 私が異世界に転生して一年近くが経過した。

 歳も一つ重ね、現在は十七歳。

 現世を生きていれば高等部二年生の冬頃だろうか。

 

 そんな私は今、ギルドと呼ばれる所にいた。

 ギルドは魔物討伐を生業とする冒険者達の憩いの場であり、初めてオーガと戦った森から歩いてすぐの街に、それはある。

 

 この一年足らずで、私は冒険者としてかなりの地位を得た。

 転生した当初はこの街とこのギルドを拠点にし、オーガと戦った森を舞台に様々な魔物と戦闘を繰り返していた。

 だがいつしか、同じ街に留まり続けて上昇する知名度には限界があることを察し、旅に出たのだ。

 

 別の街を拠点にし、強力な魔物を倒す。

 有名になれたらまた別の街に拠点を移し、強力な魔物を倒す。

 

 そんなことを繰り返していると、とんでもなく有名になれた。

 

 冒険者で私の名を知らない者はいない。

 一般人の間にも私の名は広まっているほどだ。

 

 おまけに炎の剣を使うことから『炎の剣士』なんて肩書きも付いた。

 実は肩書きはもうひとつあるのだが、事実無根かつ非常に人聞きの悪い肩書きなので、あえてここでは触れないでおこう。

 

 そして今日は、久しぶりに最初に拠点にしていた街に帰ってきた。

 各地で強い魔物を倒し名を上げての帰還、いわゆる凱旋だ。

 それだけあって、ギルドに入るや否や冒険者達がワラワラ群がり冒険話を催促された。

 鬱陶しかったので応じてやると、皆、私の話を一言も聞き漏らすまいと興味津々に聞き入っていた。

 

 特に『永久凍土』という場所で相まみえた『ブリザードドラゴン』との戦闘の話の最中は、冒険者達の興奮が目に見えてわかるほどだった。

 話し終えた頃にはいてもたってもいられなかったようで、皆は魔物を討伐するため外に飛び出していった。

 

 そう、『有名な冒険者』とは何を隠そうこの私のことである。


 こんな風に当初の目論見通り有名にはなれた、が。

 私にとっては満足など欠片もなく、不満が募り募っている。

 というのも……。


 璃莉はまだ見つかっていない。


 有名になることは璃莉と再び会うための手段であって、それ自体が目的ではない。

 

 したがっていくら有名になれたとしても、

 ブリザードドラゴンのような強い魔物をいくら倒そうと、

 璃莉が見つかっていない現状は結果が出ていないことを意味しており、満足できないのは至極当然と言ったところであった。




 ――『なんとか力を振り絞ってみるけど、同じ異世界に転生できる確率は1%がいいところだと思うよ。期待しても辛い思いをするだけじゃないかな……』――




 かつて出会った太陽神の台詞だ。

 近頃よくこれが脳裏によぎり、そのたびに失意の底へたたき落とされる気分になる。

 

 璃莉は、この世界にはいないのだろうか?

 

 各地を回っている最中も璃莉の手がかりはまったく見つけられなかった。

 受け入れたくない諦観の念も、ちらつき始めるようになってきた。


 ……いや、ダメだダメだ。


 私が諦めてどうする。

 璃莉はきっと、この世界にいてくれる。

 もしかしたら1秒後……ギルドの扉が開いて、そこに璃莉が立っているかも。


 ………………ふう。


 微動だにしない扉を眺めて、ひとつ大きく息を吐いた。

 私も一旦外に出るとしよう。

 ここにいてもやることはないし、冒険者達が慌ただしく駆けて行ったせいか、ギルドは土埃が舞い、息苦しかった。


 外に出て、次の冒険に出る準備をするんだ。

 私はまだまだ諦めない。

 きっとまた、会えるから。




























 掛けていた椅子から立ち上がろうとした、そのときだった。




























 バァンと、勢いよくギルドの扉が開く。
































 私は目を見開く。






























 そこに立っていたのは……。





























 なんだ、男か。

 

 





 見開いた目が途端にしぼんだ。

 勢いよくやって来たのは可愛らしい璃莉とは似ても似つかない、私と同年代くらいの男であった。

 

 その男は腰に剣を差し、紺色のロングコート仕立ての服に身を包んでいる。

 剣の存在により冒険者だと見受けられたが、それにしては随分と洒落た格好だ。

 

 あと、首から上の部分も気に留まった。

 髪色、それは派手な金髪だったがおまけに過ぎず、着目すべきは整った顔つきだ。

 

 いわゆる、イケメン。

 その言葉が最も似合う人物と言っても過言ではない。

 見惚れる、惹かれる、なんて感情は微塵も湧かない代わりに、ただただ驚かされた。

 

 その男の横を駆け抜けるように、開いた扉から風が飛び込んできた。

 なにかを予感させる新しい風はギルドの土埃を取り払い、男の威勢良い声と共に私に届く。



「やい! 俺のブリザードドラゴンを討伐した炎の剣士はどこのどいつだ!」


 

 ………………はあ。

 これまた鬱陶しいのがやって来てしまった。




 出会いは、人生を変える。

 前世の素晴らしき人達との出会いがそうであったように。


「私になにか用?」


「あんたが炎の剣士なのか?」


 桁外れの体力、智力、そしてコミュ力を持つ金髪男。

 

 彼の名は陽川(ようかわ)大地(だいち)

 またの名を、フィールドのプリンス。


 この出会いものちに私の人生を大きく変えることになるのだが、それはまだ知るよしもない。



 

 ――to be continued――


 

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