表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/88

第85話 神様からのプレゼント

 顔面補正を固辞した私。

 すると太陽神は『少し変わったトッピングをプレゼントしよう』と。

 

 璃莉のために転生するという一貫した姿勢を太陽神がどう思ったのかは知らない。

 だが言葉の内容を鑑みるに特別ななにかを与えてくれるらしい。

 

「おーい! いるかー?」

 

 そんな太陽神が天に向かって張り上げた声は、誰かを呼びつけるようなものだった。


「お呼びでしょうか。太陽神様」

 

 応答があった。

 男性の、おっとりした声だ。


「あれ持って来てくれ!」


「……失礼ですが、『あれ』では分かりかねます」


 熟年夫婦のようなやりとりに失敗した太陽神は面倒くさそうに、


「あれだよ、サンソレイユ!」


 私にはよくわからない単語を投げかけた。


「なっ……神剣(しんけん)を持ちだしてどうなされるつもりですか?」


「転生者にくれてやるんだ」


「く、くれてやる⁉ 正気ですか⁉」


「いいから持ってきてくれ!」


 おっとり声の男性は狼狽。

 しかし最後は太陽神に押し切られた形で「は、はあ……」と困惑気味に承知した。

 

 やりとりを終えた太陽神は椅子に深くかけて、私を見る。


「ちょっと待っててね。最高のプレゼントを用意するから」


「え、ええ」

 

 サンソレイユ? 神剣?

 太陽神はいったいなにをくれるというのだろうか?

 

 考える間もなく、そのときは訪れる。


 太陽神が登場したときと同じように、空から初老の男性が降りてきた。

 品を感じさせる顔つきにタキシード。執事みたいだ。実際にそうなのかもしれない。

 そして、その手には派手に装飾された剣を持っていた。


「ご苦労。ひとまず貸して」


「あの……本当に譲渡されるのですか?」


「うん」


「はあ……ではご自由に」

 

 執事は投げやりに剣を渡した。

 その剣に、太陽神は手をかざす。


「えい! ……よし、完璧だ」

 

 満足した顔で席を立ち、私の方へ歩みを進める。

 同時に私を椅子に縛り付けていたロープも消えてゆく。


「転生者にはボクお手製の剣をあげることにしてるんだけど、君の剣は特別仕様だ」

 

 そう言って、私に剣を突き出した。


「これは神剣(しんけん)サンソレイユ」


「……で、なにが特別なの?」


「君が使うと炎が湧き出すようにした。ついさっきね」


「炎⁉」


「うん。君だけの炎の剣だ。他の人には使えないよ」

 

 自信満々の太陽神からそれを受け取って、まじまじと眺める。

 炎が湧き出すという神剣サンソレイユ。

 不思議なことに、手に取っただけでも、並々ならね力が身体に流れ込んできそうだ。


「それは名の通り神の剣、本来なら人間が持つべき代物ではないのですが……」


 執事の男性は腫れ物に触れるかの如くおそるおそる発言した。


「……じゃあ太陽神が使えばどんなことができるの?」

 

 私が尋ねると一変、「むっ、痛いところを突くね」と顔をしかめたのは太陽神だ。


「この宇宙においても、ボクにできないことが一つだけあった。それはサンソレイユの真の力を引き出すことさ」


「太陽神様でなくとも、扱える神はおりません」

 

 居心地の悪い、微妙な空気が場に流れる。

 太陽神はそれを払うかのように努めて明るい声をだした。


「ま、この話はやめにしよう」


 真の力とやらが気にならないわけでもなかったが、この空気では追求しづらい。

 璃莉に関係なさそうだし、ここはスルーしておこう。


「次は君に鎧を作ってあげるよ。これも剣と同様に転生者達へプレゼントしているんだ」


 へえ、鎧か。

 これから魔物とかいうおどろおどろしい生物と戦うのだ。

 攻撃から身を守るために必要な装備となるだろう。


「なにかリクエストはあるかい? 色とか、形とか」


「リクエスト? そんなもの……」

 

 ないわ、と言いかけて思い出すものがあった。

 璃莉に服を見繕ってもらったときのことだ。




 ――『あんなに黒と赤が似合うのはお姉様だけです』――



「……」


「ん? リクエストはないの?」


「……いや、色を黒と赤でお願いしたいわ」


「おっけー。こんな感じかな、えい!」

 

 太陽神が私に手をかざすと同時に、着ていた制服が鎧へと変化した。

 色は注文通り、黒と赤。

 いや、漆黒と深紅と言うべき強い色をしていた。見事だ。

 

 ……璃莉がこれを見たら、また『似合う』と言ってくれるだろうか。


「璃莉……うううっ……」


「なんで泣くんだよ! もう準備はできたから転生させるよ! さあ立って!」

 

 私は手で涙を拭って、腰に神剣サンソレイユを差した。

 泣いている場合じゃない。私には使命があるのだ。


「身体能力のアップはすでに完了しているから。あっちに着いたら試してみるといい。きっと驚くよ」

 

 さあ行こう、異世界へ。

 また璃莉と会うために。

 前世の悲惨な出来事は忘れて、前だけを見据えて……。



「あー!!!」

 

 

 ふと、あることを思い出して大声が出た。

 やばいやばい!

 前だけ見据えるなんてとてもじゃないができない!

 私は前世でとんでもないことをやらかしている!


「なになに⁉ どうしたの⁉」


「師匠の剣が現場に置きっぱなしなのよ! これじゃあ師匠が罪に問われちゃうかも! 私が勝手に持ち出しただけなのに!」


「あー、君の記憶を覗いたから、状況はわかるよ」


「どうにかしなさい! 太陽神だからできるでしょ!」


「わかったから服を引っ張るのはやめてくれ! ちょっと現世を見てみるから!」

 

 私は祈るような気持ちで太陽神から離れる。

 太陽神は遠くの方を眺めて。


「あー……もう警察がやってきて剣も押収されてるね……夜中だというのに大変だな……」


「ひぃぃぃいいいいい!!!」


「でもなんとかできるよ」


「え⁉ ほんとに⁉」


「うん……えい!」

 

 太陽神は空中を手で払った。


「君の師匠の剣は綺麗にして道場へ戻しておいたよ。ボクが適当に生み出した剣と引き換えにしてね。これで足がつくことはない」


「た、助かったわ……」

 

 ほっとした。

 今度こそあの悲惨な出来事は忘れられる。


「じゃあもういいね? 転生させるよ」


「ええ、お願いするわ」


「楽しい剣と魔法の世界へ、行ってらっしゃーい!」

 

 テーマパークのスタッフが言いそうな台詞を聞いた瞬間、目の前がぼやけた。

 転生間近なのだろうか?

 なんだか身体がどこかに飛んでいくような気もする。


「……璃莉」


 これから先どんな困難が待っていようと、私はくじけない。

 璃莉とまた会うために。


「……待っててね。今行くから」

 

 まぶたが重くなる。

 そのままスウッと、意識を失った。


















































「恋人のために、けなげな少女でしたね」


「なんだ、最初から見てたのか?」


「ええ。絶妙に意地悪な太陽神様も」


「ふっ、絶妙に優しいの間違いだろ」


「ふふふっ。それにしても、本当にサンソレイユを与えてよかったのですか?」


「もしあれが真の力を発揮すると厄介だ。だから神界に置いておくより、異世界に転生する人間に持たせた方が安全だと思ってね」


「それはたしかに、一理ありますな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 璃莉と同じ世界に転生できるのか.... 神剣の力とは? 続きが楽しみです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ