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第70話 ならない

 剣崎さんとのレイン交換を済ませ、少し後ろ足を引かれながら工場を後に。

 そんな私は、とある場所へと向かうため電車に乗った。

 

 自宅ではない。

 師匠の家でもない。

 

 給料袋を握りしめて向かった先は、るるぽーとである。

 結構な距離があるが、閉館までには時間があった。

 

 ようやくネックレスが購入できる。しかも自分のお金で。

 

 はやる気持ちを抑えることができず、今日すぐに手に入れたかった。

 

 ああ、早くるるぽーとに着かないかな? 

 駅をいくつか素通りしてくれたらいいのに。

 

 なんて、無茶な願いを各駅停車に押しつけながら、電車は走る。

 

 当然ひとつひとつの駅に律儀に停車したのち、るるぽーとの最寄り駅についた。

 颯爽と電車を下りて小走りで向かう。

 入館し、以前お目当てのネックレスを見つけた店へ、脇目も振らず向かった。

 

 売り切れてないだろうな?

 

 近づくにつれ不安が大きくなったが、それも杞憂。

 るるぽーと2階、エスカレーターから30メートルほど先、アクセサリー店にあるショーケースの中で、オレンジ色の天然石は輝いていた。


「これ、ください」

「ふふふ、はい、かしこまりました」


 平静を装おうとしたが、失敗。

 私の弾んだ声を聞いた店員がセールス用とは思えない笑みをこぼした。

 

「ラッピングされますか?」

「あ、お願いします」


 包装紙を手にした店員を待つ間、給料袋を開けてお金を取り出す。

 きりのいい数字にしてある、と言っていたからたぶん4万円貰えたのかな?

 

 1、2、3……ん?

 

 もう一度数え直す。


 1、2、3、4……5! 5万円!

 

 給料袋には5万円入っていた。

 元は35000円なのに色を付けすぎだ。無理したな、社長。

 

 社長に大きな感謝をしながら会計を済ませる。

 店員から受け取った紙袋からはなんとも言えない重みを感じた。

 

 ついに……ついに自分の力でクリスマスプレゼントを用意することができた。

 

 これだけでお金が取れそうな綺麗な紙袋を下げて、るるぽーと館内を歩く。

 踊るような足取りが計り知れない喜びを如術に表し、このままエスカレータを下ろうとした瞬間、


「……あっ!」


 館内マップに目がとまる。


『4F おもちゃ売り場』


 軽やかな足は、上りエスカレーターに跳び乗った。




            ・・・




 帰宅した私は自室に入り、買ってきた物を机に並べた。

 

 ラッピングされたプレゼントが、二つ。

 

 ひとつはもちろん、オレンジ色の天然石のネックレス。

 そしてもうひとつは……ププチュア変身セット、おもちゃのピアスだ。

 

 これは以前、デートでるるぽーとを訪れた際に璃莉が目を輝かせて欲しがっていたもの。

 だがおもちゃといえど決して安い値段ではないし、そろそろこういうのは卒業したいとの理由で購入には至らなかった。

 それを今回、社長に色を付けてもらった分で購入したわけだ。

 

 おもちゃで遊ぶ璃莉はきっとかわいい。

 その姿を私は目にしたい。

 

 ちょっとからかうみたいになってしまうが、頬を膨れませながらも喜んでくれるはず。

 

 おもちゃのピアスは、赤・青・黄・黒の4色。

 

 璃莉はどれから先に付けるだろうか? 

 オレンジのネックレスを引き立てるようなピアスはあるだろうか? 

 さすがにおもちゃとアクセサリーは合わないかな?


 ……いやいや。

 璃莉なら本物アクセサリーと子供用おもちゃを組み合わせようと絶対に似合うはずだ。

 璃莉の魅力は全てを許容する。

 

 なんて、『恋は盲目』をよく体現した私はジッーと長い間、ふたつのプレゼントを見つめていた。

 それこそ食事やお風呂も忘れて、いつまでも。いつまでも。

 



 私と璃莉のクリスマスは、きっと最高の日になるはずだ。

 

  

 


 ……なるはずだ。

 

 

 


































































 ならない。

 





































 





















 最高の日にはならない。

 クリスマスは私にとって、最悪の日となる。


 今後降りかかる不幸は並大抵のものじゃない。


 璃莉とデートもない。

 

 師匠と稽古もない。

 

 先輩の合格もない。

 

 剣崎さんと再戦もない。

 

 ない、ない、ない、ない。

 

 私の大切なものは、全部なくなってしまう。

 








「――――はっ!」


 いつものまにかうたた寝してしまった。


「はあ……はあ……はあ……」


 寝覚めた私はほっと一安心。

 というのも、怖い夢を見たからだ。

 

 奇妙な『なにか』が不気味な笑みでこちらを覗いて、ひたひたと近づいてくる夢。

 

 形容しがたい独特の恐怖に、冬場には似合わない大粒の汗が落ちた。

 

「……ふう」


 大きく一息ついて、お風呂に入ろうと立ち上がる。

 

 ……悠長なものだ。

 

 悪夢など非にならない現実が待っているなんて、今はまだ知らないのだから。


「おっとっと……」


 疲れからか、少しふらつく。

 絶望はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 


次話から新しい章に入ります。超鬱展開です。


筆者の自分ですら心苦しくなるほどでした。

まあ……苦しいまま終わるバッドエンドにはしませんから、多少はね。



さて、いつも作品をご覧頂いている皆様には重ね重ねお礼を申し上げます。

この作品は次章も含めた残り2章で一旦完結を迎える予定です。

それまで、そしてその後も、お楽しみ頂けると幸いです。




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― 新着の感想 ―
[一言] えぇ.... きついですねぇ どういう展開になるのでしょう
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