第56話 面接
12月4日 金曜日
「うーん……うちの仕事、女の子にはきついよ。やめといた方がいいんじゃない?」
「お言葉ですが何回も言っているとおり、力には自信があります」
都心から少し離れた工場地帯。
その一帯を担う小さな工場の事務所にて、私は例の軽作業バイトの面接を受けていた。
だが、昨日電話したときと同じく、反応が芳しくない。
向こうからは、なんとか穏便に取り計らって帰ってももらおうとするムードがプンプン漂ってくる。
「うーん、君のような美人さんはオシャレなカフェなんかで働く方が合っている気がするけどな……」
正直、雇ってくれるというならオシャレなカフェでもどこだっていい。
だが接客業は合わないと、先日先輩から忠告を受けたばかりだ。
「接客業より力仕事が向いていると考えております」
「うーん……」
ちなみに面接官を務めるこの中年男性はこれでも社長らしい。
薄汚れた枝豆色の作業着、加えてハゲた頭とビール腹からは大層な役職が付いていることを感じさせないが、小さな工場の社長なんてどこもこんな感じなのかもしれない。
その社長はさっきから『うーん……』の連発で、決断に至る様子がまるでない。
「君、そんなに力に自信があるっていうけど、なにかスポーツでもやっていたの?」
「はい、剣道をやっておりました」
答えると、社長の悩ましい表情がにやけ顔に変わる。
「ふふっ」と舐めたように笑ったかと思うと、饒舌な口ぶりで小馬鹿にしてきた。
「女の子の剣道なんて愛らしいチャンバラごっこでしょ。実は私も剣道が大好きでね。それが高じて自宅に道場を持って、たまに子供達に教えたりしているほどなんだ。でも女の子で実力ある子なんてごく一部だなあ。それこそ私の姪なんかはなかなか光るものを持っ」
「ふざけないでください」
立場を忘れて言葉を遮る。社長の顔がこわばった。
「たしかに女子の剣道は男子に劣るかもしれません。でもそれはあくまで一般論。私が男子に劣るとは限らないじゃないですか」
「ふうん、じゃあ君はその細い身体で、男子に勝てるっていうの?」
「ええ、勝ちますよ」
根拠はない、だが自信はある。
そんな勝利宣言に、社長は「よし」と半笑いでうなずいた。
「そこまでいうのなら君の実力を見せてもらおうか。ちょっと待ってて」
席を立った社長は扉を開けて事務所を出る。
いったいどこに向かったのだろうか。




