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第32話 百合

 うーむ、試着しただけの服に璃莉の匂いはまったく付いてなかった。残念残念。


 ……ってなに残念がっているんだ私は!

 

 やめようと誓ったのに謎の中毒性に惹かれてしまう。

 タバコやアルコールを超えて薬物レベルではないのか。

 どれもやったことないからわからないが。


「お姉様、なに考え込んでいるんですか?」


「え⁉ い、いや、次はどこに行こうかなって……ははは……」

 

 そう言うと、璃莉は「ふふふ」と自慢げなかわいい笑みを浮かべ、スマホの画面を私に見せてきた。

 劇場版マリア様が覗いてる? なにこれ?


「次は映画を見に行きましょう! 昨日スマホで予約しておきました!」


 昨日予約したということは、どうやら璃莉の中で映画を見ることは既定路線だったようだ。

 でもそれなら昨日のうちに言っておいてくれたらよかったのに。

 なんでこんな直前になって?


「ふふふ、なんでこんなギリギリに、って思ってますね」


 随分と察しがいい。


「ええ、でもなにか意味があるのね?」


「はい、ちょっとしたサプライズです。なんたってこれは花火大会の夜、公園で見せた百合小説をアニメ映画化したものですからね」


「え⁉ あれの映画版なの⁉」

 

 忘れもしない花火大会の後の公園での出来事。

 璃莉が私に見せた小説の中身は女の子同士の恋愛ストーリーだった。

 私の呼び名である『お姉様』も、璃莉がその小説を参考にしたらしい。

 

 なお、私が読んだのは屋上での告白シーンのみ。

 だから他の部分がとても気になっていたところだ。

 

 ……あれ? ところでだけど、


「ねえ璃莉、百合ってお花の名前よね?」


「ああ、女の子同士の恋愛のことを百合って言うんですよ」


「へえ……初めて知ったわ」

 

 そんな綺麗な花の名前が付いてるのか。

 てことは、私と璃莉も百合。

 うんうん、私達の美しい恋愛にはぴったりかもしれない。

 

「えへへ……映画……楽しみですね……」


「ええ、そうね……ん?」


 璃莉の様子が少しおかしい。チラチラと目を合わせたり逸らしたり、顔も少し赤い。

 あ、もしかして。


「ただ言うのが恥ずかしくて、直前になっちゃっただけなんじゃ……」

 

 内容をアプローチとして実践するくらいだから、あの小説は璃莉にとって言わば恋愛のバイブル。

 あの夜は告白するのと同じだから見せるのを躊躇していたと言っていたし、今回も自身の恋愛観が知られるようで恥ずかしがったのではないか。サプライズなどではなくて。

 

 どうやら図星だったようで、璃莉の顔はどんどん赤くなっていき、


「もう映画やめましょう!」


「そんなこと言わないで。予約してるんでしょ?」


「あーお姉様! なんでニヤニヤしてるんですか⁉」


「ふふふ、璃莉がかわいくて」


「もう! バカにして!」


「機嫌直してちょうだい。映画まで少し時間あるんじゃない? おやつでも食べて時間を潰しましょ」


「おやつは食べますけど、映画はやめですからね!」


「はいはい」


「もう! まだクスクス笑ってる!」



   ・・・


 

 案の定と言うべきか。

 おやつにクレープを買ってあげたらどんどん機嫌が直っていき、食べ終わる頃にはニッコニコの笑顔に戻った。


「あの映画、とっても評判いいんですよ! 原作にないオリジナルストーリーもあるみたいで、それが原作ファンからも絶賛されている珍しいパターンなんです!」


 なんてことを言い出すまで回復している。

 一過性の拗ねだとは思っていたが、それにしても立ち直りが早い。

 きっとよほどのことをしない限り、本気で拗ねたりはしないのだろう。

 たとえば私が浮気するとか、そんな天地がひっくり返っても起こりえないレベルのことを。

 


 クレープを食べ終えたら丁度いい時間になったので、五階の映画館のフロアまでエスカレーターで移動する。

 

 その途中、四階に着いたとき、璃莉が「あっ」と声を出して立ち止まった。

 そしてなぜか一歩二歩とまっすぐ歩みを進める。

 

 五階に行くには後ろを向いてエスカレーターに続けて乗らなければならないのにどうしたのだろう? 

 あと心なしか目がキラキラしているような……ははあ、なるほど。

 

 なんとなくわかった。

 璃莉の輝く目の先にあったのはおもちゃ売り場のとある商品。


『ププチュア変身セット』

 

 メンバーカラーに合わせたと思われる、様々な色の作り物のピアス。

 あれが欲しいのだろう。

 

 ププチュアのために毎週日曜日は早起きしているみたいだが、おもちゃまで欲しいなんて、ガチファンじゃないか。


「欲しいの?」

 

 尋ねると、璃莉はハッとなって強がってみせた。


「ほ、欲しいわけないじゃないですか! 璃莉はもう中学三年生のお姉さんですからね!」

 

 その台詞が全然お姉さんじゃない。

 初めて弟か妹ができた未就学児が言いそうなやつだ。


「強がらなくてもいいのに。なんなら私が買ってあげるわよ」


「え⁉ ほんとですか⁉」


 キラキラがさらに輝きを増して私に向けられる。

 恋人につい貢いでしまう人の気持ちが今ならわかるかもしれない。

 お姉様なんでも買っちゃうぞ!


「……やっぱりやめておきます」


「え? どうして?」


「さすがにおもちゃは卒業しないと……」


「うーん。まあ、璃莉がそう言うなら……」


「さあ、映画に遅れたら大変です。行きましょう」


 私達はおもちゃ売り場を後にし、映画館のフロアへと向かった。



余談ですがTwitterアカウントの存在をお知らせします。

URL→ https://twitter.com/syousetu18

ユーザー名→ 富島一関@なろうにて百合小説連載中

ID→ @syousetu18

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