表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/88

第30話 着せ替え人形と化した私 

 水着を買って店を出ると丁度お昼時だった。

 というわけで昼食を取ろうと三階のレストラン街へ上がり、パスタの店に入った。

 璃莉が言うには有名店の支店らしい。

 そこで私はボロネーゼ、璃莉はカルボナーラに舌鼓を打っていると、


「お姉様って……花火大会のときもその服でしたよね」

 

 璃莉が私をジッと見て、突然そんなことを言ってきた。

 今の私の服装は白のTシャツにデニムパンツだ。

 璃莉の言うとおり花火大会のときと同じである。


「ええそうよ。同じ服をあと二着持っているわ。そしたら服選びも楽でしょ?」

 

 水着選びで璃莉に褒められた私は得意げなテンションそのままに答える。

 こうすると合理的だし、きっと璃莉も『さすがお姉様!』と……ん? なんか様子がおかしい。

 璃莉は天を仰いで、大きくため息をついた。

 そして、


「……なんか、お姉様らしいですね」


「え? ありがとう」


「いやいやいや! 褒めてないですからね! 璃莉は今、呆れています!」


 あ、呆れる⁉ 

 私は呆れられるようなことを言ってしまったのか⁉

 

 私はブルブル震えながら、


「み、見捨てないで……」 


「話が飛躍しすぎですよ! 見捨てたりしませんし、むしろこれから手を施そうと思っていたところです!」


「……手を施す? なにをするつもりなの?」


「食べ終わったら服を買いに行きましょう。お姉様は元がいいんだから、服にこだわればもっとよくなりますよ」


「元なら璃莉の方がいいわよ」


「えへへへ……って今はそんなこと言ってる場合じゃありません!」


 頬を赤らめて照れてる璃莉を見ながら『うん、やはり璃莉の方が元がいい。だって璃莉を超える人間はこの世界に存在しないだろうから』なんてことを思う。


「璃莉の力でお姉様をもっとかっこよく仕立て上げます! 楽しみにしていてくださいね!」

「ま、任せたわ……」

 

 フォークでパスタを巻きながら「どんな風にしちゃおうかなー」と呟いたのを聞いて、楽しみにしているのは璃莉の方だと気付く。

 これでは着せ替え人形じゃないか。


 ……まあ、まったくもって悪い気はしないが。



   ・・・



 アパレル店がひしめく一階へと戻り、適当に入った若者向けの店で、


「うーん……こっちか……いや、あっち……でもそうするとアウターが……」


 璃莉が頭を悩ませている。

 それはもう、声をかけるのをためらうくらい真剣な表情で。

 私としてはおしゃべりしながら楽しく選びたいのだが。

 

 でも、璃莉の頭の中は今、私の全体像で埋め尽くされているということ。

 そう考えると少し嬉しくなる。

 極端に言えば、今、璃莉は私のことしか考えていない。……うへへへ。


「よし! これで……お姉様? どうしてにやけているんですか?」


「え⁉ い、いや、なんでもないわ。ところで選び終えたの?」


「はい! これらを試着してみてください!」

 

 ……ん? これ『ら』?

 ……げっ⁈

 璃莉から手渡されたカゴの中には、服が山のように積まれていた。いつの間に⁉


「ずいぶんたくさんあるわね……」


「とりあえず十パターン選んでみました!」

 

 璃莉はニコニコしているが、これから十回も服の着脱を繰り返さないといけない私は顔が引きつる。

 なかなかハードだ。


「さあ、お姉様、試着室に行きましょう」


「ど、どんとこい……」

 

 うーむ、すっかり言いなりになってしまった。

 やはり私は着せ替え人形のようだ。



   ・・・



「違いますね。次」



「うーん。これもなんか微妙ですね。次」



「あっ、これなら……いや、アクセントが足りないか。次」


 

 もう勘弁してくれ。

 

 璃莉が選んだ服を着て璃莉に見せるという行為のまっただ中なのだが、どうもお眼鏡にかなうコーデが中々ないようで、最初の十パターンはとうに尽きてしまった。

 そして今はどんどん追加されていく服を稽古の一環と捉えて着続けている。

 ズボンをはくときは片足になるから体幹トレーニングに、てな感じで。

 ちなみに着せ替えの回数は二十を過ぎたあたりで数えるのをやめた。


 あと、『全然ダメですね』『論外でした』なんて辛辣な言葉もたまに返ってくるからつらくなる。

 私ではなくコーデのことなのは分かるが、璃莉に面と向かって言われると精神的にくるものがあるのだ。

 

 そろそろ終わりにしてほしい。

 祈るような気持ちを募らせていると、ついにその時がやってきた。


「……いいですね」


 璃莉の目が明らかに違う。

 私は目線を下げて、今一度自分のコーデを確認した。

 上は赤いVネックのTシャツと黒のアウター。そして下はこれまた黒のスキニーパンツ。

 少し攻めすぎのようにも思えるが……。


「思い切って冒険してみたら大成功ですね! これが似合うのなんてお姉様しかいませんよ! かっこよさが何十倍、いや何百倍にまで膨れ上がっています!」

 

 絶賛の嵐だ。

 璃莉の喜ぶ顔を見ると私も嬉しくなるし、それに伴ってこのコーデも気に入ってきた。


「じゃあ、これに決めましょう」

「はい!」

 

 ふう、やっと終わった、と思ったのもつかの間、


「……これにシルバーアクセサリーを組み合わせたらどうなるんだろう。ネックレスかブレスレット、ノーホールピアスもありですよね。キャップを合わせてみてもおもしろいですし……」


「え? あの、璃莉?」


「アウターを変えてコーデにバリエーションを持たせることもできますし、これを元にしてさらなる改良を……」


「え? え? え?」

 

 ブツブツとよからぬことをつぶやき始めた璃莉。

 嫌な予感しかしないのだが……。


「お姉様はそのまま待っていてください。色々と探してきますから」

 

 その予感は見事に的中した。

 第二ラウンドの開始だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ