第29話 妄想かき立てる紐ビキニ
るるぽーとに着いた。
平日のため混雑はしていないが、夏休み中とあって私達と似たような年代の人がそれなりに見られる。
手を繋いだまましばらくまわってみる。
随分と広い。
一階だけで百は超えてそうな店舗数、さらに璃莉によると五階建てというから圧倒されそうになる。
アパレル店や飲食店はもちろん、映画館やちょっとした水族館、屋上には露天風呂があり、近くに系列の宿泊施設もあるらしい。
死ぬまでここで暮らせと言われたら可能だろう。
実際にやるかどうかは別として。
「お姉様、ここに入りましょう」
璃莉が指差したのはマリンスポーツ専門店。
夏真っ盛りということもあって、普段は水着を置かないようなアパレル店も特設コーナーを作り、売り出していたが、こちらの方が品揃えがいいに違いない。
入店してみると、『プールに! 海水浴に!』と書かれたポップの元にある華やかな水着売り場が圧倒的な存在感を示しており、ウエットスーツや競泳用水着は奥へ押しのけられていた。
これらが日の目を浴びるのは秋以降になるだろう。
一応これらも全盛期は夏だろうに。
旬の時期にこの扱いとはなんとも不憫なものである。
それにしてもどの水着もカラフルでおしゃれだったり、シンプルだが洗練されたデザインだったりで思わず目を引かれる。
私がスクール水着で行くと言ったとき、璃莉がダメと返した理由がわかった。
目の前にある水着と比較すると、スクール水着はとてつもなくダサい。
「あっ! これなんかお姉様に似合いますよ!」
「どれどれ……え⁉」
璃莉が手に取ったのは黒のビキニだった。
「これを……私が……? なんか布面積が小さいような気がするし……」
「ビキニならこれくらい普通ですよ。それにスタイルのいいお姉様なら絶対似合いますって!」
「そ、そう?」
「はい! シンプルゆえに着る人を選ぶ水着だと思いますけど、かっこいいお姉様なら間違いなく似合います! 一目見てビビッときました! この水着はお姉様に着られるべきだと! お姉様はこの水着を着るべきだと!」
「そ、そこまで言うのなら……」
どうも璃莉に乗せられた気がするが、簡単に乗ってしまう私も私である。
まあ、そもそも水着に対するこだわりなどなかったし、これを着て璃莉が喜んでくれるのなら、それがなによりだ。
「じゃあお姉様はこれにするとして、次は璃莉の水着を選んでください」
「え⁉ 璃莉も買うの⁉ そして私が選ぶの⁉」
これは予定になかったことだ。
「こうやって見ていたら璃莉も新しい水着が欲しくなっちゃって……えへへへ」
「だからってなにも私が選ばなくても、ほら、私そういうの苦手だし……」
「お姉様に選んで欲しいんです! 互いに選び合った水着でデートって最高じゃないですか!」
「うっ……」
そんなことを言われたらもう断れない。
責任重大な大役、務めさせてもらおう。
センスがない私は、その分せめて頭を働かせようと、璃莉の水着姿を想像する。
どんなものが璃莉に似合うのだろうか?
商品の水着を手にしつつ、次々と想像を膨らませていると……
なんか、ドキドキしてきた。
よく考えたら水着って、普段は服で隠している部分が見られるし、ものによってはほぼ裸同然じゃないか。
たとえばこの紐ビキニなんて、布面積が極端に少なく、大事な所しか隠せない。
考案者はきっとよほどの節約家かよほどの変態なんだろう。
璃莉は私が選んだ水着なら、どんなものでも着るのだろうか。
もしそうなら、この紐ビキニを選べば裸同然の璃莉を……ってダメだダメだ!
見たくないのかと問われたら、見たい。ものすごく見たい!
でもプールでこれを着れば、周りの目を引き、璃莉が見世物のようになってしまう。
そんなの嫌だ。
紐ビキニを候補から完全に消し去り、他の水着を吟味する。
もっと布面積が大きくて、それでいて璃莉のかわいさがさらに引き立つような水着は……あっ、これなんてどうだろうか。
「璃莉、これはどう?」
私が選んだ水着は花柄のビキニ。
とはいえ上のブラはフリルがついており、下はショートパンツになっているから露出度は控えめだ。
これなら安心できる。
「すごくいいじゃないですか! 苦手というのは謙遜だったんですね!」
「ふふん。そうでしょう」
目を輝かせて喜ぶ璃莉を見て、私も上機嫌になる。
よかった、紐ビキニを選ばなくて、と内心ホッとしながら。
「じーっと紐ビキニを見ていたので、まさかそれを選ぶんじゃないだろうなとヒヤヒヤしましたよ」
「そそそそそそそんなわけないじゃない! ありえないわ!」
本当によかった。
紐ビキニを選んでいたら璃莉にどんな顔をされていたかわかったもんじゃない。




