番外編 フェイズ師匠
京花と璃莉がイチャイチャしている一方で、散歩中なのは城之園重慶。
食休みと称して外出したが、本来の目的は別にある。
朝から怖いくらい浮かれており、喜々として稽古に励んでいた弟子。
そして、その弟子にやけにべたべたしている孫。
わかりやすい二人を見て、『ははあ』『なるほど』『昨日の花火大会でやっと』と簡単に察することができ、ふたりきりの時間を作ってやったのだ。
「これはこれは城之園さん。お散歩ですか?」
しばらく歩いていたのち、ふと、すれ違いざまに初老の男性に声をかけられた。
「和菓子屋の主人ではないか。そうじゃが、おぬし、店は大丈夫なのか?」
「店ならせがれに任せておりますよ。わたしも若くないですからね。休み休みにやらないと」
「そうか。まあ店が開いてるようで安心したわい。これから向かおうと思っていたところじゃ」
「毎度ありがとうございます。今日もうちの新名物『幸運の芋羊羹』をお買い上げで?」
「うーむ……ところで前から聞こうと思っていたのじゃが、なぜ芋羊羹が幸運なのじゃ?」
「ああ、それはですね、芋羊羹って金色じゃないですか」
「黄色じゃろ」
「まあそこは金色ということで。金色って特別感があって幸せを呼びそうじゃないですか。だから幸運の芋羊……そんな哀れむような目はやめてくださいよ……うちみたいな老舗だって、こういった方法で客を引かなければ生き抜けない時代なんですよ……」
「老舗には老舗の戦い方があると思うがの……それにこじつけが過ぎとるし……」
「まあ……多少は……」
「うーむ……よし決めた。もう芋羊羹は買わん」
「え⁉ そんな殺生な! 我が店を見捨てないでくださいよ!」
「なにも買わんとは言ってないじゃろ。別の物を買うだけじゃ」
「あ、なーんだ。それならそうと言ってくださいよ」
「けろっとしおって。現金なやつじゃの」
「でも、城之園さんに言われた通り、こういうのはうちのような老舗には相応しくないかもしれませんね……ただのラッキーアイテムで、実際に幸運なんて呼ぶわけないし……」
「……いや」
「え?」
「幸運はたしかにあったぞ」
このあと、和菓子屋に寄った城之園重慶は、芋羊羹ではなく自身の好物である大福を購入した。
そして家路に着きながら、ふたりの行動を振り返る。
初めて璃莉に会ったとき、太刀筋を大いに乱した京花。
京花が稽古する様子を、窓の外から目を輝かせてこっそり見ていた璃莉。
随分と早いうちから惹かれ合っていたふたりの想いが通じ合うようにと、ふたりきりにしてやろうと考えた。
そしてその理由付けも兼ねて、幸運の芋羊羹なるものにすがってみたところ、見事に力を発揮してくれた。
もちろん、一番はふたりの努力あってこそだと思うが。
とくに京花は精神が不安定になりながらもよく踏ん張った。
紙袋に入った三つの大福を一瞥する。
もう、芋羊羹は必要ないだろう。
わざわざ幸運を呼ばなくても、こうしてふたりきりの時間を作ってやるだけで十分だし、そうでなくとも勝手に時間を作るに違いない。
そうこう考えているうちに家に着いた。
玄関の扉が開くその音を耳にしたのか、ほぼ同時に飛び込んできた孫の元気な声。
「あっ! おじーちゃーん! 明日の稽古はお休みねー!」
「ちょっ、璃莉……」
ふふふ、やはりな。
見立て通りになり、自然と目尻にしわが寄る城之園重慶であった。




