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『これより、アジュール王太子殿下からのお言葉です。みなさまお聞きください』
アナウンスが入りアジュールが壇上に上がる
その側にはフルール嬢がアジュールにエスコートされていた。
アジュールの心変わりは噂になっていたので皆ざわめいていた。
噂は本当だったのかと。
「僕、アジュール・ロワ・オラージュはシエル・ミラッジョと婚約破棄をし、フルール・オルタンシアと婚約することを発表する!
そしてシエル嬢は国外へ追放する」
アジュールはシエルとの婚約破棄を申し出ると同時に追放を命じた。
その言葉でシエルはアジュールが見える位置に前に出た。
シエルは堂々としており、扇子を広げ微笑みながら受け答えをした。まるで想定範囲内だと言わんばかりに。
「お言葉ですが…アジュール殿下フルール嬢との婚約の件と私の婚約破棄の件について国王はご存知でしょうか?」
アジュールは首を横に振った。どうやら国王は知らないようだ。
そしてフルールはアジュールの後ろで怯えたようにシエルを見ていた。
だけど、シエルにはお前はこれで終わりよと高笑いにも見えた。
「では、事後報告になるわけですね。分かりました。こちらでご報告いたしますわ……それでは、私と婚約破棄をする理由をお聞かせ願いましょう?」
「しらばっくれるな!!僕が愛するフルールを虐めていただろう!!」
「そこまでおっしゃるのならば私が行ったという証拠を示してくださる?」
「ふん!これを見てまだ言えるのか?
おい、そこのもの用意しろ!」
アジュールがシエルが行ったであろう証拠を提示した。
切り裂かれた書物やドレス、まるで犯人はシエルだと言わんばかりのシエルの髪留めなどである。
「それだけではない!水被せたり、物を壊しただけではなく先日フルール嬢を階段から突き落としたというではないか!見損なったぞ!」
アジュールは怒りを爆発させていた。
シエルは扇子の下でニヤッとしていた。
まんまと乗せられて、馬鹿な人…そろそろ終わりにしてあげましょうか
「お言葉ですが。私はそのようなこと一切しておりません」
「嘘よ!私みたんだからね!」
「僕が愛したフルールが嘘言うわけないだろ!!」
「では、切り裂かれた日付は?
階段から突き落とした日付は?教え願いませんか?」
「切り裂かれたのは1ヶ月前で突き落とされたのは一昨日よ」
「そちらは本当でしょうか?」
「え、ええ確かよ」
ぱちんと扇子を閉じ、にっこりと微笑んだ。
「ですってアジュール殿下?」
シエルの横にはいつの間にかグレルが立っていた。
これには周りの参加者もざわめいた。
それもそうだ。シエルがグレルのことをアジュールと呼んだからだ。
壇上に立っているのがアジュールではなく、シエルの横に立っているのがアジュールならばどういうことなのだろうかと。
グレルはふっと笑うと途端に髪の色と瞳の色が王家由来の深海のような青い瞳と海のような髪に変化しアジュール…いや影武者を睨みつけた。
「お役目、ご苦労。アジュール殿下いや我の影武者よ。我が名はアジュール。アジュール・ルヴェリターブル・ロワだ。
さて事の真偽を確かめようではないか、フロースト!ヴァン!」
「ええ、こちらに。」
いつの間にかフローストとヴァンがいた。
アジュールはいや、先程までアジュールだった人物がこれを見て頭が真っ白になった。
なにがどうなっているのかと
それにフローストとヴァンが素直に命令を聞いているところを見て本当の主人はお前ではないと言われたかのようだ。
そんなことを気にせず本物のアジュールは淡々と続けた。
「さて先程の件についてだがこれらは物証として成り立つのかだが…」
「その件は私が受け持っているわ」
会場に現れたのは先程ブリリオに捕まっていた、ロゼとそれを助けに行ったセゾンだ。
ロゼはシエルとアジュールの前に立つとくるりと振り返り、アジュールに礼をした。
その姿は模範のような礼であった。
「お初お目にかかります、殿下。わたしはロゼ・イノンダシオンと申します。
シエル様の命を受けこの件について調査をしておりました。」
その言葉を聞いてフルールは顔を青ざめた。
これではシナリオ通りに動かないと。
「まずはこの切り裂かれた書物やドレスですが…風魔法で切り裂かれております。
ですが、この場にある物証からはシエル様から事前に頂いた魔術の波長と合わないのです。」
「そして、この場にいる魔術波長に合うものと簡易的でありますが探ったところなんと申しますか…」
ロゼがわざとらしくくすめるとアジュールは頷き目線で続けろと促した。
「被害に遭われたと騒いでおります、フルール・オルタンシアと一致しました。」
「うそよ!!わたしがそんなことする意味ある?!!」
「さぁ?ですが王妃を狙っているのならばシエル様を失脚させようとは考えて行うかと。」
「僕のフルールがそんなことする必要がないだろう!!嫉妬したシエルに決まっている!」
ロゼは偽物のアジュールに目でうるさい黙れと言うかのような視線を送ると彼は怯えて黙ってしまう。
「また、シエル様の私物と見せかけた髪留めですが…普段利用するものならばシエル様の魔力を感じますが、こちらにはございません。
おそらく本物と真似て作ったのでしょう」
フルールはうっ…とつまらせだんだん顔が青白くなっていた。
どうやら図星のようだ。
「最後に突き落とした件なんですが…こちらをご覧ください」
ロゼが水魔法で鏡を2個作った。すると一昨日の映像が流れた。
そこにはフルールが1人で転げ落ち近くにシエルの髪留めに似せた物を置いている所を、そしてそこにはシエルはいなくシエルは王宮で王妃教育を受けている場面が流れた。
「こちらは水魔法の過去を見ることができる水鏡です。
これらから見ると…シエル様があの場にいることは不可能です。」
「ふむ…これの裏付けは?」
「それならば、私ができますわ。
シエル様は一昨日王宮にて外交のマナー、外国語、隣国諸国の予定がありましたわ。それは王宮のメイド、王妃様から証言が得ております。」
フローストはにっこりと微笑みながら裏付けを報告した。
アジュールはふむ…と息を呑み近くの衛兵を呼んだ。
「これではシエルがなにもしていないのは明白だな。衛兵!この者らを牢へ入れろ!!」
アジュールが衛兵へ指示し、偽物のアジュールとフルール共々連れていかれた。
偽物のアジュールは衛兵に取り囲まれ慌てた。まだ自分が王太子だと信じているようだ。
「待て!僕が偽物だという証拠は?お前が本物だという証拠はないだろ!!僕は幼い頃から王子だといわれてそだ「王家の印は?」え…?」
アジュールは自分が身につけていただろうペンダントを見せた。その印は王家に伝わる幻と言われる青い鳥が描かれているものだった。
それを今度はヴァンが続けた。
「ワゾー・ブルーは王家所縁のものであり代々王家の者には男女関係なく持っている。これを持つものが王族だ。君が持っているのは羽根しか描かれてないはずだ。それは影武者の証
影武者は次期国王陛下になるものが玉座に着くまで知ることはない。知らなくて当然かな?」
にっこりと微笑みながらお前は用済みだからさっさといなくなれの目だった。
それを聞いて偽物のアジュールは座り込んだ。
座り込み天を仰いだ。するとふと思うところがあったようだった。
フルールは顔を真っ赤にして叫んだ。
「こんなの!シナリオになかったわ!!
本物のアジュールがいるなんて知ってたらしなかったのに」
それを牢に連れて行かれるまで続いていた。
2人が連れて行かれるのを見届けてからアジュールがぱんっと手を叩いた。
「今宵はワゾー・ブルー祭だ。皆、良い宴を!!」
ロゼは会場の外にあるバラ園に出ていた。
人酔いしたというのもあるが、ブリリオとやりあった際に靴擦れをしたようだった。
バラ園の中心にある腰がかけられる噴水に座り空を見上げていた。
「おい、風邪引くぞ」
1人で見上げるとセゾンに声かけられた。
セゾンは上着を脱ぎロゼに渡した。
ロゼはそれを眺めて受け取り羽織った。
「ありがとう。」
「おう…」
セゾンは羽織ったのを見た後にロゼの隣に腰かけた。
「怒って悪かった。」
ロゼはセゾンを見てくすっと笑ってから前を向いた。
「いや、昔から変わってなくて安心した。
それにブリリオを衛兵に渡したんでしょ?」
「まぁ一応な。その内フルールとの繋がりが分かるだろうし」
ロゼはその辺にあるバラを一輪取り魔法をかけた。
「はい、これ」
なんでいきなりバラ?とセゾンは顔をしかめた
「これは録音したものよ。
花を媒体としただけ、名前をつけるならそうね…『音花』よ。これにブリリオから聞いた証言が入っている。この花から聞くにはヒアリングの魔法を使えばいいわ」
だからはい。とロゼは渡した。
セゾンは受け取りしまう
「流石稀代の天才魔術師は違うな。開発しちまうんだから」
「そうかしら。でも私がもし、いなくてもあなたはあなたで解決するのでしょうね」
ロゼはさみしそうな顔を一瞬したがセゾンに悟られないようにいつもの顔に戻した。
「んなの5年後10年後だろ?」
ロゼは腰掛けていたのから立ち上がり数歩歩きくるりとセゾンに向き合った。
「そうね。そうだといいわね」
さて戻りましょうか?と声を掛けて2人して会場に戻った。
シエルの言葉通り今宵はいい夜にする為に。