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ワゾー・ブルー祭…1年の最後の月の25日に学生と教員のみで行われる社交の場だ。
そこでは日付けが変わる前に参加者に全員に配られている羽根を交換すると結ばれるというジンクスがあるといわれ、そのジンクスの由来となったのが先先代の王妃さまと言われているが本当かどうかは知らない。
だが今でもその伝統は残っており、現在は羽根のブローチを交換し合うようになっていた。
私、ロゼ・イノンダシオンは一応参加はできるが今回も見送ろうと考えていた。
社交に出ているより研究を続けたいからだ。
私の研究は魔術暴走についてだ。
魔術暴走に掛かった人は命を削り、衰退し最後には残りの魔力で大爆発を起こし死亡してしまう病だ。その原因と治す方法が分かれば世界中で魔術暴走で苦しんでいる人を救える、そのためには社交の場で遊んでいる場合ではないーーーはずなのになぜか私はドレスを着てワゾー・ブルー祭に出ていた。
私のドレスは髪の色に合わせてグラデーションのある紫の物だ。足に近いほど明るい色をしている。靴はドレスに合わせて白に近い水色。
ドレスの上から紺のストールを羽織っており、胸元に参加者の証の羽根のブローチ。ブローチには宝石が付いており私は目が紅いので紅い宝石レッドベリルがついていた。
(なんでこんなことに…)
私はこの場にいる原因の男ーー黒髪で青眼の髪に合わせたのか黒のタキシードを着たセゾンを睨みつけるように見ていた。
事の始まりは1ヶ月前。突然やって来たセゾン、これはいつものことなので放置する。
むしろ本当に茶菓子を持ってくるとは思わなかった。
それよりいつもならば窓から来るのだが、今回は正式に許可を取ってドアから来たようなのでドアを開けるとセゾンと泣きそうな顔をした令嬢の顔を見るとそこには王太子殿下の婚約者シエル様がいたのに驚いた。
立ち話もなんだし、1人では十分くらいの自室に招き入れ2人をソファに座らせ近くにあるテーブルにセゾンが持って来た茶菓子、クッキーとそれに合わせた紅茶を出した。
シエル様は紅茶を飲んで落ち着いたのかほっとしていた。
シエル様は水色の長いウェーブの髪をハーフアップにして、緑目の容姿だった。
彼女は慈愛に満ちた人で努力家だと聞いている。
そんな彼女が泣きそうにしていたのだからなにかあったのだろう
「シエル様、落ち着きましたか?」
「ええ…ごめんなさいね。セゾン、そして話に聞いていますロゼさん…で間違いないかしら」
「ええ、ロゼ・イノンダシオンと申します。セゾンとは小さい頃からの仲です。シエル様私のことはロゼとお呼びください。」
ロゼは簡易的だが、シエルに挨拶をした。
セゾンも普段のようではないのでおそらく外向けだろう。
「ありがとう、ロゼ。私はシエル・ミラッジョよ。よろしければ私のことシエルと呼んで欲しいわ」
シエルに呼び捨てでお願いされてロゼはぎょっとした。
さらにセゾンが咎めるかのように進言したが…
「シエル様…それは」
「セゾン止めないで。私は今この場ではただのシエルよ。セゾンも様をやめてくれる?」
「分かりました。」
シエルの目は本気だった。セゾンはそれを汲み取り渋々引き下がった。
ロゼは自分で淹れた紅茶を一口飲み、シエルが泣きそうな顔をした原因を聞いてみた。
聞かないことには始まらないし、このままでは研究もできそうにない。
「それで、ちょっと事情が見えないのだけれどどうしたの?シエルが泣きそうなの初めて見たよ」
「それがな…シエルがある令嬢をいじめている噂を聞いたんだ。」
「ええ…それで殿下かその子の話を信じてしまったのよ、勿論証言はその子だけ、でも物証もあるのよ…でも私誓ってしてないわ。だってその子が証言していた日にちに私は学園ではなく王宮で妃教育をしていたわ」
「うん…殿下の他の側近はどうなの?」
「同じく何かの間違いだとお伝えしたが聞き入れないようでな…」
「シエルは誰から聞いたの?殿下?」
「ええ…次の実技試験に向けて参考書を読もうと図書館に向かってたところに殿下に話しかけられて別室で話を聞こうとしたら知らない子がいてフルールをいじめたんだろって…私それで頭が真っ白になっちゃって…」
ロゼは話を聞きながらあーでもないこーでもないと頭の中で考えを巡らせていた。
「シエル、セゾンそれで殿下はどういう状態だった?」
「まさか殿下が社交祭でシエル様と婚約破棄と同時にフルール嬢の婚約を宣言する段取りとはね。どこで聞いたのよ?」
「秘密だ。さて戦場に行くぞ。お手をどうぞレディ?」
「ええ、しっかりエスコートしてよね。」
ロゼとセゾンはワゾー・ブルー祭の会場となる社交場の階段の前でセゾンがロゼに差し伸べそれに手を乗せる仕草に周りの人はほぅと顔を赤らめた。
ロゼは普段の服装からは分からないが美人だ。
ただ恋愛よりも研究が好きなので外見を磨くことはあまりない上に社交場には一切でない。
だが、社交の場に出れば見惚れるほどの存在感はあるのであの手この手で仲良くなろうとする男どもはいる。
会場に入ると羽根のブローチが付いているかの確認される。
多くの場合はドレスと合わせて装飾品を用意するのだが持っていない場合は会場が用意したものをその場で渡され身につける。
ロゼはシエルがドレスと装飾品を合わせて用意してくれたのでそれをセゾン共々パスする。
するとセゾンのブローチが傾いているのを気付く。
「セゾン、ブローチ傾いてるわよ」
傾いてると言いながらロゼが直す。すると周りがざわめき出した。
学園内ではミステリアスなセゾンにあわよくばお近付きになりたい女子生徒の悔しそうな声が聞こえるのは気のせいだろう。
「ん。ありがとう」
セゾンがにっこり微笑む。
そんな2人に寄るシエル
「ロゼ!来てくれたのね。やっぱり私の見立てた通りだわ。今宵はいい夜にしましょう?」
シエルがふわっと微笑む。
シエルの後ろからグレルがやって来る。
グレルはグレーの色に緑色の瞳をしている騎士科所属だ。
「シエル様、そちらは?」
「ふふ、グレルこの方はロゼ。わたしのお友達よ。ロゼ、こちらはグレルよ」
「ロゼ殿。よろしく頼む」
いつもならばシエルのパートナーはアジュールなのだが、懇意にしているご令嬢と共にいるようなので今回はグレルにお願いしたようだ。
そして会場に人が集まっていきそろそろパーティーが始まるようだった。
『それでは第50回ワゾー・ブルー祭を開始します。皆さまごゆるりとお楽しみください』
開始のアナウンスが鳴り、皆それぞれ談笑したり、ダンスをしたり、お目当ての人に話しかけようとしたりしていた。
ロゼたちも談笑していたが、流石に次期正妃と話したい人はたくさんいるのとこの機会にセゾンにお近付きになりたい視線を感じた。
「私、この機会ですから交流していきますね」
「なら、俺もお「友人と会うのにあんた連れてたら意味ないでしょうが」へいへい」
さっとロゼは視線から逃げるようにちょうど視界の端に入った友人に声を掛ける
ロゼにとってあの嫉妬や羨ましさ、憧れなど目立つようなことは嫌いなのだ。
社交の場だと嫌でも存在感が発揮してしまう、本当は壁の花と化していたいむしろ研究に熱中したいのだ。
ロゼが友人と談笑しているのを眺めながらセゾンは食事を取りに行っていた。
グレルも一緒だ。
グレルがふと思い付いたかのように
「セゾンは、ロゼが好きなのか?」
セゾンはちょうど取っていたチキンを落としそうになった。
「図星か」
「お前なぁ…」
セゾンはふーっと息を吐き、先程取ったチキンを口にした。
その様子に気にせずグレルも手に持っていたグラスを飲む。
「普段のお前ならどんな奴が相手でも卒なくこなすからな。お前がお供しようかなんて初めて聞いたぞ」
いつもならいかに短く用件を済ませるかのお前がねと付け足していた。
「…俺は「セゾン様!」」
セゾンが何か言おうとした瞬間ロゼが先ほど談笑していたはずの友人が慌てた様子で駆け寄った。
ただし、淑女として怒られない程度で。
「どうした?」
セゾンは優しく聞いたが友人は混乱しているようで今にも泣きそうである。
「わたしが少し目を離したすきに…ロゼが、ロゼが!」
「ロゼがどうした、何があった?」
「ロゼが!ブリリオ様に連れてかれました」
ちっと心の中で舌打ちをし、殿下が婚約破棄宣言する時刻までにロゼがいなければシエルは証拠の否定をすることができず婚約破棄され、代わりにフルールが婚約者となるだろう。それは避けたい
しかし殿下の演説までもう20分もない探すにも目星がないと…それにブリリオ1人とは限らない何人もいると考えると…「セゾン、お行きなさい。」
「シエル様…ですが」
「時間は私が稼ぎます。だからお行きなさい」
「大丈夫だ、シエル様には俺とヴァン、フロースト嬢がいる。だから行け」
「…感謝する」
セゾンは会場から出ると長い廊下に出た。
そこに2人組の男女がいた。
セゾンは顔見知りがそこにいて驚く。
「ヴァン、フロースト嬢なんで…」
「あたしは最初からシエル様の味方なのよ
シエル様のお願いは叶えたいからね
ちなみにブリリオは本来ならば禁止されている会場の上の階の宿泊ルームの1室を借りているみたいよ」
「僕がコンシェルジュに事情話して予備のキーをもらった。ここの4階の一番右の部屋だ。それにほら」
ヴァンはどこに隠し持っていたのか謎だが訓練用の剣をルームキーと一緒にセゾンに向けて投げた。
セゾンはそれを受け取る
「訓練用の剣だけどないよりいいだろ?持ってけよ。時間は稼いどく」
「感謝する!」
セゾンは2人の言葉を信じ走った。
セゾンを見送るとフロースト嬢は怒りの笑顔を表した。
「 さて、真の王位継承者が誰なのかそろそろ知らしめないとね?いくわよヴァン!」
同時刻
「お前が!俺を振るからみんなが惨めに見てくるんだぁ!!」
「知らないわよ、そんなこと」
ブリリオに連れ去られたロゼは一方的に…いや、避けていた。
(ぬるい剣さばき…可愛げぶってわざと当たるのもいいけど、それは癪だわ)
ブリリオたちはロゼに攻撃がかすりもしないのであせっていた。
これではあの人の命令すらできないのかと焦れば焦るほど攻撃が雑になってきたのだ。
普通の令嬢ならば怯えきっていたのだろうが…
「クソ!ただの令嬢じゃないの「ごめんなさいね?」うげ!!」
ロゼは3人いたが真面目に訓練を受けていないのかと思いながらまずは1人目を背後から膝蹴りをした。
1人目が倒れて動揺したのか真っ正面から振りかぶってきたのでロゼはドレスの下に隠し持っていたナイフを取り出し剣を弾いた。
弾かれたことに驚き膝から落ちるように倒れるのを見て、2人目の頭付近に片足を壁に思いっきり当てて「次はご自慢の顔を狙うわよ」とにっこり微笑むとそいつは泡を吹いて意識が消えた。
残りはブリリオのみなのだが、こいつが中々にめんどくさい。
最初は2人に命令していただけなのに一人、また1人と倒れていくのを見ると逃げ出すのかと思いきや襲いかかってくる。
動揺していたのか剣さばきも雑だ。
こんな面倒なら参加しなければ良かったと思いながら。
「なぜ怯えない!!助けを求めろ!!おれに跪けよおお!!」
んー…どうしようかなぁと思いながら避けていると開くはずのない扉が突然開いた。
仲間がまた来たのか?とブリリオから目を離さず扉に側の気配も感じていた。
ブリリオは外から仲間が来たのか喜び背後を見ずに
「おい、早くしろ!あいつを痛めつけたいんだよ!!」
後ろの人物が手出ししないのに苛ついたのか後ろを振り向いたその時だった
「ブリリオよー、振られた女を追いかけると嫌われるぞ?」
「い、ひゃ…ごめんなさーい!!」
セゾンはにっこりと微笑みながらブリリオを再起不能までに徹底的に潰していた。
ロゼはそれを額を手で押さえてもうどーにでもなれと。
にしてもなぜあんなにも怒っているんだろうか
ブリリオが他の2人共々伸びているのを横目で見ていた。
「やりすぎじゃないの?これも計画の1つでしょう?」
私はため息を吐きセゾンが何も答えないことをいいことに続けた。
「そもそも、フルール嬢の悪事を探るのに手段選べないし。セゾンがこっちにきている間に色々確証は得たもの。これで勝てるわ。あとはシエルの合図が出ればあたしの出番。それとも戦場に行くのに生半可の気持ちだったの?」
私はこのとき何も分かっていなかった。
彼の気持ちとそれと相対する使命の重さを。
近くで見ていたような気になっていたんだろう。今更気付いたところで意味はないんでしょうけれども、だけどそれでもあの時私が言った言葉に複雑な顔をしたセゾンの顔が頭から離れない。
「悪かったよ。お前はいつもそうだな」
セゾンが複雑な顔をした後にいつもの顔に戻っていたけど、この時間違えなければこの先もいただろうか。