二話 ルークに出会う
少し前まで晴れていた空には、雨雲がおおっていた。
俺は、もうすぐ雨が降るなと呟く。
急いで泊まる所を探した方がいい。悪天候のなか、ここで野宿をするのはさすがに無理だ。
「俺はルーク。よろしく」
「そうか……俺はもう行くから。じゃあな」
できるだけ急いだ方がいい。それにもう腹が減りすぎてつらい。ルークと名のる少年に別れを告げ、歩きだす。が、止められた。
ルークは目を見開き、鼓膜が破れるくらい大きな声で叫ぶ。
「待て待て待て! 今俺『よろしく』って言ったよね? なんで平然と通りすぎて行こうとするの?」
「は? 別に知り合いでもないだろ?」
「いやいや、今知り合っただろ! 自己紹介しただろ! このながれは、お前も普通は自己紹介するだろ!」
そうなのか? と不思議に思っている中、ルークは……
「それで、お前の名前は?」
俺のことを睨みながら尋ねてきた。
「俺はディル」
そして、ルークは、俺に何かを求めるように目をキラキラさせて見つめてきた。なんだ?
「ディル……この姿を見てなにも思わない?」
ルークは、まだ地面の中からでてきていない。
「ああ、速く地面からでればいいとは思うが……」
「助けようとは思わないのかよ!?」
「お前……まさかでられないのか?」
「……ああ」
「……」
俺が黙り、呆れた顔でルークを見ていると、ルークの顔が真っ赤に染まった。はぁ、それぐらい自分でなんとか……
ぐぎゅるるるるるるる。
俺の腹が鳴った。
ルークの方を見ると笑みを浮かべていた。
「俺を助けてくれたら、飯を沢山食わせてやる! だから助けて! 頼む!」
「……わかった」
魔王の俺がまさか飯ぐらいでつられるとは、思わなかった。
俺は、土を少し掘ってから、ルークの服を掴み、引き上げる。
地面からでることができたルークは服に付いた土をはらう。そして、俺の方を向き『ありがとな』と言った。
俺は、ありがとうと言われたことがなかった。人間に転生した今、言われるとは……まぁ悪くない。
ルークをよく見ると、少し高そうな服を着ている。多分貴族だろう。
身長は、俺くらいだった。年を聞くと13歳だと言う。
なら、俺の年は多分13歳くらいだな。
俺には、今まで生きてきた記憶はないし、俺と同じくらいの身長のルークが13歳なのだからきっとそうだろう。
少しでも、自分のことを知る事ができて、嬉しくなった俺は、無意識に笑みを浮かべる。
その表情を見てからか、ルークがニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。
だが、俺は全くそれに気づくことなく、王都にあるというルークの家まで、期待をふくらませながら向かった。