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第5話 ティファ、魔法を使う?

「ちょっと何よあれ! なんであの落ちこぼれがあんなすごい魔法使ってんのよ!?」


 魔神騒動から二週間後。ついに魔法が発動できるようになったティファは、今年初めて参加した魔法実技の授業にて、とてつもなく派手で強力な魔法を発動させてクラスメイト達の度肝を抜いていた。


「……う~ん……」


 気と混ぜて魔力を外に放出できるようになったのが数日前。そこから、暴走させても何の問題もないライトの魔法でユウ監督のもと制御訓練をみっちり行い、満を持して参加した魔法実技の授業。


 その結果は、ティファにとって満足いくものではなかった。


「すごいわね。学院長から順調に進んでるって聞いてたけど、ここまでとは思わなかったわ」


 担任の女性教師、エマ・ラジュカが驚きの中に喜びの色を混ぜて、ティファを手放しで褒める。


 だが、その称賛の言葉に、ティファは不本意そうな、情けなさそうな表情を向けるしかなかった。


「あれ? どうしたのティファさん、何か失敗した?」


「はい。失敗も失敗、大失敗です」


「え~っと、詳しく聞いても?」


「辛うじて暴走は抑えられましたが、魔力が大きすぎてまともにコントロールできてません。正直、まだまだ普通に使えるところまでは……」


 あまりに暴れ馬な自身の魔力について、泣きそうになりながら切々と訴えるティファ。


 いくらなんでも、ファイアーボールを使おうとしてファイアーストームより大きな魔法に化けるなんてありえない。


 もっとも、それ以上にありえないのが、これだけ高威力の魔法を発動させたというのに、ほとんど魔力を消費していないことである。


 これでは、効果の薄い初歩の補助魔法の運用ですら危なっかしい。


 物理的な影響がばっちり出る日常魔法など、もってのほかだ。


「で、でも、きれいにコントロールされてたように見えたけど……」


「さすがに、どこに飛んでいくか分からない、なんてむちゃくちゃな状態ではないですけど、流れ込む魔力の量が全然コントロールできなくて……」


「……えっと、具体的には?」


「ほんのちょっとだけ流すつもりで流路を開けてるのに、その隙間からものすごい勢いで魔力が流れていっちゃうんです。しかも、慌てて止めなきゃいけないほどの量が流れているはずなのに、蓄えてあるほうの魔力はちっとも減ってなくて……」


「……」


 ティファの、聞きようによっては贅沢にもほどがある言い分に、完全に言葉を失うエマ。まさか、そこまで厄介なことになっているとは思わなかったのだ。


「……ごめんなさい。そこまでとなると、先生の手には負えないわ……」


 ティファの窮状に関して、早々にギブアップするエマ。


 恐らく生まれ持った大魔力に振り回されているか、それとも魔法発動を可能にした特殊な制御法が悪さをしているかのいずれかであろうが、どちらであってもエマが指導できる内容ではない。


 残念ながら、エマは優秀な魔術師ではあるが凡人であり、魔力量も制御方法もごくごく一般的な、普通に優秀の範囲でくくられてしまう魔術師でしかないのだ。


「……学院長に相談するしかなさそうね……」


「……はい……」


「そういえば、訓練で初めて魔法を発動させたときは、どんな魔法を使ったのかしら?」


「一番安全なライトの魔法を使いました」


「では、それを見せてもらえる?」


「はい」


 エマの指示を受け、ライトの魔法を詠唱するティファ。その詠唱を聞いていたエマが、小さく首をかしげる。


「授業で教えたものと、詠唱が違うような気がしますが……」


「ユウさんが、こっちの魔法はよく知らないから指導しようがないって、この魔法を教えてくれたんです」


「ああ、そういうことでしたか」


 詠唱を終え、発動直前で止めておくという地味に器用な真似をしつつ、エマに理由を告げるティファ。


 魔法を使えるようになってまだ数日しか経っていないというのに、すでにそこまで器用な真似をやってのけるティファに内心目を☆丸くしつつ、理由自体には納得する。


 授業で教えている魔法の詠唱というのは、あくまでもトライオンで一番メジャーなものというだけだ。国や師匠が違えば、同じ魔法でもガラッと内容が変わることはいくらでもある。


 また、発動前で止めおいて発動タイミングをずらすという技法に関しても、かなり器用な真似ではあるができる魔術師は珍しくないし、魔導士となるとできて当然である。


 そんなことを考えていると、ティファが何ごともなかったかのようにライトを発動させる。


「ふむ……結果は普通ですが、ほとんど魔力の動きを感じませんね」


「ライトの魔法はユウさんが使い慣れてるからって、徹底的に反復練習させてくれたんです。それで、そのときに覚えた方法で違う魔法もどうにかできないかと、さっきファイアーボールで試してみたんですが、この結果に……」


 話を聞く限りにおいて、どうにもティファの魔力の性質や身に着けたコントロール方法が、ことごとくトライオンの、もっと正確に言うならアルト魔法学院のやり方と相性が悪いようだ。


「ごめんなさい。やっぱりこれは学院長の手をお借りしないと。私ではそもそもティファさんの魔力の動きすらほとんど把握できませんから……」


「はい」


 内心忸怩たるものを抱えながら、二度目の完全ギブアップ宣言をするエマ。


 一度目と違って魔法自体は使えるようになっているため、授業料免除は復活させることができるだろうが、結局エマ自身は徹頭徹尾、何の役にも立てていない自覚がある。


「エマ先生! ベイカーさんばっかり見てないで、私達にも教えてください!」


「あ、ごめんなさい!」


 良くも悪くも自分達とはかけ離れたティファに呆然としていた生徒の一人が、何やら対抗心むき出しの表情でエマを呼ぶ。


 結局この日の授業で、ティファはこれ以上魔法を使うことはなかったのであった。






      ☆






「お呼び立てして、申し訳ありません」


「こちらも相談したいことがあったから、それは構わないのだが、あなたのほうから呼び出しとはまた、珍しいな」


 ティファが実技の授業で悪戦苦闘していたのと同時刻。


 ユウは、リエラに呼び出されてアルト魔法学院を訪れていた。


「本日お呼びしたのは、他でもありません。まだかなり先の話ですが、今のうちにユウ殿に指名依頼を出したかったのです」


「指名依頼か。内容は?」


「簡単に言うなら、護衛と引率ということになりますね」


「護衛と引率か。今までティファの採取の護衛をやってきたが、その延長線上か?」


「はい。ティファの学年である三年生から、学年の終わりにフィールドワーク実習があります。学年によって実習場所が異なるのですが、三年生は『堕ちた遺跡』の表層を使って行われる予定でして、その護衛をお願いしたいのです」


 リエラの依頼内容を聞き、少し考え込むユウ。


 護衛依頼自体は問題ないが、学年の終わりまでまだ半年近くあるのに、今の時点でわざわざ自分を呼び出して予約まで入れる理由が分からない。


「確認しておきたいのだが、三年生の人数は?」


「年によって人数もクラスの数も変動しますが、今年の三年生は二十人で一クラスだけですね。こういっては何ですが、我が学院は学費も高いですし、わざわざ魔法学園に通うほどの魔力の持ち主が、毎年何クラスも作れるほど現れる訳もありませんし」


「なるほどな。それで、俺はその全員を護衛しなければいかんのか?」


「いいえ。ユウ殿にお願いしたいのは、その中でティファが入る班を護衛し、場合によっては指導していただきたいのです」


「ふむ……」


 リエラの説明に、再び考え込むユウ。


 全員と言われなかっただけマシだが、子供を連れて表層とはいえダンジョンに潜るというのは、なかなかにリスクの高い依頼といえる。


 ティファだけなら気心が知れている分、一定ラインの信頼関係もあれば、お互いにどこまでのことができるかもある程度把握できているが、それ以外の子供となると、そもそもこちらの指示を素直に聞いてくれるかどうかすら分からない。


「一班の人数は?」


「四人から五人です。今の段階では未定ですが、恐らく五人で四班になるかと思われます」


「五人か。一人で面倒を見るには厳しい人数だな」


 子供が五人。そう聞いて顔をしかめるユウ。


 教育水準の差を踏まえても、恐らく完全に目を行き届かせることはできないだろう。


 そもそも、素人五人というと、たとえ全員が大人でも一人で守り切るには難しい。


 もっとも、いくら護衛依頼といえど、ダンジョン内でしかも戦闘経験も積ませようという条件では、完全に無傷でなどとは冒険者も護衛対象も普通は考えない。


 だがユウの場合は、エルファルド大陸の騎士の基準、すなわち、どのような環境でも護衛対象にかすり傷一つ追わせずに守り抜き、かつ依頼人が求めるだけの十分な経験を積ませようとしているからこそ、厳しい表情を浮かべているのだ。


「せめて、三人にならないか?」


「難しいところですね。ただ、場合によっては一班三人になるかもしれません」


「と、いうと?」


「毎年、必ず何人かは、参加資格に到達しない生徒が出て来ます。その人数次第というところですが、五人以上の脱落者が出ればそうなります」


「なるほど。それで、その脱落者となる条件は?」


「まず当然ながら、実習中に悪ふざけをした生徒や、故意かミスか問わず他者を巻き込むように攻撃魔法を使った生徒は、どれほど優秀であろうと資格は得られません。例外は、発動のタイミングで他社が魔法の範囲内に割り込んできた場合だけです」


「それはそうだろうな。他の人間の命にかかわる。他には?」


「草原で普通に遭遇するモンスターを一人で仕留められる、もしくは完全に攻撃を無力化できる魔法を使えるようになれなければ、今年の参加資格は得られません」


「そちらのほうは、要は、最低限の自衛ができなければ参加できん、と考えていいか?」


 ユウの質問に頷くリエラ。


 いくらベテランに引率されるといっても、ダンジョンはダンジョンだ。最低限の自衛もできない人間を送り出す訳にはいかない。


「その条件だと、治療魔法や補助魔法が得意な生徒は参加できない、ということにならないか?」


「治療魔法に関しては、最低でも防御手段を身に着けていなければそうなります。補助魔法が得意な生徒は、その補助魔法を自身にかけて物理攻撃で仕留める、などでも資格を満たしていると判定しています」


「なるほどな。正直、そこまで自衛の重要性を理解しているのであれば、もっと基礎体力を鍛えるほうに時間を割いてもらいたいところだが」


「そのあたりについては、現在各方面と協議中です」


「公的機関は、こういうときに時間がかかって仕方がないな」


「まったくです」


 ユウのボヤキに同意するリエラ。そのままいろいろ愚痴りたい気分ではあるが、さすがに仕事の話の最中に関係ない話題で脱線するのはよろしくない。


 いろいろ残念に思いつつも、さくっと気分を切り替える。


「それで、引き受けてはいただけますか?」


「……ティファが関わっている以上は、引き受けざるを得ないな」


「そうですか、ありがとうございます」


「四人以上になったとき、ティファぐらい聞き分けがいい子供が一人でも多く混ざっていることを祈るしかないな」


 ユウのかなり贅沢な希望に、渋い顔をしながら小さく首を横に振るリエラ。


 政治関連の問題が集中しただけにティファの学年に関してはきっちり把握しているが、彼女ほど頭も聞き分けもいい生徒に心当たりはない。


 しいて言えばリカルドはかなり素直で人の言うことをよく聞くが、キャットを警戒しなかったように、学力とは違う部分で頭と経験が足りていない。


「あそこまで、となると難しいでしょうね。あの子の聞き分けの良さは、ちゃんと受けた指示の理由まではっきり理解する頭の良さから来ていますから」


「だろうな。しかもそのティファですら、採取ではたまに危なっかしいことをしてくれる」


「毎年、護衛の手配は頭が痛い問題なんですよ。ですが、これも経験させないと普通は理解できないことなので……」


「後進の育成というのは、誰にとっても頭の痛い問題のようだな」


「教育とは、元来そういうものですから」


 ユウの言葉に、穏やかな笑顔ではっきりというリエラ。


 魔法を教えるだけなら必要のない課程ではあるが、トライオンで暮らす限りはどんな形であれ、魔術師や魔導士がダンジョンと関わらずに生きていくことなどできない。


 だからこそリエラは、毎年少しでも安全に課程を終えられるように、だが必要以上に安全を確保しないように頭を悩ませながら護衛を選定し、期間中は居ても立ってもいられないほど心配しながらも、心を鬼にして生徒達を送り出しているのだ。


「そういえば、報酬の話をしていませんでしたね」


 無事に話がまとまったところで、一番重要な話をしていないことに気がつくリエラ。


 ユウのほうも、報酬以前の前提条件ばかり気にしていて、それだけの面倒ごとを請け負う対価については、すっぱりと抜け落ちていたようだ。


「言われてみれば、そうだな」


「報酬ですが、護衛対象が複数、かつ子供ということを勘案して、毎回相場の倍額を支払っています。この費用に関しては年間予算に計上されていますし、悪名高い現政権といえどもさすがにここを削ろうとするような真似はしていません」


「支持率とやらに直結しそうな内容だからな。当然といえば当然か」


「そうですね」


 今までに聞いたあれこれを思い出しながら皮肉を言うユウに、同じく皮肉をたっぷり込めて同意するリエラ。


 そのおかげでティファと知り合い、こうして地域にスムーズになじむことができたとはいえ、そもそも矛盾するルールで子供を意図的に路頭に迷わせたり餓死に追い込んだりするようなやり口は、到底認める気になどならないのだ。


「では、報酬はそれでよろしいですか?」


「ああ。弟子の面倒を見る一環だからな。人数の問題さえなければ、別に色を付けてもらわなくても受けていた」


「そうですか、ありがとうございます」


 ユウの言葉に、再び安堵のため息を漏らすリエラ。最近では少なくなったものの、大勢の子供の面倒を見るからという理由で、さらに増額要求が来ることも珍しくなかったのだ。


「それでは、こちらからの依頼の話は、また時期が近くなってからということで、今日のところはこれで終わらせていただきます」


「ああ、分かった」


「それで、ユウ殿の相談というのは?」


「ティファの魔力制御についてだ」


 ユウがわざわざリエラに相談しに来るなど、それ以外にない。そうは分かっていても、本人の口からはっきりと聞かされると、どうにも不思議な気分になるリエラ。


 正直なところ、技術系統が違いすぎて、アドバイスなどできるとは思えないのだ。


「……恐らく、ティファの魔力に関しては、あなたより詳しい人間はこの国にはいないと思うのですが……」


「魔力そのものに関してはそうだが、残念ながら俺は、魔法の扱いは専門とは到底言えん。なので、問題点は分かっているのだが、どうアドバイスすればいいか分からないことが出てきている」


「どうアドバイスすればいいか分からない、ですか……。具体的には?」


「魔力だけで魔法を使う方法を、というより正確には、多すぎる魔力量と太すぎる流路を持つ魔法使いが、魔力だけで正確に過不足なく魔法を発動できるようになる方法を、どう教えればいいのか。そのノウハウがない」


「……それはまた、難しい問題ですね」


 ユウの困りごとに、リエラも難しい顔をしてしまう。


 ユウとティファが直面している問題は、古今東西の大魔力持ちが必ず直面し、今も確実な方法というのが編み出されていない難しい問題なのだ。


「後で私も直接確認しますが、まずティファの現状を聞かせていただいてもよろしいですか?」


「ああ。例の魔神騒動で気の感知に成功したティファに、魔力制御の前段階として、まず気の生成と制御を行うための呼吸法を教え、気のコントロールの基本となる部分をほぼマスターさせた」


「そのあたりは門外漢なのでよく分からないのですが、気のコントロールが魔力の制御に関係しているのですか?」


「まず大前提として、ティファが魔法を使えなかった一番の原因が、体内の魔力を流す流路が外につながっておらず魔力が外に出せないから、ということはいいか?」


「ティファの流路がまるで見えなかったので、そこまでは分かっていませんでしたね。流路が外部につながっていない者というと、私の知る限りでは全員、魔力が極端に低かったので、無意識に可能性から除外しておりました」


「まあ、そうだろうな。それで、このタイプは魔力を大きく動かすことで、強引に外部へ流路をつなぐことが解決方法になるんだが……」


「そこで気のコントロールを使うのですか?」


「ああ。魔力を大きく動かす手段として、魔力を混ぜてコントロールできるところまで気の扱いを覚えさせる必要があった」


「なるほど」


 ティファが長年抱えていた問題。その正体と対処法を知り、喉のつかえがとれたような気分になるリエラ。


 他人の魔力の流路などそう簡単には見られない。しかもティファは生まれつき、凄まじいまでの大魔力を持っている。その大きな魔力が目くらましとなり、元々見えづらい魔力流路を完膚なきまでに隠してしまっていたのだ。


 このあたりは、ユウがやったように根本的に違うアプローチで確認しなければ、恐らく永久に気がつくことはなかっただろう。


 余談ながら、魔力の流路が外につながっていない人間の場合、自身の身体能力を強化する類の魔法もほとんど使えなくなる。


 これについては比較的簡単な理屈で、流路が飽和しているためにほとんど魔力を動かすことができず、魔法という形に仕上げることができないのだ。


 そんな状態ながら、ゆっくりとはいえ魔力を動かせるようになっていたティファが、凄まじい才能に恵まれた努力家なのは間違いないだろう。


「流路が外につながっていないのであれば、魔力が詰まって動かすことも困難でしょうし、魔法を発動させることなど不可能だったのも仕方がないでしょうね」


「そういうことだな。それで、とりあえずそこはクリアして、魔法を発動させることには成功したのだが……」


「魔力量が大きすぎて、まともにコントロールできなかった、と」


「いや、コントロール自体はできていた。最初の段階では、気と混ぜて魔力を制御し、それで魔法を使わせていたからな」


「では、何が問題なのですか?」


「練習用のライト以外の魔法だと、気と魔力を混ぜた影響なのか、普通より威力が増幅されて、とてもではないが安心して使えん状態になってしまう」


 ユウの説明を聞き、思わず黙り込むリエラ。


 実際に使っているところを見なければ分からないが、大抵のことに動じないように見えるユウが、そこまできっぱりと言い切るくらいだ。本気でどうにもならない派手な威力になっているのだろう。


 こちらの魔法が分からないから、慣れている故郷の魔法で指導したと言っていたユウだが、実際のところは、そういう練習にも使える魔法がライトしかなかっただけだったらしい。


「そういう訳で、気を完全に分離して魔力だけをコントロールさせて魔法を使わせてみたのだが、それはそれで制御感覚が変わりすぎるからか、やたら大量に魔力を流し込んでは、とんでもない規模に膨れ上がらせて魔法を発動させてしまってな」


「……それは、また……」


「横で見ていて正直、よくも暴走させないものだと逆に感心するぐらい、そのあたりのコントロールは正確なんだがな……」


「つまるところ、魔力が大きすぎてコントロールできていないを通り過ぎて、別の魔法に化けている、と?」


「俺が見ている限りではそんな感じだな。自分が使っている魔力の量自体もちゃんと把握できていない感じだった」


 ティファの現状を正確に理解し、渋い顔で天を仰ぐリエラ。


 そのケースをどうにかしようとするなら、まずは少量の魔力を流路に流す感覚をどうにかして理解させなければならないが、それがまた難しい。


 コップ一杯分の水は酒瓶サイズの容量から見れば結構な量でも、バケツサイズだとそれほどでもなくなり、大樽の容量になるとほんの少量でしかなくなるのと同じ話である。


 流す量にしても、酒瓶からコップ一杯分を注ぐのは簡単でも、蛇口もついていない大樽からコップ一杯分を汲むのは至難の業だ。


 ティファの場合、一番魔力量が少ない想定でも中身が満タンの大樽を傾けてコップ一杯分を注ぎ込む感じになるので、その感覚をつかませるのはなかなかに骨が折れそうだ。


 それほどにティファが保有している魔力量は桁違いなのだ。


「後、ティファの魔力量について、もう一つ絶望的な話があるのだが……」


「……何でしょう?」


「恐らく鍛錬によって体が健康で丈夫になった影響だろうが、俺が把握している限り、面倒を見始めてから気の感知ができるようになる直前までで、魔力量が五割は増えていた」


「……」


「そして、気の扱いを覚え、魔力の流路を外部につなぐことに成功した今、感知を覚える直前と比較しても倍ぐらい増えている」


 ユウの絶望的な言葉に、自身の机に突っ伏して頭を抱えるリエラ。


「しかも、今現在も恐ろしい勢いで増えている」


 そんなリエラにトドメを刺すべく、シャレにならない追い打ちをかけるユウ。


 最近忙しくてティファの魔力量を確認していなかったが、どうやらリエラが想定していたレベルなど、はるかに超えた状況になっているようだ。


「……気の扱いのほうからアプローチする形では、どうにもなりませんか?」


「もちろん、それはやっている。というより、あれだけの大魔力だと、体も相応に鍛えておかなければ持たんだろうが、正攻法で鍛えてもそれだけの肉体を作り上げることは不可能だ」


「魔力を支えるための肉体を維持するために、必然的に気の扱いを鍛えなければいけない、という訳ですか……」


「ああ。幸いにして、現時点でティファが持つ気の量は、同じ年頃の子供と比べて三割多い程度だ。大人と比較して何倍、なんて桁違いのエネルギー量はない」


「それは、安心していい情報なのでしょうか?」


「少なくとも、肉体の面では人間を逸脱していない、という意味では、安心していいはずだ」


 暗に魔力は人間を逸脱していると言われ、そろそろ悟りの領域に入りつつあるリエラ。


 思うことはただ一つ。この魔力を与えられたのが、ティファでよかったということだけである。


 もしまかり間違ってキャットのような者がその魔力を得ていたら、碌なことになっていなかっただろう。


「一応確認しておきますが、気の扱いを覚えたことで、ティファの体に悪影響が出る、などということはないのですよね?」


「やりすぎない限りは命に別状はない、はずだ」


「はずだ、とは、また曖昧ですね?」


「あんな小さな子供を指導したことなどないから、絶対などとは口が裂けても言えん。俺に言えるのは、現時点では体が丈夫になったのと、扱える気の量の増加に合わせて魔力量も増えているが、どちらも不具合につながる要素はない、ということだけだ」


 無責任といえば無責任なユウの言葉に、ついつい白い目を向けてしまうリエラ。


 その視線に対し、悪びれる様子もなく堂々と構えているユウ。


「どちらにせよティファに関しては、魔力封印を施すか気の扱いを覚えて強引に魔力流路を外につながねば、いずれ魔力が飽和して命にかかわっていた。害があろうがなかろうが、現状で選択肢はなかったさ」


「それは事実かもしれませんが、開き直るのはどうかと思いますよ?」


「それを言い出せば、あの異常な魔力量が未熟な子供の肉体に悪影響を及ぼす可能性だって十分に高い。こちらは実例が残っているからな」


「……そうですね。これ以上は水掛け論にしかなりませんし、とりあえず一度様子を見て確認しないことには、何もできませんね」


 ユウと口論し、痛いところを突かれて冷静になるリエラ。


 そもそもティファの場合、仮に最初からちゃんと魔力制御ができたところで、いずれ何らかの形で肉体を強化せねば、自身の魔力に振り回されて肉体か精神かのどちらかに問題が発生していた可能性は否定できない。


「そういえば、ユウ殿はいくつのときから気の扱いを磨いておられるのですか?」


「十歳からだな。どこでも大体そうだとは思うが、俺の古巣である鉄壁騎士団は、十歳になるまでは見習いにもなれんからな。少なくとも俺がいた頃は、鉄壁騎士団ではそれより幼い子供を鍛えた経験も記録もない」


「なるほど。それで、十歳からは特に問題はない、と?」


「ああ。少なくとも、気の扱いを覚えたせいでおかしくなった、と断言できる事例はない」


 実際の記録をもとに、十歳以上なら問題がないことを告げられ、とりあえず納得するリエラ。


 そもそも問題があるなら、そのままの形で運用したりはしないだろう。


 そこまで考えたところで、鉄壁騎士団ではとやたら強調していたことに気がついてしまう。


「一つ気になったのですが、よろしいですか?」


「ああ」


「先ほど、妙に鉄壁騎士団では記録がないと強調していましたが、それ以外ならあるのですか?」


「お館様――クリシード公爵閣下なら、どこかで十歳未満の子供に仕込んでいてもおかしくない。が、それはお館様が個人で勝手にやっていることだから、俺達まで情報が来ることはない」


「それは機密だから、ということですか?」


「いや。単に面倒だから報告してこないだけだ。お館様がどこかで子供を拾ってきては勝手に育てて面倒を見る、なんて珍しい話でもなかったし、お嬢様、つまりクリシード公爵令嬢も年齢一桁の頃にどこかから拾ってきて娘として鍛えたらしいしな」


 ベルファールの鉄壁と名高い英雄の、貴族らしいのからしくないのか分からない一面を聞かされ、反応に困るリエラ。


 教育者である以上、出自で差別する気はないが、こういう仕事をしていると、ある程度出自ははっきりしていないと国防的な意味で危険極まりないのも分かってしまうのである。


「とりあえず、うちのお館様については置いておこう」


「そうですね。とりあえず、十歳以上には直接の悪影響はない、ということには納得しました。力に溺れるなどの間接的な問題に関しては、それこそ教育で何とかするべきものですし」


「ああ。後は生命力が強化・活性化されすぎた結果、寿命が延びてしまってエルフのような成長の仕方をするようになったり、同世代より発育がよくなりすぎたりしてしまう可能性もあるが、前者はともかく後者は悪いことではないはずだ」


「なるほど。ユウ殿が気にしていた問題というのは、そういうことですか」


「ああ。ティファくらいの年頃は、どんどん体が作られていく時期だ。その時期に生命力を強化して活性化させるのだから、悪いことにはならんだろうが。どの方向に影響が出るかは分からん」


「あの年頃で二年違えば、大違いですからね」


「体格以外にも女の子の場合、八歳で胸が膨らみ始めている子供はほとんどおらんが、十歳なら珍しくもないからな。二年というのは、それだけ差がある」


「ええ、そうですね」


「そういう意味でも、ちょっと注意しておいてほしい。背丈や筋肉の付き方ならともかく、それ以外の発育を俺が観察する訳にはいかん」


 ユウの言葉に頷くリエラ。生命力が強くなることで起こる可能性のある問題。そのすべてについて可能な限り気を配ることを心に誓う。


 本来、一人の生徒に学院長がここまで入れ込むのは大問題なのだが、今のティファは様々な意味で巨大な爆弾となっている。


 特に魔力的な意味では、ちゃんと様子を確認しておかなければ他の生徒の安全にもかかわる。


 特別扱いはいかがなものか、などとは言っていられないのだ。


「では、ティファの魔力制御の件、よろしく頼む」


「力になれるかは分かりませんが、私のほうでも現状を確認したうえで何か考えておきます」


「ああ。では、忙しい中時間を取らせた。これで失礼する」


 そう言って一つ頭を下げ、部屋を出ていくユウ。


 それを見送って、ユウとのやり取りで得た情報を再度整理し、ぐったりとしながらため息をつくリエラ。


 誰が悪い訳でもないのに、ここまで厄介なことになっていると、むしろ笑いたくなってくる。


 そんなことをつらつらと考えていると、扉が小さくノックされる。


「どうぞ?」


「失礼します」


 噂をすれば影とでもいうべきか、可愛らしい声とともにティファが入ってきた。


「先生、今お時間よろしいですか?」


「ええ。先ほどまでユウ殿とあなたの話をしていましたので、用件は分かっています」


「ああ、それでユウさんの気配があったんですか」


 何やら胸のつかえがとれたのか、妙に嬉しそうな表情を浮かべるティファ。


 見た目も性格も愛らしい、魔力以外の面ではこれといって心配のない少女なのに、常に魔力がらみで問題児となってしまうことに複雑な思いを抱かざるを得ないリエラ。


 だが、実際に今のティファの魔力をチェックすれば、たとえどこからどんなクレームが来ようとこの子に専念せざるを得ないとはっきり分かってしまう。


「さすがに、現状を見ないことにはアドバイスのしようもありません。確かこの時間は第三実習場が空いていたはずですので、そちらで確認させてもらいます」


「はい」


 もはや自身の魔力量では勝負にならないほどのティファの魔力に戦々恐々としながら、態度だけは堂々としてみせるリエラ。


 その後ろ姿を頼もしそうに見上げながら、後に付いていくティファ。


「どうやっても、こうなっちゃうんです……」


「これはまた、聞きしに勝る状況ですね……」


 結局、想像以上の爆弾ぶりに、まったく対処方法が思いつかずに頭を抱えるリエラであった。






      ☆






「何よ、あの子!」


「今までまともに魔法が使えなかったくせに、ちょっとうまくできるようになったらえらそうに見せつけやがって!」


「あんなの、単に暴走させてるだけじゃない!」


 放課後。ティファのいない教室では、何人かの生徒が荒れに荒れていた。


「とりあえず、めざわりなのは間違いないわね」


 その中のリーダー格であるエフィニア・ノックスが、妙に偉そうな態度で鼻を鳴らしながら、やたら気取ったポーズでそう宣言する。


 その目には、落ちこぼれの癖に教師達の関心を根こそぎ奪い去ったティファに対する、怒りと憎しみと嘲りの心が浮かび上がっていた。


 とはいえ、所詮はティファと同じ八歳、もしくは先に誕生日が来て九歳になった子供の集団。


 背丈も足りなければ人生経験的な意味で中身も伴っていないので、どんな気取ったポーズを取っても、どうしても滑稽さが先に立つ。


「能もないのに特待生にいすわってるはじしらずに後悔させるために、おじ様に頼んでいろいろほーりつを変えてもらったっていうのに、いまだにワタシの前をちょろちょろするだけじゃなくて、わざとらしく魔法を暴走させて先生の関心を引くなんて、本当にめざわり」


「なあ、エフィニア。何かいい考えはないのか?」


「あいつ、座学は全部合格してるから、ほとんど授業に出てこないんだよな~」


「そうね。もうすぐダンジョン実習だし、てっていてきに邪魔して、学院に居られなくしちゃえばいいんじゃないかしら」


「ダンジョン実習は、先生の目があるだろう? フィールドワーク実習の『堕ちた遺跡』のほうにしないか?」


「あら? このワタシにそんなに待てというの? それに『堕ちた遺跡』は本物のダンジョンだもの。あの子のために自分が危険な目に遭うなんて、バカみたいだわ」


 そもそも、ダンジョン実習の最中に他人の邪魔をして学院から追い出そうとすること自体、馬鹿のする発想だという認識もないまま、中途半端に理性があることを誇示してみせるエフィニア。


 大体、ここにいる子供達の中に、詠唱中に妨害されて魔法を暴発させないような者はいない。


 残念ながら不発ではなく暴発なので、当然本人はおろか周囲の人間も危険に晒す。


 エフィニア達の魔力ならよほど運が悪くても腕一本程度で済むかもしれないが(それでもこの年頃の子供としては破格である)、ティファが魔法を暴発などさせたらダンジョンもろとも全員が跡形もなく吹き飛びかねない。


 すでに今日の実習の時点で、ティファの魔法はそのくらいの威力を出せる片鱗を見せていたのだが、相手を見下しきっているエフィニア達には、そんなことは分からない。


「先生にばれないようにあの子の邪魔だけする、その方法を考えればいいわね」


「面白そう。みんな、一人一つは考えてくること。できる?」


「やってやろうじゃんか」


「ああ。あのくそ生意気なびんぼー女が、泣いて謝って学院から出ていくまで、徹底的にやってやろうぜ」


 学院から出ていくも何も、中退を許してもらえるなら特待生資格を剥奪された時点で実家に帰っているのだが、そんな大人の決めたシステムについてはまったく知らない子供達。


 そんな、普段は猫をかぶって大人にこびている子供らによる身勝手な嫌がらせ計画は、子供らしい穴だらけの内容のまま、どんどんエスカレートしていくのであった。






「今日から、気で外部に直接干渉する方法を教える」


「外部に、ですか?」


「ああ。今までは、体内で循環させることで疲れを抜いたり、腕力や足の速さを底上げしたりといった使い方を練習させてきたが、今日からは飛んで来た攻撃を防いだり、他人の傷や疲れを癒やしたりする方法を教える」


「気で攻撃を防ぐのはなんとなく分かるんですが、傷を治したりもできるんですか?」


「無論だ。といっても、よほど腕と相手の体力がないと、回復魔法のように急速にとはいかんが」


 ユウとリエラの相談から一週間後。いつもの訓練と場なっている公園。


 結局何の打開策も思いつかなかったユウは、とりあえず気の扱いについて次のステップに進むことにした。


「まずは、基本中の基本。体の表面に気の膜を張って防御力を上げるやり方だ」


「はい」


「気の流れをよく見ておくように。……こう動かして、こうやる。このときに気をつけることは、皮膚の表面を固くする訳ではない、ということだ」


「はい。完全に体の外側、髪の毛一本分くらい皮膚から浮かせたあたりに作ればいいんですね?」


「ああ、そういうことだ。やってみてくれ」


 ユウに促され、慎重に髪の毛一本ほど外側に気の膜を張ろうとする。


 だが……、


「あう……、皮膚が硬くなっちゃった……」


「もう一回、だな」


「はい」


 最初のチャレンジは無情にも、体の外側ではなく皮膚の表面を硬化させてしまう。


 その後も何度も同じようなミスを繰り返すこと一時間。


「うう……できません……」


「これに関しては、練習あるのみだからな」


 結局、何度やっても皮膚や筋肉を硬化させるか、膜ができる前に雲散霧消するかのどちらかで、一度も上手くいかなかった。


「……すごく、難しいです」


「だが、魔力がまともに動かせなかったときや気の感知を始めたときに比べれば、よほど手応えはあるだろう?」


「はい。やることは分かっていて、多分こうだろうなって感覚もつかめてます! ただ、そこから先がものすごく難しくて……」


「走り込みと同じだ。毎日に何回もやっていれば、少しずつできるようになる」


「はい!」


 ユウの言葉に素直に頷き、再び気の操作を始めるティファ。


 さらに何度も何度も、普通の人間なら飽きて気が遠くなりそうなほどの回数を愚直に繰り返し、ほんの少しだけ上手くいきかけたところで、誰かが慌てた様子で息を切らせながらユウ達のもとに駆け込んできた。


「ティファちゃん!」


「え? リカルド君? こんなところに慌ててどうしたんですか?」


「あのね、いまね!!」


「とりあえず、落ち着け」


 とにもかくにも焦りまくっているリカルドを、まずは落ち着かせようと宥めに入るユウ。


 ユウの存在にびくりとして、一瞬でおとなしくなるリカルド。


 まるで怯えられているかのようなリカルドの反応に一切気を留めることなく、とりあえず落ち着いたと見て声をかけるユウ。


「そこまで慌てるくらいだから、かなり大変なことなのだろうが、何があったのか話せるか?」


「う、うん。あのね、エフィニアちゃん達が、ダンジョン実習でティファちゃんに意地悪して、学院から追い出そうとしてるんだ」


「ダンジョン実習? フィールドワーク実習なら聞いているが……なんだそれは?」


「フィールドワーク実習の前哨戦として、先生達が魔法で作った人工ダンジョンで探索の練習をする実習です」


「そう、ダンジョン実習の結果がよくないとフィールドワーク実習にはさんかできないんだ」


「ほう……そういうのがあるのか」


 知らない情報を聞き、思わず渋い顔で考え込むユウ。


 人工ダンジョン自体は、様々な組織が訓練に使用する割とメジャーなものだ。


 共通する要素としては、一層だけで大きくてもせいぜい十部屋くらいの構造、モンスターも罠も中程度の技量の持ち主ならどんな事故が起こってもクリアできるレベル、ということであろう。


 あくまでも訓練のためのダンジョンなので、エネルギー収支その他は赤字の施設である。


「人工ダンジョンか。こちらではどういうやり方をしている?」


「詳しくは知らないんですけど、実習場の防御壁を応用した魔法具を使ってやる方法で、完全に隔離した空間を作って魔法生物をモンスター代わりに使って実習する、と言ってました」


「……その空間は、お前の全力に耐えられそうなのか?」


「全力を試したことがないので、分かりません」


「だろうな……」


 青ざめながら首を左右に振るティファに、さもありなんと頷くユウ。


 今までの魔法を見ている限り、ティファの全力は間違いなく戦略級だ。アルトで暮らしている以上、試すことすらできない。


「どうせ子供のいたずらだから、やること自体は大したことではなかろうが……」


「えっと、あの。わたしまだ、ちょっとしたことでも魔法を失敗するんですけど……」


「だろうな。さらに言えば、大したことはできないからこそ、加減を知らずにやりすぎるのも子供というやつだ」


「ん~、なんとなく覚えがあります」


「ティファの場合は、やるほうではなくやられるほうだったのだろう?」


「……はい」


 ユウに問われ、素直に頷くティファ。加減を知らぬいたずらを受けてひどい目にあった事例は、枚挙にいとまがない。


 大人びていて頭のいいティファの場合、子供がやるいたずら程度のことは、やる前からそれをやったらどうなるかが分かってしまうこともあり、ほとんどやったことがない。


 そこがおとなしくて聞き分けがいい子だと歓迎される一方で、そこまで悪さをしない子供というのは将来大丈夫なのかと、大人達を心配させていたのはここだけの話である。


「とりあえず、早急に対策を考える必要があるな」


「そうですね……」


「リカルドのほうも、何か対策をとっておいたほうがいいだろう。お前も確か、大魔力なのに制御周りが怪しくて特待生から弾かれたのだろう?」


「うん」


「因みに、どういうふうに不安定なんだ?」


「ぼく、うまくいくときとしっぱいするときの差が、ものすごく激しいんだ」


 リカルドの問題点も確認し、これはますます危険だと理解するユウ。


 ユウの経験上、こういうタイプの失敗というのは、暴発と不発で半々である。


 しかも、この手の成功失敗が極端にぶれるタイプは、暴発させたときの威力も極端に大きくなる傾向がある。


 リカルドが魔法を暴発させた結果、ティファが命の危険を感じて本能で魔法を全力展開してしまうと、下手をすればアルトが吹っ飛ぶ。


「そうだな。応急処置にしかならんが、リカルドの場合は制御方法を鍛えるよりも、いっそ失敗しても絶対暴発しない魔法を使ったほうがいいかもしれんな」


「絶対暴発しない魔法? そんな魔法があるんですか?」


「ああ。制御の難易度が上がる代わりに、術式に安全回路が組み込まれているタイプのものがある。実戦で使う分にはほとんどメリットがないから、うちの古巣をはじめとした一部でしか研究されていないはずだがな」


「えっと、ほとんどメリットがない、というと?」


「制御難易度が上がるから失敗しやすくて、とっさのときの不発率が異常に高い。そもそも、一人前の魔術師はめったなことでは暴発などさせんから、安全回路の分発動が遅くなったり安定しなくなったりするデメリットのほうが、いざというときに暴発しないメリットを上回っている。そもそも、お前達のような特殊例でもない限り、どの魔法にも組み込まれている防御壁だけでも普通は自滅したりはしないしな」


「そういうものですか?」


「ああ。そういうものだ」


 いまいち腑に落ちない様子のティファに対し、力強く言い切るユウ。


 実際、一人前の魔術師の場合、普通は魔法を暴発させたところで本人は無事だ。そんな根こそぎ魔力を持っていかれるような制御ミスはしないし、ほとんどの魔法には自分の魔法で自滅しないように防御壁が組み込まれているので、命にかかわるような暴発は起こらない。


 ティファやリカルドのように、地形を変えかねないレベルの暴発を起こせる魔術師など、めったにいないのだ。


「ティファのほうは、一刻も早く気での防御壁をマスターしたうえで、いたずらをされても無視できるだけの集中力を身に着けるしかなかろうな」


「えっと、防御壁をマスターしないと駄目ですか?」


「あれをマスターしておけば、少々危険な真似をされても怪我をしなくなるからな。怪我をしないと分かっていれば、安心して魔法に集中できるだろう?」


「あっ、確かにそうです!」


 ユウに理由を説明され、思いっきり納得してしまうティファ。


 防御壁をマスターしておけば、髪の毛を燃やされるくらいのいたずらは余裕で無力化できる。


「欲を言うなら、このレベルまでマスターできれば、それこそ中級の魔法までは余裕で弾くことができるから安心なんだが……」


 そう言って、龍の鱗のように気の防御壁を成型してみせるユウ。


 気の密度から、防御力、果てはエネルギー効率まで初歩の防御壁とは比較にならないそれを見て、驚きと好奇心に目を輝かせるティファ。


「あれを練習すると、そんなにきれいな防御壁が作れるんですか?」


「ああ。この技はその名の通り龍鱗といってな。魔神と戦ううえでも基本となる技だ」


「それを展開しておかないと、近寄るだけで普通に死んじゃいそうですよね」


「まあ、そういうことだ。前回の魔神にしても、近づくと炎上するといった常時発動している類の攻撃は大したことはなかったが、それでもこの程度の対策がなければ長期戦は厳しいからな」


 ユウの美しい半透明な緑の鱗に見入りながら、前に遭遇した魔神のことを思い出すティファ。


 あの類の脅威から確実に身を守るには、このぐらいの防御を常に展開できねば厳しいのだろう。


 そんなことを頭の片隅で考えながら、明確な見本をもとに無意識の領域で気を動かすティファ。


 気がつけば、かなり不格好ながらも青い鱗を大量に作り出し、自身の体を覆い尽くしていた。


「……ふむ。やはりイメージしやすい実例を見せると、簡単に真似してしまうか……」


「えっ?」


「自分の体を見てみろ」


「……わわっ」


「圧縮も成型も配置も荒いが、龍鱗の入口ぐらいには立っている。が、それを磨くよりまずは、その前段階である単なる気の膜を正確に張る練習をしてくれ。でないと、治療をはじめとした他の基本的な応用を教えられん」


「わ、分かりました。頑張って練習します」


 ユウの指示に、少ししょんぼりした感じでティファが応じる。


 そんな二人のやり取りを、リカルドがきょとんとした表情で見ている。


「……ねえ、ユウさん、ティファちゃん。ぼく、二人が何をやってるのか、全然わかんない」


「ああ、すまんな。俺がティファに気というものの扱いを教えている、というのはリカルドは知っているか?」


「うん」


「要はその訓練で、ティファが見本を見よう見まねで再現して、順序を一つ二つ飛ばしてしまったのだ。それがまずいということは、分かってくれるな?」


「うん。エフィニアちゃん達は簡単なところは飛ばしてすぐに先に行きたがるけど、すごくあぶないよね」


「まあ、そういうことだ」


 ティファほどではないが制御で苦労しているだけあってか、順序を飛ばすことの危険性を十分に理解しているリカルド。キャットにそそのかされて街の外に出てしまうなど、年相応にチャレンジャーな面もあるにはあるのだが、このまま順調に育てば将来大成しそうである。


「とりあえず、この件は置いておこう。今のティファの龍鱗もどきを見て思いついたことがあるのだが、リエラ殿に相談が必要そうだ」


「どんなことですか?」


「いやなに。ティファの龍鱗もどきは形状や配置だけでなく、根本部分でロスが多いからこそ『もどき』でとどまっている訳だが、逆に魔法に関しては、あえてロスを作ってはどうかと思ってな」


「あえてロスを作る、って?」


「ティファは現状、魔力量以外の制御は普通に問題なくできている訳だ」


「はい」


「うん。ティファちゃんは制御自体はできてるよね」


 ユウの言わんとすることが分からず、首をかしげながら同意するティファとリカルド。そんなことは、確認せずとも分かり切っていることである。


「ティファの場合、現在問題になっているのは、異様に大量に流れ込んだ魔力がロスなく完全に魔法に使われてしまう結果、魔法の規模がありえないものになってしまう点だ」


「いまさら確認されなくても、みんな分かってることだよね、それ」


「ああ。ここまでは、少なくとも当人と教師陣、それにリカルドのように分かっている人間にとっては当たり前の共通認識だ。ついでに言うならば、それを何とかしようとティファが流し込む魔力の量をどうにか制御できるようにしようと考えてきた訳だが……」


「流し込む魔力を制御しないで、どうやって魔力を減らすんですか?」


「減らす、というよりは、現象を起こすのに使われる魔力を削れば、規模を抑えることはできる。具体的には、無意味な、どころか相反する回路を二つほど組み込んで余分な魔力を相殺したり、術式を長くすることで、意図的に魔力のロスを作ったりといった感じだな」


「「……」」


 ユウが口にした提案に、唖然とした顔をするティファとリカルド。


 二人ともこれまでずっと、いかにロスなく低コストで高威力の魔法を発動できるかが魔術師の腕の見せどころだと教えられており、常識的に考えてもそれが一番なのは当たり前だ。


 また、新たな術式の開発も半分以上はコスト削減と増幅率の上昇を目的としているのも、何となくのレベルで理解している。


 ユウの考え方は、その流れに真っ向から喧嘩を売っているようなものだ。


「……えっと、それはありなんでしょうか?」


「まあ、後々のことを考えるなら、あまり褒められたものではない裏技ではあるな。ロスなどなく必要最低限の魔力量で狙った現象を起こせるなら、当然それに越したことはない」


「うう、ごめんなさい……」


「別に、ティファが悪いという訳でもないし、今回はどうしても短時間で無理にでも結果を出す必要があっただけだ。この程度の裏技で上手くいくなら、可愛らしいほうだぞ」


 ユウのフォローも虚しく、徐々に涙目になっていくティファ。


 魔法関係はことごとく躓いているからか、それとも今回は上げて落とされる感じだったからか、こういうことには妙にナーバスになっている感じである。


 そんなティファにどう説明するべきかと思案し、一つの見解にたどり着くユウ。


 ここは、世の中の摂理というのを教えておいたほうがいいかもしれない。


「なあ、ティファ、リカルド。世の中はな、正論と正攻法だけで上手くいくようにはできていない。どうしても結果を求められる状況では、正攻法にこだわらずに一時的に裏をかくことも必要となってくる」


 いきなりシビアなことを言い出すユウに、なんとなく責めるような視線を向けていたリカルドの目が丸くなる。


 真面目な雰囲気に、ティファのほうもなんとなく涙ぐみながらも、心は完全にユウの言葉を聞く態勢になる。


「楽をするためとか、効率が良いからとか、そういう理由で法や倫理を無視して邪道に走るのはバカのすることだ。だが、打開策がないときにある程度手段を選ばず試してみるのは、何も悪いことではないぞ」


「でも、駄目なことは、駄目なんですよね?」


「このくらいのことは、やって駄目なことには入らん」


 どうにも腑に落ちてない感じのティファに対し、力強く断言するユウ。


 たとえ明らかに一時しのぎにしかならないやり方だとしても、試してみるのは無意味ではない。


「そもそも、仮に街の中に魔神が出たとして、正攻法だけで対処するなどという悠長なことを言ってられるか?」


「……あうう、確かに……」


「……無理っぽい……」


 ユウが持ち出した凄まじい極論に、思わずティファとリカルドがうめく。


 あれがどういう存在かを知らなかった頃ならともかく、知ってしまった今では正々堂々と正面から主流となっている戦い方で勝利を収めなければならない、なんて寝言はとても言えない。


「無論、街を更地に変えるような派手な攻撃など使えんし、出てきた時点で逃げようがないところに居たとかどうやっても防げない種類の攻撃に巻き込まれたといった場合はともかく、わざわざ盾にするなどで無関係な人間を巻き込むのは駄目だ」


「えっと、それは当たり前なのでは……」


「追い込まれると、そこまで気を配れんこともあるからな。だからこそ、そこは強く意識しておかねばならん。が、逆に言うと、そのあたりの鉄則と完全に顕現するまで攻撃がほぼ通じないという基本ルール以外は、何をやってでも仕留める、ぐらいの意識は必要だ」


「そもそも、しとめられるかどうかより、ぼく生き延びられる気がしないよ……」


「それこそ、自分が後で悔やまない範囲で何をやってでも生き延びる、ぐらいの気概を持ってひたすら頭と体力を使うしかない」


 ユウにそう断言され、非常に困った感じに顔をゆがめるリカルド。


 口で言うのは簡単だが、リカルドの体力と人生経験ではそう簡単な話ではない。


 というより、そもそもその手の発想は、真っ当な生活をしていると、大人でもなかなかすぐには出てこないものだ。


 バシュラムやリエラのように酸いも甘いも噛み分けたベテランでもないとピンと来ないことを子供に力説するあたり、やはりユウは世間とズレている。


「少々極論に走ったが、どうしようもないときには正論や正攻法は忘れて、絶対に守らなければいけない要素と絶対に達成するべき目的を満たすことだけを目指して手段を考えるほうがいい」


「分かりましたユウさん。頑張って考えてみます」


「それで、話を戻すが、ティファに関しては実質的に威力のコントロールが不可能になるが、術式にリミッターを組み込んでおくというのも手だな」


「リミッターですか?」


「ああ。術式に一定以上の魔力が流れ込まないように、また、外的要因で術が一定以上の規模にならないように、リミッターを組み込んだものがある。大抵は必要以上の回復が危険な回復魔法や治療魔法、一定の範囲内で安定して効果を発揮せねばならん魔道具などに使われている」


 ユウの説明を聞いて、なるほどと頷くティファとリカルド。


 世の中、全部が全部、大が小を兼ねる訳でも、大きいことがいいことだという訳でもないのだ。


「リエラ殿との相談も必要だが、ダンジョン実習までにそのあたりの魔法をマスターしたうえで、いたずらに動じない平常心や魔力のコントロールを練習するしかなかろう」


「リミッターのかかっている魔法で練習して、威力や規模を小さくできるようになれば、普通の魔法でも大丈夫でしょうか?」


「そこは、やってみなければ分からん。だが、今よりは改善するだろうな」


「ぼくも、暴発防止の魔法でしっぱいせずに、かくじつに使えるようになれば、普通の魔法でも暴発しないかな?」


「誰がやったところでミスするときはミスするから絶対とは言い切れんが、間違いなくティファ同様、今よりはマシになるだろうな」


 今より確実にマシになる。そう聞いて、やる気になるティファ。ティファに釣られてか、本来関係ないはずのリカルドも妙にやる気になっている。


 もっとも、子供達にとって、その類の術を覚えて練習すること以上に重要なのは、多少のことでは動じない平常心と集中力、いざというときにすぐに対応できるだけの精神的な柔軟性なのだが。


「とりあえずリカルド。俺は基本的にティファだけで手いっぱいだから、アドバイスはできても指導までは無理だ。リエラ殿と相談して方針が決まったら、自分の力、もしくは先生達の手を借りて何とかしてくれ」


「うん、わかった!」


「さすがに今日すぐにリエラ殿との話し合いとはいかんから、この後はティファの精神周りの鍛錬に移る。見学はしていてくれて構わんが、危ないから邪魔はしないでくれよ?」


「うん!」


 ユウの注意に元気に頷くと、近くのベンチに腰掛けて二人の鍛錬をわくわくした様子で見学するリカルド。


 そんなリカルドに少しやりづらいものを感じつつ、ユウの意図を察して杖を構えるティファ。


 精神周りの鍛錬としか言っていないのに、ずいぶんとユウの思考回路を理解している。


 師弟関係になってから半年以上、という時間は伊達ではないらしい。


「俺の攻撃を防ぎながら防御壁を張ってライトを同時に三つ発動し、どちらも維持すること」


「はい!」


「防御壁は先ほどの龍麟もどきではなく、最初に見せた単なるベールを張るように」


「分かりました!」


「では、肩慣らしからいくぞ」


 そう宣言し、ティファどころかリカルドでも防御できそうなスピードで攻撃を始めるユウ。


 その攻撃を教科書通りの動きではじきながら、実にスムーズに防御壁を張る。


 もどきとはいえ一度もっと先の段階である龍麟に成功しているからか、最初と違いちゃんと皮膚の外に防御壁を張っている。


 それを確認し、徐々に攻撃の速さとややこしさを上げていく。


 それを必死になってさばき、ようやく一つ目のライトの詠唱が終わったところで、防御をすり抜けてきた一撃が胸のあたりに直撃する。


「あうっ」


 被弾した部位は違うが、後頭部を厚紙の束で思いっきり叩かれる感じとよく似ていた。


 痛みはないが衝撃は大きく、バランスが崩れて動きが止まってしまう。


「防御壁も消えている。最初からやり直しだな」


「はいっ!」


 まだまだ一人前とは言えない技量ながらも、雑魚相手なら十分身を守れるだけの腕を見せたティファに対し、容赦なくやり直しを告げるユウ。他人が見たらなかなかにスパルタな状況である。


 だが、ティファのほうも異論はないらしく、一度息を整えなおして杖を構える。


 このやり取りはティファの息が完全に上がるまで続いたものの、結局最後までライトの詠唱は成功せずに終わる。


「今日はここまで、だな」


「……ありがとう、ございました……」


 杖によりかかるようにして座り込みながら、ユウに対して終わりの挨拶をするティファ。


 そこへ、二人の鍛錬を見ていたリカルドが、興奮気味に声をかけてくる。


「ティファちゃん、すごい!」


「……これくらいでばててちゃ、……全然駄目なんだけどね……」


「ぼくだったら、三回か四回で頭たたかれて終わりだと思う」


「そのレベルの弟子に、こんな鍛錬はさせんよ」


 すごいの根拠を口にしたリカルドに対し、苦笑いしながらユウがそう言う。


 今日、ユウがティファに課した鍛錬は、最低限意識しなくても正確に杖の素振りができ、ある程度の打ち込みや乱取りを許される技量がないとできない類のものだ。


 そもそもの話、いくらティファの呑み込みが早いといっても、まだ杖術を教え始めてから半年足らず。しかも手の豆がつぶれるほどの回数は素振りをさせていない。


 半年足らずで身に着けたにしては腕がいいが、一流から見れば誤差の範囲である。


「リカルドも、走り込みくらいはしておいたほうがいいぞ」


「そうですね。長い詠唱をちゃんとするには、肺活量が大事です」


「うん。こんどいつも面倒を見てくれる冒険者さんにお願いして、鍛えてもらうよ」


「まさか、キャットさんじゃ……?」


「ちがうよ~。あのひと、最近見ないし」


「そうか。ならば安心だな」


 といったやり取りで訓練を終えるティファ達。


 結局このとき、唯一の部外者であるはずのリカルドは、最後までユウとティファの鍛錬でなぜ精神周りが鍛えられるのか、という大人なら当たり前に抱く疑問に至ることはなく、似たようなことをやりながらダンジョン実習の日まで過ごすことになるのであった。


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埴輪星人先生の他の作品はこちら。
― 新着の感想 ―
キャットが格安子守依頼を受けた理由が謎だ。ボランティア精神も、将来有望かもしれない奨学生とのコネを得る気の長さも無いだろう。ユウとの縁をつなぐためとか、嫌がらせしか思いつかないけど、リカルドでは間接的…
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