表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/45

プロローグ 戦い終わって-1



「昨日のダンジョン攻略の結果、いろいろと難題が出てきた」


 トライホーン・ドラゴディス討伐の翌日。


 いつもの日課を終え、アルト魔法学院を訪れていたユウは、リエラに向かってそう言い放った。


 因みに、アルトガルーダにトライホーン・ドラゴディスといった大物と連戦した結果、教師の大半がダウンしてしまったため、本日は休校となっている。


 それでもリエラをはじめとした何人かは、昨日のような緊急事態が発生しても対応できるように待機していた。


「……また、唐突ですね、と言いたいところですが、まあ、そうなるでしょうね……」


 いきなりのユウの言葉に、困った顔をしながらそう返事するリエラ。


 『ティファを連れてトルティア村の地脈にできた偶発ダンジョンを攻略する』、という時点で、ユウの手に余る事が出てくるであろうとは、ある程度予想はついていた。


 ただ、その度合いが分からないのが怖い。


「それで、どんな難題が発生しているのですか?」


「内容的には二つ。一つ目だが、ダンジョンコアを破壊した際にこれが手に入った」


 リエラに問われ、まずは入手した例の宝石をリエラに見せるユウ。


 それを受け取って観察し、表情を険しくするリエラ。


「……これはまた、難しいものを手に入れましたね」


「ああ。厄介なものだというのは、すぐに分かったがな。正直、これをどうすればいいのか、皆目見当もつかん」


「そうでしょうね」


 ユウの言葉に、真顔で頷くリエラ。


 何しろこの宝石、魔道具士としても超一流であるリエラですら、すべてを把握することができないのだ。


 門外漢であるユウでは、とっかかりすら分からなくて当然である。


 現在、ユウはティファの問題解決のため、ティファに課題として発動体を作るよう指示している。


 そんな状況下で偶発ダンジョンからいかにもな宝石が出てきたため、これを素材にして発動体を作ろう、というところまではあっさり決まった。


 が、残念ながら、その時点でどこからどう手を付けるべきかユウには判断できず、こうしてリエラに相談することと相成ったのである。


「この宝石は成長する武器のコアとなるものであり、当然宝石そのものも成長します。なので、何らかの装備、この場合は発動体に組み込んだ上で使い込んで成長させつつ、ティファになじませる必要があります」


「……それはまた、厄介だな……」


「もう一つ厄介なのが、発動体に加工する際、素材のランクをきっちり合わせてやる必要があることです。素材のランクが高すぎても低すぎてもダメなうえ、当然宝石やティファの成長に合わせて更新する必要があります」


「更新のタイミングというのは、分かるのか?」


「事例が少ないのではっきりとは分かりませんが、他の事例から推測するに、更新が必要になれば恐らく普通に破損すると思われます」


「なるほど、分かりやすくはあるな」


 心底嬉しくなさそうに吐き捨てるユウ。


 道具というのは究極的には消耗品とはいえ、下手をすると使っている最中に前触れなく壊れるかもしれないようなものは、師匠としても一戦士としても許容できない。


「訓練中ならともかく、さすがにそれ以外の状況で壊れると危険だ。本当に、それ以外には分からないのか?」


「何とも言えないところですね。私もこういうタイプの宝石を見るのはこれで二度目、魔道具士としてのアドバイスだけとはいえ、制作そのものにかかわるのは今回が初めてですので……」


「むう……」


 正直にギブアップしたリエラに対し、思わずうなってしまうユウ。


 あまり無理を言える立場ではないが、ここまであっさりギブアップされるとさすがに困る。


「……事例が少なすぎて、どうにもならんか……」


「はい。逆にお聞きしますが、今回と同じ特殊素材を使った成長装備で戦士向けのもの、というものに心当たりはないのですか?」


「一応、一人だけ同僚にいたが、そのあたりの話はしたことがなくてな。それなりの頻度で武器の素材や形状が変わってはいたが、そのあたりは俺達だって似たようなものだったから、気にもしていなかった」


「そうなのですか?」


「ああ。一応確認しておくが、持ち主の成長以外では壊れない、ということはないのだろう?」


「ええ。同じ素材で作った普通の装備よりは頑丈になるようですが、それでも強い衝撃を受けたり無理な使い方をしたりすれば、普通に破損していたようです」


「ならば、俺がそのあたりに気が付くのは無理だ。技量に合わせて装備を更新するのも、頻繁に素材を変えるのもうちの部隊では普通のことだったし、そもそも任務によっては一回で使い物にならんレベルでガタが来ることもあった。だから、そいつの武器も成長によって素材を更新する必要があったのか、それとも単に任務で限界まで使う羽目になって修理したのか区別できん」


「……なるほど……」


 ユウの説明に、今度はリエラがうめくように納得の言葉を絞り出す。


 ユウが元いた鉄壁騎士団アイアンウォールは、日常的に魔神と殴り合い、トライホーン・ドラゴディスのような超大物をしとめて回るような特殊部隊だ。


 どんな素材を使った強力な装備でも、その装備をどれだけ丁寧に使っていても、あっという間にガタが来て当然であろう。


 それに、ユウはあえて言わなかったが、予備も含めて複数の武器を持ち歩くことも、特に珍しい話ではない。


 ティファの場合は恐らく、今回作る予定の発動体以外は使いたくても使えないだろうが、普通の冒険者、特に戦士系は間合いや遭遇する可能性のあるモンスターの耐性に合わせて、二種か三種ぐらいは武器を持ち歩くものである。


「見て分かるほど傷んでいるのに手入れをしようともしていない、というのであれば気にもするが、な。単に多少破損していた程度であれば気にもかけん。特に任務が終わった直後であれば、程度の差はあれ手入れが必要な状態になっていて当然だからな」


「そうでしょうね。他人がわざわざそんなことを言わなければならない人間が、長く生きられる環境ではないでしょうし」


「そういうことだ」


「ですが、そうなるとお互い、まったく情報を持っていないということになりますね」


「残念ながらな」


 リエラの出した結論に、渋い顔で同意するユウ。


 事例が少ないから仕方がないとはいえ、ここまで何も分からないとは思わなかったのだ。


「こうなると、発動体を作ってみるしかないか……」


「そうですね。実際に作ってみて、記録をとっていくほかないでしょうね」


「その記録が、ティファ以外の役に立つかどうかは怪しいがな……」


「それを言い出せば、そもそも他の人が使っていたものに関しても、記録が私達の役に立っていたかどうかは微妙なところですよ」


 ユウの言わずもがなな指摘に対し、ため息をつきながらそう返すリエラ。


 ティファの特殊性を考えれば、こちらの記録が他人に役に立たない程度には、他のケースの記録も役に立たないだろう。


 それ以前の問題で、完全カスタマイズの武器など、他人にとっては参考にできれば御の字である。


「それで、作ってみる以上は素材が必要だが、当てはあるのか?」


「そうですね。市場に出回るのを待ったり取り寄せたりをするくらいなら、『無限回廊』に行って直接集めたほうが速いのではないか、と思っています」


「無限回廊か。確か、『堕ちた遺跡』と並ぶ、トライオンの象徴ともいえるダンジョンだったな。どんなところだ?」


「実際に行ってみなければピンと来ないと思いますので概要だけ説明しますと、無限とも思えるほどの深さと広さを持ち、入るたびにその姿を変える不可思議なダンジョンです」


「入るたびに姿を変える? 法則性とかはないのか?」


「入る階層……我々はフロアと呼んでいますが、フロアごとに一応、いくつかのパターン、というかテーマのようなものがあることは確認されています」


「と、いうと?」


「密林、平原、洞窟、氷河、灼熱地帯といった土地のタイプと、モンスターが多め、罠や隠し通路が主体、脅威らしいものはまったくないがただただ広くて迷いやすい、などどういう傾向のフロアかというのが組み合わさっている、と言えば伝わりますか?」


「何となくは分かった。要するに、巨大で排除のできない偶発ダンジョンの集合体みたいなものなのだな」


「言われてみれば、そんな感じですね」


 特徴を分かりやすくまとめたユウの要約に、感心したように頷くリエラ。


 確かに、大きな一つのダンジョンと見るより多数の偶発ダンジョンが繋がっていると見たほうが性質としては近い。


「他に、何か分かっていることは?」


「そうですね……。共通点として、入ってすぐに命を落とすようなフロアは存在しないことと、確認されているテーマのうち、どれが来るかは入らないと分からないことが確定しています」


「同行者が別のフロアに飛ばされたりはしないのか? あと、同じフロアに侵入できる人数や条件は分かっているのか?」


「どうやって識別しているかは分かりませんが、自分達がグループだと認識していれば、同じフロアに入れます。現在確認されている人数上限は十二人ですが、これもはっきりとは分かっていません」


「十二人も入れるならば、問題ないな」


 人数を聞いて、そう結論を出すユウ。


 仮にミルキーとロイドも一緒に連れて行ったとして、バシュラムとベルティルデに協力してもらってなお、深紅の百合かアルベルト達のパーティかのどちらかは一緒に行動できる。


 なお、言うまでもないことかもしれないが、最初からティファは頭数に入っている。


 そもそもティファの発動体――杖を作る素材集めなのだから、ティファを連れて行くのは当然だ。


 特に口にはしていないが、リエラもこのあたりの認識は一致している。


 もっとも、ティファの杖という話がなくとも、今更ユウがティファをダンジョンに連れていくことにためらったりなどしないだろうし、リエラとしてもそのぐらいのことで不安など抱きはしないのだが。


「あと、無限回廊のモンスターは、倒した時点で消滅します。その際、運が悪くなければ素材なりなんなりがアイテムとして残ります」


「いくつかのダンジョンで確認されている仕様だな」


「そうですね。それ以外については現地で確認し、ご自身で判断してください。あまり何でも教えてしまうと先入観を持ってしまって危険ですし、モンスターの情報などはこちらでもすべて把握しているわけではありませんので」


「分かった」


「必要な素材に関しては後程リストアップしておきますので、そちらを確認してください。それと、ダンジョン外部についても面白い特徴がありますが、こちらについては私が口にするのは無粋ですので、ご自身の目で確認してください」


「ふむ。リエラ殿がそう言うのであれば、危険ではないということだな?」


「はい、もちろんです」


 リエラの堂々とした言葉に、それならばと深くは追及しないことにするユウ。


 最後に、必要な日程について話をする。


「出発時期だが、さすがにそれなりに長期間になるだろうから、ティファの夏季休暇に合わせて出発する予定だ。とりあえず、前回堕ちた遺跡にいたのと同程度で考えている」


「分かりました。ただ、もしミルキーとロイドを連れて行くのでしたら、ちゃんと事前に話を通すのだけは忘れないでくださいね」


「当然だ」


 ユウのやりそうなことに対し、事前にそう釘を刺しておくリエラ。


 ついでに、スルーしそうになったもう一つの難題についても確認しておく。


「それで、もう一つの難題とは?」


「これは未確定だが……ダンジョン攻略の結果、先ほどの宝石とは別に、ティファが肉体的に何らかのギフトをもらったらしい」


「それは、確かに難題ですね……」


「うむ。どうやって確認するかが悩ましくてな。さすがに、この辺りで適当に魔法をぶっ放して比較する、というわけにもいかん」


「当然です。ですが、そうなるとますます無限回廊に行く必要がありますね」


「ああ。確認するならダンジョン内のほうがまだ気を遣わんだろう」


 ティファのギフト問題に対し、完全に意見が一致するユウとリエラ。


 こうして、ティファ達の無限回廊行きは、リエラからすんなり許可が下りるのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2018年2月24日にMFブックスより書籍化!
Amazonでも大好評発売中!
※このリンクは『小説家になろう』運営会社の許諾を得て掲載しています。
埴輪星人先生の他の作品はこちら。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ