エピローグ 祝勝会
「みんな、料理と飲み物は行き渡った?」
トライホーン・ドラゴディス討伐が無事終わった、その日の夜。
各々の後片付けの類も終わり、ようやく本当の意味で一息付けた夕食時。
麗しき古硬貨亭では、祝勝会の準備が完了していた。
「えっと、じゃあ、乾杯の音頭を誰かに……」
「カレンの嬢ちゃんでいいじゃねえか」
「えっ? 私? 何もやってないのに?」
「これ以上仕事したくねえんだよ。それに、乾杯の音頭だって、むさいおっさんがやるより若くて美人の看板娘がやったほうが盛り上がるだろ?」
バシュラムの言葉に、あちらこちらからそうだそうだと同意の声が上がる。
いくら貫禄がるアルトの英雄とはいえ、やはりバシュラムよりは誰もが認める美少女で今回縁の下の力持ちとしていろいろ頑張ってくれたカレンに乾杯の音頭を取ってもらったほうが、明らかに盛り上がる、というのが男女関係ない麗しき古硬貨亭の冒険者達の総意である。
「あ~、もう、功労者のバシュラムさんに言われたらしょうがないなあ……」
割と本気で困ったもんだ、という様子を見せつつ、素直に乾杯の音頭を引き受けるカレン。
お世辞でも美人と言われるのはまんざらでもないが、正直何もやっていないのにこういうことを引き受けるのは気が引ける部分があるのだ。
「今日はみんな、お疲れさまでした。大きなけがをした人とかもいなくてよかったよ。今日のお金は国から出てるから、遠慮せずにジャンジャン食べていっぱい飲んで疲れを癒やしてね。それじゃあ、乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
カレンの微妙にそれはどうかと言いたくなる挨拶に、やたら嬉しそうに乾杯を唱和する冒険者達。
激闘を潜り抜けた後の豪華なタダ飯なんて、これ以上ないぐらいのご褒美である。
「それで、さっきは話が途中になったけど、トルティア村のダンジョンは結局どうだったの?」
乾杯も終わり、いくつか料理をつまんで軽く腹を満たしたところで、ベルティルデが気になっていたことを確認してくる。
「そうだな。発生から半年経っていないダンジョンにしては、規模が大きすぎたな。モンスターにしてもスタンピード直前の数になっていたから、攻略があと半月からひと月後ろにずれていれば、トルティア村は更地になっていただろう」
「地脈の感じからそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりそこまで差し迫っていたのね」
「ああ」
ベルティルデの言葉に頷くユウ。
ティファの手前平然とした態度はとっていたが、正直な話、ユウとしてもあの数のモンスターは想定外もいいところだった。
「その規模にしちゃ、えらく早く攻略が終わったみたいだが?」
「さっきベルティルデさんにも言ったが、収入を諦めて、ティファに片っ端から焼き払わせた。まあ、焼き払うといっても、使った魔法はライトニングボルトだったが」
「……また、豪快な真似をしてきたんだな」
「出てきたモンスターがトルティア村周辺で普通に遭遇する連中しかいなくて、ティファの火力があったからできたことだ」
「そりゃまあ、そうだろうけどなあ」
「ついでに言えば、正直まともにやって素材を確保してきたところで、よくて買い叩かれるだけだったのも、焼き払う方針になった理由だ」
「あ~、下手すりゃ買い取り拒否を食らいかねんからなあ」
ユウがあっさり収入を捨てる方向に進んだ理由について、完全に納得してしまうバシュラム。ベルティルデにしても、そういうことならと疑問や批判をすべて引っ込める。
トルティア村周辺で出てくるモンスターなど、アルト周辺なら大体どこででも遭遇するものがほとんどだ。
それ以外の、その地域以外で見かけないモンスターというのもいるが、それとて需要を満たしきれてこそいないものの、大して値段が付くわけでもなければスタンピードを起こすほどの量を持ち込まれて喜ぶほど需要があるわけでもない。
同じことが可能かどうかを横に置くならば、この条件ではバシュラムやベルティルデでも同じ判断をするだろう。
「ユウさん、ティファちゃん。ダンジョン攻略、お疲れさま~」
そこに、各テーブルに山ほどの料理を並べ終わったカレンが、お役目御免とばかりに自分用の飲み物と取り皿を手にやってくる。
「あっ、カレンさん。お疲れさまです」
「お疲れさまっていっても、私は料理並べたくらいで、全体的に大したことはしてないんだけどね」
「とか言ってるけどよ。カレンの嬢ちゃんが裏でいろんな手続きやら連絡やら交渉やらで走り回ってくれてたってのは、実はみんな知ってたりするんだがな」
「そうそう。前菜のいくつかはカレンちゃんが作ったっていうのも、分かる人には簡単に分かるし」
謙遜して見せるカレンに対し、あっさり裏でやっていたことを暴露しにかかるバシュラムとベルティルデ。
それに乗っかるように、さらにユウが口をはさむ。
「今回何もしていない、といえば、俺が一番何もしていないぞ」
「わたしも、特にこれといっては……」
「ユウは早期発見と初期段階での状況確認をやってくれたし、ティファの嬢ちゃんは今朝アルトにでかい結界張っただろ? それだけで十分すぎるほど仕事こなしたって言い切れるさ」
「そうそう。あれのおかげで事前準備も十分にできたし、後ろを気にせずに戦えたもの」
「最悪でも、アルトに立てこもって怪我人を治療しながら砲撃戦、っていう選択肢ができたってのも、精神的には大きかったな」
ダンジョン攻略にかまけて、討伐作業そのものにはこれといって何もしなかったユウとティファの言葉に、バシュラムとベルティルデが二人の功績を告げる。
「だが、直接危険に身をさらしたのはバシュラムさん達だからな。早期発見による情報の重要さは否定しないが、それだけではな」
「今回に限っては、こっちがお前さん達の手伝いを拒んだんだからな。それで何もしてないとか文句を言うのは、筋が違う」
「それはそうなんだが、なあ……」
そういってティファのほうに視線を向けるユウ。
それにつられてティファの表情を見て、ユウがやたら気にする理由を察するバシュラム達。
年や経験もあって、ユウ自身はその程度のことは飲み込める。
が、ティファはそうではないのだ。
「まあ、嬢ちゃんが納得できねえのも分からんでもないが、直接戦えばえらいってわけでも、トドメ刺せばえらいってわけでもないってのだけは覚えておくといい」
「ねえ、バシュラム。ティファちゃんが言ってるのはそういうことじゃないわよ。ティファちゃんも、直接何かで貢献することだけが、人の役に立つ方法じゃないから、あまり気にしないの」
「……はい」
「で、話がそれたけど、結局、トルティア村のダンジョンってどうだったの?」
納得できないながらもティファがそのあたりを飲み込んだのを見て、ベルティルデが話を戻す。
「あっ、それ私も気になってたんだけど、その感じだとちょっとは話が進んじゃってる?」
「やたら広かったってこととスタンピード寸前だったってこと、それから出てきたモンスターはトルティア村周辺のものと変わらなかった、ってこと、後はユウ達が収入を捨てて殲滅戦をしたらしい、ってことぐらいだけどね」
「へえ? それって、亜種とか出てこなかったの?」
話を聞いたカレンの素朴な疑問に、ユウとティファが沈黙する。
その態度に、怪訝な顔をするカレン。
「見敵必滅で潰してきたから、そこまでは確認してなかったな」
「少しでもバシュラムさん達のお手伝いがしたくて、ただただ大急ぎで攻略しましたから……」
「というかそもそも、数がすさまじすぎて、収入を投げ捨てなかったとしても、わざわざそこまで確認する余裕はなかっただろうな」
「そっかあ……。あっ、でもよく考えたら、スタンピード寸前ってことは、亜種がいたとしても一匹二匹とかいう単位じゃないだろうから、値段つかないか」
ユウとティファの言葉に、少しばかりもったいないなと思いかけ、その事実に思い至るカレン。
これはモンスター素材に限った話ではないのだが、商品というものは極端に希少価値が高いか、継続的に入手が可能かのどちらかでなければ値段が付かない。
今回に関しては、スタンピード直前という時点で、たとえ出現率が低い亜種であっても大量にいたのは間違いなく、しかもダンジョンが消滅しているので今後手に入る可能性もほとんどない。
持って帰る量を調整すればいいじゃないか、といえばそれまでだが、希少価値が高い亜種全部が金になるわけではないことを考えると、大量のモンスター相手にそこまでやるメリットはほぼない。
「仮に価値があってお金になってたとしても、全部灰になって次元の彼方へと還ってるんだから今さらの話ね」
「そうだなあ。で、モンスターはまあ、それで理解できんこともないが、宝箱まで粉砕するのはやりすぎじゃねえか?」
「俺とティファでは、罠と鍵を外して開けるのに時間がかかるからな。まあ、それ以前に残骸そのものを見かけなかったから、最初から宝箱はなかった可能性もあるが」
ユウの言葉を聞き、今さらながらにシーフやスカウトが居なかったという事実を思い出すバシュラム達。
なお、暗に時間をかければ開封できると言っていることについては、バシュラムもベルティルデも特に突っ込まない。
ベルティルデとペアで行動することになって以来、本職には及ばないにしてもそのあたりの心得はバシュラムもベルティルデも身に着けているのだ。
「……収入絡みの話は、これぐらいで置いておこう。ボスはどうだったんだ?」
「小型で凄まじく弱体化したトライホーン・ドラゴディスが出てきた」
「「「えっ!?」」」
さらっととんでもないことを言いだすユウに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまうバシュラム、ベルティルデ、カレンの三人。
近くで聞くともなしに聞いていた深紅の百合のメンバーやアルベルト達も、その内容に絶句している。
「もっとも、ティファに一撃で仕留めさせたから、攻撃方法とかを見る機会はなかったがな」
「部屋の広さも二十メートル四方もなかった感じですから、多分先制攻撃で仕留めてなくても、あんまりちゃんとした戦闘にはならなかったかな、と思います」
「なんだよ、そりゃ……」
何とも残念なボスの有様に、大いに呆れて見せるバシュラム。たとえ弱体化バージョンと言えど、自分達が散々苦労させられた相手が、碌に戦闘もできない状況であっさりやられたとなると、どうしても複雑な気分になる。
「……ねえ、ユウさん。話を聞いていると、全部ティファちゃんにやらせてない?」
「今回に限っては、そのほうがよさそうだったから、あえて俺は手を出さなかった」
「っていうと?」
「カレンは知らないかもしれんが、生まれ育った地脈にできたダンジョンを攻略すると、特別な贈り物が得られる。その内容はダンジョン攻略の過程でどの程度活躍したかで大きく変わることが確認されていてな」
「つまり、ほぼ単独で攻略したのと変わらない状況にして、贈り物をできるだけいいものにしようとした、と?」
「ああ。もっとも、活躍度合いによって変動があることは確認されていても、上限があるのかどうかや、仮に上限があるとすれば何処で頭打ちになるのか、といったことまでは分かっていない。だから、実際にはここまでやる必要はなかったのかもしれないのだがな」
「まあ、滅多にあることじゃないんだし、念には念を入れて、っていうのは分かるよ」
ユウの説明を受け、そういうことならと納得するカレン。
昨日この話をしていた時、カレンは食料関係のすり合わせで走り回っていて不在だったため、聞いていなかったのだ。
実はこのあたりの情報は、冒険者の間でも知らない人間がちらほらいる程度にはマイナーな話だったりする。
そもそも、自身の生まれ育った地脈に発生した偶発ダンジョンを攻略する機会など、そうそうあるものではないのだから、知らない人間がいるのも不思議な話ではない。
カレンが納得したところで、ユウが話を続ける。
「それで、ボスを仕留めてダンジョンコアを砕いたのだが、手に入ったのが素材でなあ……」
「えっと、これです」
ユウの言葉に合わせて、ティファが手に入った拳大の宝石を取り出してみせる。
見た目だけでいうと、現時点では無色透明で輝きも乏しい、宝飾品としては大した価値のなさそうな宝石である。
が、ベテラン勢やマジックユーザーは、そんな見た目に誤魔化されるようなことはない。
その宝石が持つ底知れぬ何かと、それゆえにあからさまに加工が難しそうな様子にどよめきが起こる。
「みんなが驚いてるからすごいものなんだろうけど、なんだかパッとしない見た目だよね~」
「この手の素材タイプの宝石は、加工して道具の一部として組み込むと見た目が大きく変わるからな。今は無色透明だが、最終的にどんな色になるかすら今の時点では分からん」
「なるほど、そういうものなんだ」
今日は知らないことばかりだと、感心したように何度も頷くカレン。
「あっ、そういえばユウさん。途中から急いで攻略することに意識が行っちゃって忘れてたんですが、ダンジョンでモンスターを倒すたびに、体の中に何かが流れ込んでくるような感覚があったんです」
「……ふむ。それが事実なら、能力方面でも一度確認したほうがいいな。魔力量の制御について向上が見られればいいのだが……」
「いわゆるギフトの類だと、一番高い能力が底上げされる、っていうのが定説だからなあ……」
「……実は、俺も割と嫌な予感がしてはいる」
ティファの告白により、祝勝会だというのに妙な緊張感が漂う麗しき古硬貨亭。
今でさえ戦略兵器級だというのに、さらにパワーアップする可能性があるというのだから、当然であろう。
「男二人で旗を立てまくっているところ悪いんだけど、盛り下がるからこの話は終わりにしなさい」
「そうだな。ベルティルデさんの言うとおりだ」
「おう。俺達は何も気がつかなかった」
ベルティルデに嗜められ、サクッと追及をやめるユウとバシュラム。
そのまま流れるようにトライホーン・ドラゴディスの討伐に話題を変える。
「……ふむ。神官の魔法にそういうものがあるのは知っていたが、レッサードラゴンの類にも通用するとは思わなかったな」
「やった本人も驚いていたわね」
「俺はそれどころじゃなかったが、多分横で見てる側だったら同じように驚いてただろうなあ」
意外といえば意外な結末を聞かされ、素直に感心して見せるユウ。
そのユウに対し、同じような感想をしみじみと語るバシュラムとベルティルデ。
普通に考えて、レッサーとはいえドラゴン退治というものは、本来ならこういう感じで進むものである。
間違っても、人間が持っているとは思えない大火力で一撃で粉砕したり、人知を超えた技で首を一瞬で切り落としたりするものではない。
「それはそうと、話を聞いて思ったのだが……」
「なんだ?」
「少しばかり身も蓋もなければ風情の類もない意見かもしれんが、相手の全力ブレスと拮抗する、どころか呼吸が合えば一方的にぶち抜いて頭を粉砕できる攻撃ができるのであれば、最初からカラミティバインドで動きを封じて頭をそれでぶち抜けばすぐ終わったのではないか?」
「いやまあ、それは間違いなくそうなんだが、できるって確信持てたのがあの土壇場だったからなあ……」
「もしかしたら、最初からやっていたら威力が足りなかったかもしれないわね」
「そうなんだよなあ」
バシュラムの告白に、よくあるやつかと察するユウ。
戦う者の間では一般に覚醒するなどと言われている現象で、ここ一番というときに今までにないくらいの力を発揮したり、実力が一段階上に上がったりすることがある。
普通はアルベルト達のような新米から、せいぜい深紅の百合のような中堅手前の若手に起こる現象で、バシュラムの年齢では珍しいことではある。
が、六十を過ぎた老師が覚醒する事例もなくはないので、バシュラムに起こったからといって特におかしなことではない。
「しかし、ユウにもそういう風情だなんだってことを理解できる感性があったんだな」
「さすがに、俺とて一年も冒険者をやっていれば、そのあたりの感覚ぐらいは分かる」
「まあ、そうなんだろうけどよ、普段が普段だからなあ」
「ユウさんって、あんまり感情らしい感情見せないもんねえ」
「一応、ユウさんでも怒ったりとかはするんですけどね」
「そうなんだ。あんまり想像つかないな~……」
珍しく風情などというものに理解を示したユウを肴に、好き勝手な事を言って盛り上がる一同。
そんな彼らに対し、珍しくはっきりと苦笑を浮かべながら特に反論などはしないユウ。
結局祝勝会における彼らの話題は、ティファによるユウの怒りポイントや好き嫌いの暴露に突き進んでいくのであった。
☆
祝勝会開始から二時間後。
未成年だからと一足先に中座したティファとカレンは、就寝準備も終えこれから風呂に入ろうとしていた。
「ティファちゃん、お風呂一緒に入ろっか」
「はいっ!」
カレンにそう誘われ、嬉しそうに入浴グッズをもって風呂場に向かうティファ。
麗しき古硬貨亭の風呂は、ティファがこちらに住むことが決まってからしばらく経った時に、冒険者達からカンパを受けて改修工事が行われている。
その際、ちょうどティファの学年で問題が多発した時期だったせいか、いろいろため込んでいたリエラがストレス発散とばかりに許可を得て好き放題改造した結果、清掃いらず、地脈のエネルギーで二十四時間入浴可能という、場末の酒場兼宿屋には不釣り合いな立派な施設になっている。
とはいえ、さすがに公衆浴場ほど広い風呂が設置されているわけではなく、かろうじて男女にこそ別れてはいるが、一度に入れるのは各々五人ずつぐらいがせいぜい、湯船につかるのは大人三人が限界という大きさである。
「シャンプーしてあげるから、頭下げてね」
「はい」
カレンに言われ、素直に頭を下げるティファ。
そのティファの髪を、丁寧に洗ってやるカレン。
自身もそうだが、ティファの髪も長いため、きっちり洗うにはなかなか手間がかかる。
十分後。下手をすれば自分の髪よりも手間をかけて、カレンはティファの髪を洗い終えた。
「あっ、カレンさん。お背中流しますね」
「うん、お願いするね」
シャンプーのお礼に、とカレンの背中を流すティファ。
お互いに洗いっこを終えて、後は自分で体を洗う、という段階になって、カレンはティファの様子がおかしいことに気がつく。
「……ん~、ティファちゃん、何か困ってる?」
「えっと……」
カレンに心配そうに問われ、少し迷って口ごもるティファ。
「なんだか、体を洗う動きがちょっとぎこちないし、顔がこわばってるよ?」
「……はい」
「とりあえず、湯冷めしちゃうから湯船の中で聞くよ」
カレンにそう指摘され、迷った末に話を切り出すティファ。
もはや、不安も限界である。
「……あの……、実は……」
ティファがおずおずと切り出した相談内容を、真剣な表情で聞くカレン。
「先週ぐらいから、ちょっと乳首のあたりがむずむずしてなんか張ってるような感触があって、触ると痛くて……」
「……うん」
「今日のダンジョン攻略の後から急に強くなりだして、今、体を洗う時に触ったら腫れてるような感じがあって……」
「なるほどね」
「わたし、何か変な病気なんでしょうか? それとも、ダンジョンを攻略したり気の扱いを訓練したりしてるから? まさか、魔力のせい?」
不安要素を口にするたびに、どんどん気分が落ち込んで表情が暗くなっていくティファ。
相談内容を最後まで黙って聞いていたカレンが一つ頷くと、ティファの両肩に手を置いて正面から視線を合わせ、大真面目に断言する。
「ティファちゃん、それは病気でもなければ、今日のダンジョン攻略とかそういうのも一切関係ないから」
「そうなんですか? でも、さっき言ったように……」
「時期が早くなったかも、っていう部分では影響があったのかもしれないけど、それ自体は病気でも何でもなく、自然に起こることだから」
「そうなんですか?」
「うん。だってそれ、これからおっぱいが大きくなって、大人の体になりますよってサインだからね」
「えっ?」
カレンの言葉に、完全に固まるティファ。
やや早めの第二次性徴。それにまったくついていけないまま、ティファはいつの間にか大人への階段を上り始めることになるのであった。




