第4話 付与魔法科の日々
講義が始まってから一週間ほどが経過した、ある日の付与魔法科実習室。
ぼふんという気が抜ける音と共に、ティファの手のひらに乗っている魔石から一筋、小さな煙が立ち上る。
「……あっ」
「……やり直し、ね……」
概論と魔法回路設計の基礎、および実際の付与手順などの講義も終わり、ついに実技となったこの日、ティファは盛大に失敗を繰り返していた。
「まあ、正直言うと、漏れ聞こえてくる話を考えたら、やるとは思ってたんだよな」
「はうっ……」
「でもまあ、ある意味においては将来有望なんじゃない?」
「そうだなあ。今のところ、魔力が足りなくて失敗ってのはないわけだし、失敗の七割は魔力回路の変質のほうだしな」
「変質の仕方が安全だけどなんでこうなったって感じのものばかりなのは、ティファの性格によるところなのかしらね」
変質ということで取り分けられた十個ほどの魔石を見ながら、そんな風に結果について評論するロイドとミルキー。
ティファが作った失敗作の魔道具は、どれもこれも『どうしてこうなった?』というものばかりであった。
しかし、見込みがないというわけではない。
「見た感じ、込めた魔力に合わせて熱くない炎が出る石は、使い道があるんじゃない?」
「あと、こっちのランダムに渦の向きや数が変わるつむじ風の石は、水の中でも使えるんだったら洗濯機にいいかもな」
「熱風が出る石は、温度調整ができるならドライヤーかしらね?」
「ミカンジュースが出る石は、回路を研究して他の液体も出せるようになれば、需要はいくらでもありそうだよな」
「さすがに、宙に浮いて回転するだけとか、三十センチくらいの距離を延々と往復運動するだけなのは、このままだと使えそうにないわね」
「ミルキーが軽くつかむだけで動きが止まるくらいのパワーしかないからなあ」
火を出すだけ、水を出すだけというレベルの、いわゆる初歩の初歩という簡単な回路の魔道具で作り出された、妙に複雑な機能の魔道具の数々。
それらをチェックしながら、割と真剣な目で論じるミルキーとロイド。
ミカンジュースを筆頭にいくつかはありそうでなかったもの、というより、発想はあってもできるとは思われていなかったものなので、上手く研究すれば巨万の富を得られる可能性が高い。
「とりあえず、ティファの課題は分かったな」
「そうね。ただ、なまじ魔力の制御そのものには問題ないぶん、改善するのが余計に難しそうな気がするのよねぇ」
「経験者は語る、ってやつか?」
「残念ながら、良くも悪くも私はここまでじゃなかったけどねっ!」
ロイドとミルキーのやり取りに、へこんでいたティファが顔を上げ、不思議そうに首をかしげる。
「良くも悪くも、ですか?」
「どうせ見栄張っても、この根性悪にばらされていじられるだけだから先に言うけど、私も去年の今頃は、ティファと同じような失敗を繰り返してたのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。前にも言ったけど、私もティファほどじゃないけど普通の魔法使いより圧倒的に魔力量も多くて出力も高いから、このぐらい初歩の魔法回路だと、結構簡単に飽和させちゃうのよね」
「まあ、ミルキーの場合は変に力んで魔力を流しちまうことが多かったからか、ティファと違っていつも回路を焼き切るパターンだったが」
「悪かったわねっ! 制御が下手で!」
結局ロイドに落とされて、ムスッとした表情で吐き捨てるミルキー。
回路を焼き切るという失敗は、魔力が足りなくて魔法回路を定着をさせられないパターンと並んで、初心者が一番よくやるものである。
これに関しては別に投入する魔力が多いから起こる失敗ではなく、単位時間あたりの注ぎ込む魔力量に波があったり、回路に合わせた調整に失敗すると簡単に起こる現象で、魔法回路の一番弱い部分が焼き切れて機能しなくなるというものだ。
ティファが散々やらかしている、過剰な魔力で回路そのものを変質させ、その結果回路全体を破壊するのとはまったく違う現象である。
なお、魔力不足で失敗するパターンに関しては、途中まで回路に通した魔力が抜けないようにする処理をすれば防げるのだが、それをするためにも魔力が必要だ。
慣れないうちはその処理に必要な魔力を考慮し忘れ、魔力が足りないとなった時に何もできずに失敗するのである。
残念ながらというべきか、それとも幸か不幸かというべきか、こっちの失敗はいろんな意味で、一生ティファには無縁であろう。
「でもまあ、ミルキーやティファなんかはマシなほうだぞ。俺が一年の時に同学年だったやつは、魔力量が足りないのに無理に一回で終わらせようとして、あっちこっちの回路を焼き切った挙句に癇癪を起こして無理に魔力を絞り出そうとして気絶してたし」
「……そんな人がいたんですか?」
「ああ。本人の名誉のために、誰とは言わないけど」
「……それ、あたし達の代には答え言ってるのと同じなんだけど……」
ロイドの言葉に突っ込むミルキー。
実は、ロイドが一年の時の同級生というのが留年しており、現在、ミルキーと同じ学年になっているのだ。
そんな二人のやり取りから状況を察したティファが一言言う。
「ミルキー先輩の学年の生徒が三人いるのに、今年の新一年生が三人で多いと先生がおっしゃっていたので不思議に思っていたのですが……そういうことだったんですね」
「まあな。一応言っとくと、うちに関しては、留年自体は珍しくもなければ恥でも何でもないんだよな。むしろ、ストレートで卒業するほうが難しいし、そういう逸材は大抵高等課程に進むしな」
「むしろ、そのせいで人気がないから、付与魔法科に余計人が入ってこないって側面もあるのよね」
ロイドの説明に、ため息交じりに補足するミルキー。
入学以来ずっとクラスで浮いていたティファはそういう情報に疎かったが、実のところ、付与魔法科は留年が多いという情報は、アルト魔法学院では常識である。
なお、現在の付与魔法科は四年と五年が二人、それ以外の学年が各三人、高等課程が五人の計十八人いる。
うち高等課程の二人は卒業研究で班分けからほぼ離れているため、この教室にいるのは十六人ということになる。
「で、話がそれたけど、ミルキーからは何かアドバイスできることはあるか?」
「なんとも。こういうのは回数勝負って面もあるし、私のパターンとはまた違うから、もう少し様子見かしらね」
「さすがに実技の初日からどうこう言えるわけじゃないか……」
「当たり前でしょ。中等部の生徒に、何を求めてるのよ」
ミルキーの至極もっともな突っ込みに、それもそうかと納得するロイド。
本来なら高等課程の生徒にアドバイスを求めるべきなのだろうが、どういう采配か、この班には高等課程どころか、この三人以外にメンバーすらいない。
ケニーはよほどでない限り実技開始の初日からアドバイスをくれるタイプではないので、結局は自分達だけで試行錯誤を繰り返すしかない。
「とりあえず、もうちょっと試してみましょ。見本になるかどうかは分からないけど、私とロイドもやってみせるから」
「はい」
結局、他にできることもなさそうなので、練習を繰り返すことにするティファ達。
いくら先輩といっても、所詮中等課程の生徒など所詮見習いでしかない。
教師でも手を出しあぐねている問題に、適切に対処できるわけがないのだ。
「……むう」
「やっぱり、見本見せた程度じゃ厳しいか……」
「そもそも、作業そのものはちゃんとできてるからなあ……」
「私の時も、結局のところ魔力量の問題っていうより、ちゃんと作業がこなせてなかったっていうのが正しかったものねえ……」
「コツをつかむまで、三カ月くらいだったか?」
「コツつかんだのは、もっと早かったわよ。三カ月っていうのは、精度はともかく作業そのものを失敗しなくなるまでの期間ね」
「そうだったか?」
「さっきも言ったけど、あんたにいじられるのが分かってて、そんな単純な見栄なんか張らないわよ。正直なところ、何日か失敗と成功を繰り返してるうちになんとなく見切ったって感じだから、いつコツをつかんだかってあんまり正確に言えないけどね」
「作業のコツって、つかんだって分かる時のほうが少ないですよね」
「ティファも覚えがあるのか?」
「はい、いろいろと」
ロイドの問いかけに、真剣な表情で断言するティファ。
去年の今頃と比較すると、ティファはいろんなことができるようになっている。
が、そのうち明確にコツをつかんだ瞬間が分かるものは、気の感知と発剄のやり方だけ。後は反復練習をしているうちにいつの間にかできるようになったことか、じっくり観察してから作業に入った結果最初から完璧に近い形でこなせたことばかりである。
なので、ミルキーがいつコツをつかんだのか正確に言えないというのは、ティファからすればよく分かる話なのだ。
「一応確認するけど、ティファは魔法使えるようになった時から、魔力量を絞って魔法を使うのは苦手なのよね?」
「はい。もっと大量に使え、っていうのは簡単にコントロールできるんですけど、規模と消費を抑えて、っていうのは全然上手くいかなくて……」
「まあ、誰だって苦手なものはあるわよ。で、もう一つ確認だけど、それでも最初の頃に比べて、魔力消費を絞って魔法を発動させる事はできるようになってきてるのよね?」
「はい。それでも、魔法の規模がどうしても二つか三つ上のランクのものになってしまいます……」
「普通は魔力無駄に大量に注いでもランクが上の魔法になるって事はまずないから、ティファの魔力の性質自体がそんな感じだと考えたほうがよさそうね」
「はうっ……」
ミルキーの考察に、思わず涙目になるティファ。
それが事実であれば、下手をすればティファはこのまま、一生まともに魔法が使えないことになる。
「……えっと、落ち込んでるところ悪いんだけど、ティファにはさらに容赦のない話があるわ」
涙目になってしょんぼりするティファの姿に胸を痛めつつ、それでもここで手加減すると後輩のためにならないと、心を鬼にして話を続けるミルキー。
この後解決策を模索するにしても、大前提となる話をきっちりしておかなければ、適切な判断もできなくなる。
「正直な話、私が推測できるくらいだから、学長先生やあんたのお師匠様も、そのあたりはもう大前提としていろいろ考えてるんじゃないかと思うの」
「うう……」
「で、確認なんだけど、学長先生やあの脳筋師匠から、何か課題みたいなもの、出されてない?」
「……あっ!」
「出されてるのね。どんな内容?」
「発動体を作れ、って言われてました!」
「……発動体、ね……」
ティファから聞き出した解決策に、思わず頭を抱えそうになるミルキー。
考え方としては正攻法だし、先輩の中にはどうしてもうまくいかなかったから発動体を作ってもらってどうにかしている人物も、いるにはいる。
が、一年と二年と三年しかいないこの班では、目先の問題の解決としてやるには非常にハードルが高い方法である。
「……えっと、考え方としてはよく分かるし、多分それが正解なんだとは思うんだけど、ここで残念なお知らせが一つあるのよ」
「やっぱり、難しいですか?」
「せめて、四年生の先輩がいれば、どうにかなったかもしれないんだけどねえ……」
「発動体の作り方って、三年生の、それも後半で習うカリキュラムなんだよな……」
「あう……」
ミルキーとロイドの無情な説明に、思わずガックリするティファ。
カリキュラムというのは、基本的に必然性をもって組まれているものである。
中等課程では初等課程より習熟度や個人の特性に応じての変更が多いとはいえ、三年の後半で習うというのであれば、そう簡単に前倒しで教えたりはしないだろう。
「まあ、一応学科に関係なく、中等課程の一年でクリエイトデバイスっていう使い捨ての簡易発動体を作る魔法は教わるんだけどね」
「簡易発動体って、結局は使い捨ての間に合わせだから、腕のいい魔法使いが作っても見習い用の杖に毛が生えた程度の性能にしかならないんだよなあ」
一応は救いになりそうな情報を口にしつつも、否定的な態度を崩さないミルキーとロイド。
こう言っては何だが、どこの学科でも教えている魔法なんて、専門知識が不要な時点で初等課程で学ぶ魔法よりまし、程度の効果しかない。
クリエイトデバイスの魔法も突破口となりうる可能性は十分にあるとはいえ、過度に期待はできないだろう。
「……あの、すごく怖いことが頭に浮かんだんですけど……」
「……何よ?」
「わたしの場合、クリエイトデバイスも変なことになるんじゃないかな、と……」
「……ああ……」
涙目になりながらのティファの言葉に、否定できずに頷くしかないミルキー。他の魔法が散々変質したのだ、クリエイトデバイスだけが例外だとは考えづらい。
「……そのあたりはやってみないと分からないし、とりあえず今はできる努力をするしかないんじゃないか?」
「できる努力? もっと回数こなせってこと?」
「基本はそれしかないけど、ちょっと捻ったことを試すのもアリだとは思う」
「ちょっと捻ったことって何よ?」
「ティファの制御能力次第だけど、三つくらいまとめて付与するとかできないか? 複数同時にやれば、一個あたりに注ぎ込まれる魔力量も減るだろうしさ」
ロイドの提案に、難しい顔をするティファとミルキー。
やってみなければ分からないが、理屈の上では別に不可能なことではない。
単に、用水路の分岐のような感じで複数の回路に魔力の流路をつなぐだけのことだ。
が、理屈が単純だからといって、実践が簡単なわけではない。
「それ、異常にリスクは高いのにやってみなきゃ分からないっていう、ある意味最悪のやり方じゃない?」
「そうですよ。少なくとも、わたし達が独断で試すのは危なすぎます」
「それは分かってるさ。やるにしても、あと十個二十個練習してから、ケニー先生に許可取って立ち合いの上で、だな」
そう言って、大量の魔石を並べるケニー。
「つうわけで、さっき練習用の石貰ってきた時に、今までの練習に使ったのより魔力容量のデカい石を見繕っておいたから、これでガンガン練習だな」
「あの、それをわたしの練習のためだけに使いつぶすのは、とても心苦しいんですが……」
「大丈夫大丈夫。不純物が多くて魔力抵抗も大きいし、普通に付与するにも要求魔力が増える素材ばかり選んできたから、そうそう他のことには使えないよ」
明らかに気が引ける、という態度のティファに対し、ロイドがひどいことを言い出す。
何がひどいって、要するに付与素材としては魔力容量が大きいだけで使い道がないクズ石を、新米であるティファの練習にあてがっているのだ。
これが特殊な事情を抱えるティファでなければ、完全に嫌がらせの類である。
なお、付与魔法自体は別に魔石が対象でなくても可能で、魔石の類がついていない魔道具は特に珍しくない。
単に魔石は付与魔法が使いやすいため、ティファ達のような見習いは、まず魔石を安定して魔道具に加工できるよう練習をするだけの話だ。
因みに、この手の本来使い物にならない魔石が混ざっている理由は簡単で、それを見抜くのも付与魔法使いとして重要な技能だからである。
「というわけで、やってみ」
「はっ、はい!」
「あんたねえ……」
「魔力がデカすぎることが問題になってんだから、もしかしたらこっちの方が上手くいくかもしれないじゃないか」
あまりに雑な考えで行動を起こしたロイドに対し、呆れながら抗議の声を上げるミルキー。
そんなミルキーを、食えない笑みで受け流すロイド。
「あ、あの。多分いい魔石を使っても失敗するので、こういう石のほうが気兼ねなく使えますから」
「そういう問題じゃないの。別にティファのためとかじゃなくてね、そういう使えない石を後輩に使わせるとか、悪質ないじめみたいじゃない。そんなことしてるって思われるのを、私が我慢できないのよ!」
「は、はあ……」
「だ、だから、間違ってもあんたのためなんかじゃないんだからねっ!」
「なあ、ミルキー。いろいろ語るに落ちてるって、自覚あるか?」
「ロイド、うるさい!」
ロイドに突っ込まれ、顔を真っ赤にして吠えるミルキー。
そのやり取りを、目を丸くしながら見守るティファ。
「とりあえず、なんかティファのことにかかりきりなっちまったけど、俺らも練習するか」
「……そうね……」
お約束の反応を引き出せて満足したのか、ロイドがやたら冷静に話を軌道修正する。
ロイドに言われ、今日は結局、ティファに見本を見せた以外で自分の実技を何一つやっていないことに気がつくミルキー。
結局この日はティファの問題点は一切解決せず、その代わり見とり稽古にでもなったか、ミルキーとロイドがいろいろと成果を出すことになったのであった。
☆
「というわけで、今日はあまり上手く行かなかったんです……」
「やっぱり、中等課程って難しいんだ……」
「多分、わたしが特殊だから難しいんだと……」
その日の夕方。麗しき古硬貨亭。
遊びに来ていたリカルドに、ティファが自身の不甲斐なさについて愚痴をこぼしていた。
「いやいや、そんなことはないよ。使い捨てじゃない魔道具って、普通に難しいから」
ティファの愚痴を聞くともなしに聞いていた深紅の百合の魔法使い・フィーナがそんなフォローを口にする。
今日はいろいろあってリカルドのフィールドワークの護衛をフィーナとマリエッタの二人ですることになり、その流れでリカルドをここに連れてきていたのだ。
なお、今日は実家の関係で里帰りせざるを得なくなったアイネスを筆頭に、他のメンバーは軒並み外せない用事が入ってアルトを留守にしていて、パーティとしては開店休業状態である。
「そもそも根本的な話として、術式と魔法回路じゃ、考え方も構築の仕方も全然違うからね。むしろ、魔力を流し込むっていう共通点しかないってくらい別物だから、術式での魔力の扱いに慣れてれば慣れてるほど、魔法回路を付与する時に勘が鈍るんだよ」
「そーなの?」
「うん。そうなの。しかも、魔法回路のほうには、術式だと省略できる要素が大量に入ってくるから、その分魔力の扱いも繊細になってね」
「へ~」
フィーナの解説を聞き、感心の声を上げるリカルド。
彼自身はようやく魔力の扱いが安定してきたところであり、術式と魔力回路の違いなんて高度な次元はまだまだ遠い。
「多分だけど、他の同級生もいいとこ一個作れてるかどうかだったんじゃない?」
「確かに、そうだったかもしれません」
「むしろ、変質させまくったとはいっても、実技の初日から付与そのものには成功してるティファちゃんは十分に才能あると思うよ」
修行時代に自身がした失敗を内心で振り返りながら、掛け値なしの本音でそうティファを持ち上げるフィーナ。
去年のミルキーもそうだったが、ちゃんと機能する魔道具を作れるかどうか、というのがまず最初の関門である。
「そーいえば、ぼく達が普段使ってる魔道具って、どうやって作ってるの?」
「基本的には職人さんや工場で作った道具に、付与魔法使いが魔法回路を付与するやり方かな? 最近は工場で分業体制でやってたり、付与魔法使い以外が魔法回路を付与するための魔道具を開発してたりするから、ものすごくお高い魔剣とかでもなきゃ、そういう昔ながらのやり方は減ってきてるけど」
「そーなんだ?」
「うん。あと、そもそも身近な魔道具のうち七割くらいは、電気で動く電化製品に置き換わってきてるから、ハンディライトみたいなものじゃなきゃ量産品の魔道具って減ってきてる感じではあるね」
「へー、そーだったんだ……」
フィーナの丁寧な解説を聞いて、何やらすごく感心しているリカルド。
そんな中、ティファが一つ、致命的な問題に気がついてしまう。
「あの、それだと、付与魔法使いの仕事ってほとんどないんじゃ……」
「そんなことはないよ」
「むしろ、付与魔法使いが足りてないからこそ、電化製品の割合が増えてるわけだしさ」
ティファの怯えが伴った疑問に対し、あっけらかんとそう言い切るフィーナとマリエッタ。
ティファやミルキーが苦戦しているように、付与魔法というのは習得が難しく、また習得できても一人が一日に製作できる魔道具の数はそう多くない。
その分、電化製品に比べて圧倒的に丈夫でランニングコストも安く、また電線を通すことができないような場所でも使えるという長所があるのだが、生産量が少なければどうしても値段は上がる。
残念ながら、一般家庭では平均して倍近い値段差を許容するほど、そのあたりの長所を重視しないし、手に入らなければ長所もなにもない。
結果として、現在普及品は魔道具より圧倒的に作りやすい電化製品にとって代わられようとしていた。
ただし、これはあくまで普及品、もしくはエネルギー源を電力などに頼っても問題ないものの話。
水道や非常灯、調理機器など非常時に使えないと困るものは、電線や発電所がやられると使用不能になる電化製品では都合が悪いため、完全に魔道具だよりだ。
付与魔法使いは現在、その手のものの開発製造や携帯用の器具、魔剣などの軍需品を生産するほうに回っているのである。
「まあ、どんなに電化製品が便利になっても、銀製武器か魔法の武器でないとダメージが通らないモンスターがいる限り、付与魔法使いが食いっぱぐれる心配はないから安心しなよ」
ある意味最も重要と言える点を口にして、マリエッタがティファの不安を一蹴する。
様々な研究開発の結果、電力を使って発生させる現象はあくまで物理現象のため、それで物理無効のモンスターにダメージを与えることはできない、ということが分かっている。
魔力は電力の代わりになるが、電力は魔力の代わりができないのだ。
因みに、銀製武器か魔法の武器でしかダメージが通らないモンスターの代表例が、グールやワイトなどの中級アンデッドと中級以上のデーモン種である。
このうち、アンデッドは割とどこにでも突発的に発生する上、びっくりするほど増殖することがあるので、そのためにもこの手の武器は重要なのだ。
「なんかティファちゃんが深刻な空気になってるみたいだけど、また難しい話してた?」
「あっ、おかえり」
「ただいま~」
ちょうどマリエッタが一番重要な付与魔法の役割を口にしたところで、カレンが帰宅する。
その後ろから、何やら大量の石が入った籠を背負っているユウの姿が。
「おや、カレンちゃんとユウが一緒とは珍しい」
「ちょうど、店の前でばったり会ってね~」
「うむ。そろそろティファが帰宅している頃かと思って戻ってきたら、たまたまタイミングが合ってな」
フィーナの問いかけにそう答えつつ、背負っていた籠をティファの隣に降ろすユウ。
「おかえりなさい、ユウさん。この石は?」
「ああ。ティファの練習用に、クズ魔石にしかならん魔石の原石を片っ端から拾ってきた」
今までの話を聞いていたのではないかと思うほどの、なかなかにタイムリーな話題に、思わず目を丸くするティファ。
ティファの愚痴に付き合っていたフィーナとマリエッタも、無言のままどういうことかと視線でユウに問いかける。
「今日はこれといって俺が出張るような依頼がなくてな。休養日ということにして装備を手入れに出したあと、ティファの状況についてリエラ殿に聞いてきた」
「えっ?」
「ちょうど、お前の担任から最初の報告が上がってきていたらしくて、リエラ殿から分散付与の訓練を進めておいてくれと頼まれた」
「分散付与、ですか?」
「技術的な面での詳しいことは一切知らんが、要するに複数の魔石に同時に付与魔法を施す訓練をすればいい。ティファならこの説明だけで、どうすればいいかの見当ぐらいはつくはずだ、とリエラ殿が言っていたな」
そう言って、さっさとティファに小さめの石を二つほど握らせるユウ。
それを見ていたフィーナが、面白そうな表情を浮かべつつ、問題点を確認する。
「学長先生の指定なんだから間違いはないんだろうけど、付与魔法って迂闊に試して失敗すると、結構な惨事になるよ~?」
「だから、俺に監督をしろと言ったのだろう。俺なら、何かあった時に暴発前に割り込んで魔法を消去できるからな」
「ユウさんって、そんなこともできるの!?」
「イレイズと言って、技と魔法を複合させて行う古巣の基本的な技能の一つだ。さすがにリエラ殿が本気で練り上げた魔法を潰すのは難しいが、ティファがミスって暴発させそうになった魔法ぐらいなら余裕で消せる」
カレンの驚きの声に、いつものように淡々と説明するユウ。
それを見てティファが何やら思い出す。
「あっ、もしかして!?」
「『堕ちた遺跡』で、ティファには一度見せているだろう?」
「はい! 確か、ノックスさんの魔法を発動前に消してました!」
「そういえば、あの娘はそんな名前だったな。まあ、その娘のことはどうでもいい」
あれだけの騒動だったというのに、ティファに言われるまで名前も顔も完全に忘れていたユウ。
原因となった人物だけに、居たということ自体はさすがに覚えていたようだが、それだけらしい。
いくら終わったこととはいえ、自分達が死にそうになった原因の一端を担っていた相手に対しても、驚くほど関心がないのは、さすがのユウといったところである。
「付与魔法科での生活が落ち着いたらティファにも教えるが、まずはそちらの訓練が最優先だ。しばらくは、学校が終わった後、俺が付き添って訓練を見ておく」
「はい!」
久しぶりに日課以外でユウと訓練する、という状況に、実に嬉しそうにティファが返事をする。
「ここで訓練するのは構いませんが、くれぐれも建物に被害を出すようなことは避けていただきたところですな」
そこに、奥で仕込みをしていたマスターが、人数分のコーヒーとジュース、および軽いおやつを持ってきつつ水を差す。
別にうるさく言うつもりはないが、さすがに事前に断りもなしに危険なことをされるのは、店の主としては看過できない。
「すまん、先にマスターの許可を取っておくべきだった」
「いえいえ。ユウ殿がそれを忘れるくらいですから、我が家のようにここに馴染んでくださっているのでしょう。我が家でなら、そういう配慮が漏れるのは仕方がないです」
「だが、ほぼ問題ないとはいえ、まったく危険がないわけではないことを無断でやろうとしたことは事実だ。今後は必ず先に許可を得るようにする」
マスターに苦情を言われ、申し訳なさそうに素直に非を認めて謝るユウ。
いかに非常識の塊でも、こういう部分の礼儀や常識は、一応ちゃんと備わっているのだ。
「基本的に、よほどのことがない限りは、建物に被害が出るようなことはないはずだ。とはいえ、人間、失敗するときはどんなに準備をして慎重に進めていても失敗する。フィーナ、悪いが念のために結界の準備をしておいてくれ」
「分かった。最悪でも、このテーブルが壊れる程度の被害に抑えるよ」
「頼む」
そう言って、フィーナが結界の準備をするのに合わせ、何やら建物全体に魔法をかけるユウ。
過剰なまでの防御体制である。
「こちらの準備は終わった。ティファ、やって見せろ」
「はいっ!」
ユウに言われ、握った石に付与魔法を施すティファ。
付与するのはどちらも同じ機能、クリエイトウォーターだ。
言うまでもなく、数ある付与の中で最も無難なものである。
「ぼく、付与魔法って見るの初めて!」
「私もだよ」
その様子をわくわくしながら見守るリカルドとカレン。
そんな二人に、付与魔法の作業の地味さを知っているフィーナが、思わず苦笑を漏らす。
「……あっ!」
作業すること十数秒。付与魔法が終わる時に出る小さな閃光に合わせて、ティファが慌てたように声を漏らす。
その声と同時に、ティファの右手からさらさらと砂が零れ落ちる。
「ふむ、失敗か」
「はい、失敗しました……」
「まあ、原因ははっきりしてるな。ギャラリーが多い中での初めての作業だから仕方がないが、少々力みすぎだ」
ユウの容赦ない指摘に、しょんぼりしながら頷くティファ。
ティファの初めての分散付与は、右手の魔石が完全破壊、左手の魔石が魔法回路の破壊という結果に終わった。
「石はいくらでもあるから、どんどん練習してくれ。大量に壊して初めて分かることもあるだろうからな」
「でも……」
「どうせ、魔石としては使い物にならんようなクズ石だ。魔石として使わないにしても、他の用途もこれといったものがあるわけではない。上手くいけば儲けものなのだから、気にせずどんどん使いつぶせ」
昼間のロイドと似たようなことを言い放ち、ティファに練習を促すユウ。
こういうケースでは、考えることは同じらしい。
「えっと、じゃあ、もう少し練習してみます」
ユウに言われ、なんとなく肩の力が抜けた様子で練習を再開するティファ。
額面通りに受け取ると、最初から成功しないと言われているようなものなのだが、そのことに反発しないあたりがティファである。
そのまま同じように付与を繰り返すこと十数回。
魔法回路の変質が起こった魔道具が三十個近くできたところで、軽く休憩を入れることに。
「……すごいね、これ。全部違う種類の飲み物だよ」
「すごく美味しいわけじゃないけど、気の抜けたエールとかに比べれば十分上等だね」
「何というかこう、チープな味が癖になるっていうか」
「分かる分かる。時々売ってる、申し訳程度に果汁入れて着色料と甘味料で誤魔化してるジュースなんか、こんな感じ」
「うんうん。まあ、あれよりは美味しいけどね」
ティファの作った魔道具から出てきた飲み物をいくつか味見し、そんな感想を言い合うカレンとマリエッタ。
今回ティファが作ったクリエイトウォーターの魔道具は約三十個なのだが、そのすべてが違う液体を作り出すものになっていた。
単なる炭酸水からコーヒー紅茶に牛乳、各種無果汁のフルーツジュースに正体不明の飲み物まで、ノンアルコールのドリンクというのはこれほどの種類があったのかと感心するしかない。
アルコール類が一切ないのは、ティファが子供で飲酒経験がないからであろう。
炭酸水などは密かに炭酸の強さが調整できるようで、これ一つあれば酒場としては非常に便利とマスターとカレンが喜んでいたのはここだけの話である。
なお、生み出された液体の安全性はユウとフィーナがちゃんと検査して確認しているため、すでに誰も警戒していない。
「もしかして、これがあったらジュース飲み放題?」
おかわりとして注いでもらったブドウジュースを名残惜しそうに飲み干したリカルドが、すごい事実に気がついたとばかりにそんなことを言い出す。
「そうなるだろうな」
「いいな~。ぼく、お小遣いほとんどないから、ジュースなんてめったに飲めないよ」
「めったに飲めないからこそ美味しい、って考え方もあるよ?」
あまり身体によくなさそうな方向に進みかけたリカルドを、カレンがそんな言葉で引き留める。
ジュース飲み放題など、子供に許しては碌なことにならない。
「クズ石でこんなにちゃんとした魔道具が作れるんなら、それだけで十分じゃないかな?」
「狙った効果に確実に変質させられるのであれば、な」
楽観的なフィーナの意見を、ユウがシビアな一言で叩き潰す。
結局のところ、ティファの現在の問題は、その一点に尽きる。
「それで、だ。横で見ていて気がついたのだが、もしかしたら龍鱗を使っていることで問題が起こっているのかもしれん」
「龍鱗で、ですか?」
「ああ。あくまでも俺の推測にすぎんのだが、付与の際に手のひらに張ってある龍鱗を通り過ぎることで、魔力の性質が変わっている可能性があるのではないか?」
「……あっ」
ユウの指摘に思うところがあるのか、思わず小さく声を上げるティファ。
すぐに二つほど石を手に取り、龍鱗を展開せずに付与を行う。
その結果……、
「お~。今回は、片っぽはちゃんとできてるね」
「本当ですか?」
「うん。一応変質は起こってるけど、スイッチの位置が変わってるとかその程度だから、実用上は問題ないよ」
どうにか及第点と言える成果を出すティファ。
とはいえ、結局変質は起こっているので、今後複雑で精密な魔法回路を付与する時に難儀なことになりそうな雰囲気ではある。
「ねえ、ユウさん」
「何だ?」
「ティファちゃんが普通の魔法を使った時に規模が大きくなったり変な付加機能が付いたりしてたのも、龍鱗ってののせいじゃないの?」
「いや、ティファに龍鱗を教えたのは魔法が使えるようになってからだから、まったく無関係とまでは言えないまでも直接の原因ではないだろうな」
「そうなんだ?」
「ああ。残念ながら、普通の魔法に関しては最初からあんな感じだったし、逆に訓練に使っているライトの魔法みたいに、龍鱗の有無に関係なく安定して制御ができているものもあるからな」
「そっか~……」
「まあ、気功が制御や規模に影響している節はあるから、さっきも言ったように、まったく無関係とは言えんのだが」
カレンの疑問に対し、分かっていることを元にそう答えるユウ。
普通なら気功という技能は、ここまで魔力の扱いに影響を与えたりはしない。
少なくとも、アイアンウォール所属の大魔力持ちのケースでは、意図的に魔力と気を混ぜて使用した場合を除けば、保有魔力の伸びがよくなったこと以外に大きな影響などなかった。
だが、ティファに関しては明確に魔力と気が相互干渉を起こしている事例が散見されるため、はっきり言って何がどの程度おかしな影響を与えているか分からないのだ。
そもそもの話、ティファの魔力は最初からいろいろおかしなところがあった。それを白兵戦および格闘戦を専門としているユウが指導しているのだから、どうしても限界がある。
最初から分かっていたことではあるが、ティファが専門課程に進んだことで、そろそろ明確な問題として噴出しつつあった。
「当初から予想していたことではあるが、並み程度の魔力しか持たん俺では、どうしても分からんことが増えてきている。そろそろ手を打たんと、致命的な掛け違いが発生しかねん」
「手を打つのはいいのですが、何か当てはあるのですかな?」
「あまり気は進まんが、一度古巣に連絡を取ってみる」
「気が進みませんか」
「ああ」
マスターの質問に答えると、いつも以上にムッツリした表情で黙り込むユウ。
珍しく非常に分かりやすい感情を見せているユウに、カレンが興味津々といった体で声をかける。
「やっぱり、ユウさんでも辞めた職場に連絡とるのは気が進まないんだ」
「ああ。別に揉めたわけではないが、あまりいい辞め方でもなかったからな。円満退職と言えど、やはり気まずい」
どこまでも珍しい、普通の人間と変わらぬユウの姿。
それを見て目を丸くしつつ、どうやら鉄壁騎士団を辞めるのに想像以上の何かがあったらしいと悟るカレン。
そんなカレンの内心を知ってか知らずか、ユウがさらに言葉を続ける。
「それに、確かに退職そのものは円満に進んだが、いろいろあって人材が十分とは言えん状況で辞めている。もう一年経っているから少しはましになっているだろうが、人材不足なんてものがそう劇的に改善することなどあり得ん。そんな状況で、尻尾を巻いて逃げた人間が弟子の育成について相談など持ちかけたら、どの面さげてという話になりそうだ、というのもな……」
「え!? 尻尾を巻いて逃げた? ユウさんが?」
「ああ」
驚きのあまり反射的に聞き返したカレンに対し、短く返事して一口コーヒーを飲むユウ。
その様子に、この場にいる誰もがかける言葉を見つけられず沈黙する。
特にマリエッタとフィーナは、ユウの強さを間近で見たことがあるだけに衝撃が大きいらしく、驚愕の表情で固まっている。
年の功というべきか、その沈黙を打ち破って最初に言葉を発したのはやはりマスターであった。
「去年の二回の魔神騒動では、どちらも鉄壁騎士団と連絡を取り合っていたようですが?」
「魔神に遭遇して生還した場合、いつどこでどんな状況で何と遭遇し、どう対処したかを報告するのは退役者の義務のようなものだからな。別に罰則規定があるわけでもない暗黙のルールだが、やっておけばそれだけ後々の被害を軽減できるとあれば、報告しない理由もない」
「なるほど、そういうことでしたか」
ティファのことでは古巣と連絡を取りづらいと言っていたユウの、一見矛盾して見える行動。
その理由を聞いて納得するマスター。
どうやらユウの中では公的なことで古巣と連絡を取ることにわだかまりはなく、魔神の出現は公的なことに、ティファの指導は私的なことに分類されているらしい。
「場合によってはティファの一生に関わってくることだから、気まずいなどと言わずにちゃんと連絡は取るつもりだ。だが、何分向こうも忙しい。返事が返ってくるか、帰ってくるにしてもいつになるかというのは何とも言えん」
「……なんだかご迷惑をかけてばかりです……」
「努力だけではどうにもならないことなのだから、ティファが気にすることではない。自力ではどうにもならんことで子供が大人を頼ることを、普通迷惑をかけるとは言わん」
申し訳なさそうにうつむいてしまったティファに、いつもの調子に戻ったユウがそう告げる。
そもそも根本的に、ユウが鉄壁騎士団を辞めた事情や経緯など、ティファには一切関係ない。
古巣との関係に関しては、ユウが本人の責任でどうにかすべきことで、ティファが申し訳なさそうにする理由も必要もないのだ。
それでも気にしてしまうのがティファなのだが。
「……あの、ユウさん」
「なんだ?」
「どうしてユウさんは、あの時わたしを指導しようと思ったんですか?」
「ふむ、そうだな……」
ティファの疑問に、当時のことを思い返しながら、どう答えたものかと頭をひねるユウ。
正直な話をするなら、気まぐれとまでは言わなくとも、別に明確な理由があって師匠の役目を受けたわけではない。
そもそも初対面の子供相手にそこまで入れ込むような理由もなく、また可哀想だからと手を差し伸べるような性格でもない。
だが、それを正直に答えるのもどうか、と考える程度には、ユウにも一般的な良識というものが備わっている。
故に、下手な答えを返して今後の訓練に影響が出ては困るので、必死になってよさそうな答えをひねり出す。
「……そうだな。それほどはっきりとした理由があったわけではないが、強いて言えばちょうどよかったから、といったところか?」
「ちょうどよかった!? どういうこと!?」
あまりにユウらしい理解不能な理由に、思わずリカルドがティファより先に口を挟む。
このあたりの妙な反射神経の良さは、うまく育てれば今後大きな武器になるかもしれない。
そんな余計なことを考えつつ、ユウがリカルドに応える形でティファに理由を説明する。
「恐らくティファとカレンとマスターは覚えているだろうが、俺がティファの指導を引き受けたのは、ちょうどこっちに来たその日のことでな。何をするかや将来的な目標は何も決まっていなかった」
そこまでの説明で、ティファにはピンと来たらしい。
「それで、カレンさんがわたしの指導を提案したから、当面のやることとして引き受けてくれたんですね」
「さすがに当面、というほど軽くは考えていなかったが、まあそういうことだ。何しろ、当時は国も生活環境も何もかもが変わって、まさしく右も左も分からんような状態だった。が、国が違っても見習いの鍛え方なんぞそうは変わらん。経験があって勝手が分かっていることを提示されたのだから、自分の学びを兼ねて引き受けた」
ユウの説明に、なんとなく納得するティファ。
とはいえ、それほど情熱的な理由ではないのは事実なので、現状の不甲斐なさを考えると不安は尽きない。
「でも、ユウさん。ティファちゃんが心配するほど軽くは考えていないにしても、いつまでもずっと面倒を見るつもりもないんでしょ?」
「当たり前だ。師弟関係というのは一生ではあるが、指導は普通一人前になるまでだ。だから、それほど短期間で終わるとは思っていなかったが、逆に互いのためにもいつまでも指導を続けるつもりもなかった。というより、いつまでも続けるつもりは今もない」
「まあ、それが健全な師弟関係というものでしょうな」
「そういうことだ」
カレンの質問に答えたユウの、聞きようによっては非常に冷たく聞こえる言葉を、マスターが間に入ってフォローする。
「いつ終わりにするか、その見極めは当然慎重にするが、師としては弟子が立派になって己の元から巣立ってくれれば、それ以上の喜びはないからな。魔法使いと戦士でジャンルが違うから分かりやすい形では望めんが、可能であれば俺を超えていってくれれば最高だと思っている」
「さすがにそれは無茶でしょうな」
「ああ。いくらなんでも、ティファが前衛に向いていないことぐらいは分かっている」
マスターの指摘に、重々しく頷くユウ。
実のところ、攻撃力に難があるだけで、ティファの杖術はすでに前衛として一人前と言える程度の技量に達している。
バシュラムくらいしか気がついていないが、今のティファは駆け出し三人くらいなら一人でさばききれるのだ。
「とりあえず、冒険者として一年過ごしたが、いまだに俺はこれといってやりたいことも目標も見つかっていない。先ほどの言葉を繰り返すことになるが、だったらこちらでの初弟子を今までで最高の弟子と言えるところまで育て上げることを、当座の目標にするのも悪くないかと考えている」
最高の弟子、という単語に、ティファとリカルドを除く全員に衝撃のようなものが走る。
非常識が服を着て歩いているような人間が、最高傑作だと胸を張れる弟子。
考えるだけでも恐ろしい。
「……それ、目途とか計画とか、そういう感じのものはあるの?」
「残念ながらあたりすらつけられんが、あと数年は終わらせられんだろう。何しろ、ティファの魔力は、最初に思っていたよりはるかに厄介な性質をしている。手探りにならざるを得んことも多いから、現時点ではどうなれば一人前として巣立たせていいのかすら分からん」
ティファを化け物にするぞ宣言に内心でおびえつつ、とりあえず重要な事としてそのあたりを確認するフィーナ。
そのフィーナの問いに対して、正直に現状を告げるユウ。
目途がついているのであれば、わざわざユウが古巣に連絡を取る必要自体無い。
「とりあえず、魔力がらみに関しては、現時点では情報が足りなくてこれ以上は何も言えん。しばらくは龍鱗を使わずに付与魔法を練習して、普段の訓練は今までより気のコントロールを重視するしかなさそうだな」
「ねえ、ユウさん。それで最終的にどうにかなりそうなの?」
「分からん。が、そもそも気を扱うようになってから半年程度だからな。まだまだ及第点はやれん程度に扱いが荒い。そのあたりがおかしな挙動につながっている可能性はかなり高いと睨んでいる」
「ユウさんがそう言い切るってことは、一応根拠みたいなものはあるんだよね?」
「ああ。ティファの魔力が特殊な性質を持っていることや付与魔法とそれ以外の魔法の違いを差し引いても、普通は龍鱗を通したからといって魔法が変質したりはせん。というより、龍鱗が本人の魔力に干渉していること自体がおかしい」
「あ~、なるほど! っていっても、普通の魔法使いがどういうものかもよく分からないから、そうなんだとしか言えないけど」
ユウの出した結論に対して、そういうものかと一応納得しておくカレン。
フィーナやリエラのような魔法の専門家ならまた違う意見もあるだろうが、所詮カレンは一般人でしかない。
できることなどせいぜい、一般人でも思いつくような疑問を口にする程度である。
「……あれ?」
そんな、高度なのかそうでないのかよく分からないやり取りを続ける大人についていけなかったリカルドが、残っていたクッキーに手を伸ばしかけて、妙に嬉しそうなティファの様子に気がつく。
「ティファちゃん、なんかすごく嬉しそうだけど、いいことあった?」
「うん。とってもいいことが」
「へえー、よかったね」
「うん!」
非常に嬉しそうなティファの笑顔に、なんとなく自分も嬉しくなりながら最後の一枚を食べるリカルド。
年相応の男の子でしかないリカルドには、これまでのやり取りでティファがそこまで嬉しそうにする理由に気がつかない。
一方、違和感を持つべき大人達は意見交換にかかりっきりで、ティファの様子にまで意識を向けていない。
結局、大人達は誰一人として、ティファが非常に嬉しそうにしていたことに気づくことはなかったのだった。
☆
それから一週間後。
「大分安定してきたみたいだけど、不満そうだな?」
「不満というか、結局龍鱗を使ったまま付与するとおかしなことになるのは変わってませんし……」
「その『龍鱗』ってやつが本当にあるのかどうかが俺には分からないから、そのあたりは何とも言えないなあ……」
「というか、使わなければ上手くいくんだったら、無理して使う必要なくない?」
「でも、何かあったら危ないので、できればこういう防御関係は使えるようにしておきたいんです」
「あ~、まあ、分からなくはないわね」
ティファの言い分を、素直に認めるミルキー。
付与魔法の場合、魔法を暴発させなくても、回路設計を間違えれば暴発以上に危険な状況になることもある。
何らかの形で防御手段を確保しておくのは大事なことだ。
「今思ったんだけど、普通の付与魔法使いって、どんな風に防御手段を確保してるのかしらね?」
「この学院みたいに、設備そのものに結界とか消去魔法とか沢山組み込んでおいて、ってのは簡単じゃなさそうだしなあ……」
「えっと、ロイド先輩も知らないんですか?」
「俺に分かることは、二年生までに教わる内容だけ。てか、その辺の事情は高等課程の先輩でも、多分ちゃんとは知らないんじゃないか?」
肩をすくめながらのロイドの台詞に、それもそうかと納得するティファ。
ミルキーをからかう時の態度や世慣れしている印象も手伝って、なんとなくロイドは何でも知っているような気がしていたのだ。
「まあ、付与魔法は危険っていっても、召喚魔法よりはマシよね」
「そうですよね。あっちは何が出てくるか、本当に分かりませんから」
「魔神はさすがにないけど、デーモンくらいなら事故で召喚されたことがあったらしいしなあ。確か、五年か六年か前の話だったはず」
「その時はどうしたんですか?」
「担当の先生がバインドと結界で時間を稼いでる間に、学長先生が駆けつけて魔法で一撃」
「やっぱり、学長先生はすごいわよね」
「そういえば、去年の魔神出現の時にも、リエラ先生はデーモン種を一撃で仕留めていました」
ティファの言葉に、へえーという表情を浮かべるロイドとミルキー。
去年アルトの近郊に魔神が出現したとき、リエラが生徒を保護するために外に出ていたことは、学内では有名な話である。
「てか、それを知ってるってことは、ティファも現場にいたってことだよな?」
「あら、ロイド。知らないの? この子は二回、魔神の出現に立ち会って生還してるのよ?」
「そうなのか?」
「えっと、はい。どっちも、どうにか生き延びただけ、なんですけど……」
珍しく有名な話を知らなかったロイドに対し、えらそうにミルキーが話す。
その話題に、居心地悪そうにそう答えるしかないティファ。
二回目に関してはティファがいなければ魔神討伐は成せなかったのだが、残念ながら今のティファはそれを誇る気にはなれない。
「どうにか生き延びた、ってだけでもすごいことだと思うけどね」
「だよなあ。一回目は早期討伐に成功したおかげで犠牲者はいなかったけど、二回目は聞くところによると、ものすごい数の死人が出たらしいし」
「……あの、その話はちょっと……」
ティファの暗い表情に、あちゃあという顔をするロイドとミルキー。
死人の数もさることながら、この学院の初等課程の教師も一人、命を落としている。
ロイドとミルキーにとってはたまに挨拶をするだけだった教師だが、ティファとは仲が良かった可能性もある。
多数の冒険者の死を目の当たりにしただけでなく、仲が良かったかもしれない教師の死に立ち会ってしまったかもしれないのだ。
まだまだホットな話題とはいえ、さすがに当人を前にするには無神経な話である。
先日は基本的に違う話題だったため触れずに済んだのだが、今回は話題が話題だけにすぽんとそのあたりの配慮が抜けてしまったようだ。
「……練習を再開しましょうか」
「そうだな」
「ならば、俺も混ぜてくれ」
しばらくの沈黙ののち、とりあえず気分を切り替えるために練習を再開することにするミルキーとロイド。
そこに聞き覚えがある、だがここにいるのはおかしな人物の声が割り込んでくる。
「えっ!? ユウさん!?」
「ああ」
「ど、どうしてここに!?」
「リエラ殿と相談した結果、指導の参考にするために、俺も付与魔法科の一年で習うことぐらいは身に着けておいたほうがいいだろう、という話になった」
「「ええ!?」」
ユウが口にした恐ろしい理由に、思わず驚きつつ硬直してしまうミルキーとロイド。
反対に、ティファは実に嬉しそうだ。
「と、ということは、一年間はわたしの同級生ということになるんですか!?」
「いや、魔力の扱いそのものの訓練は必要なかったから、恐らく一年はかかるまい。とりあえず基本的な魔法回路の付与とクリエイトデバイスができるようになれば、お前の気の扱いを指導する分には十分だろう」
そう言いながら、先ほどまでリエラやケニーに手ほどきを受けたやり方で、適当な魔石に発火の魔法回路を付与してみるユウ。
もっとも、ユウの魔力は気功の訓練課程で増えた分を合わせても、一般的な魔法使いと同等程度。少なくはないが決して多いとは言えない。
手ほどきを受けたとはいえ、単独では初めての作業だけあって魔力消費の見極めが甘く、魔力が抜けないようにする処理の分を見落とすという初歩的なミスをする。
「ふむ……。存外、現在の魔力消費と付与完了までに必要な魔力の見極めが難しいものだな」
「あのねえ。簡単だったら、もっと魔道具が普及してるわよ」
当然のことを言うユウに対し、ミルキーの鋭い突っ込みが突き刺さる。
「なるほど、道理だな」
その突っ込みに対し、やたらと感心してみせるユウ。
ユウの態度に、思わず力が抜けるものを感じるロイドとミルキー。
「……なあ、ミルキー……」
「……私の手に負えると思ってるの?」
「いや、お前の鋭い突っ込みなら、どうにかできるんじゃないかと……」
「なんで私がやらなきゃいけないのよ。そういうのは、この班の最上級生であるあんたの役目でしょうが……」
「そういう突っ込みは、俺のキャラじゃないだろ?」
「知らないわよ。私は自分とティファに降りかかってこない限り、知ったこっちゃないからね」
「そこでティファは守ろうとするあたり、お前ティファ大好きだよな……」
「別に好きだからって理由で、あの娘を守るわけじゃないわよっ! 先輩なんだから、後輩を守れる範囲で守ろうとするのは当たり前でしょっ!」
今後訪れると予想される、ユウに徹底的に振り回される日々。
その一番の被害者になるであろう突っ込み役という重大な役割を、必死になって押し付け合うロイドとミルキー。
その間にも、どうやってか即座に魔力を回復させたユウが魔法回路の付与に再挑戦し、今度はあっさり成功させる。
「なるほど、こういう感じか」
「って、もう成功させたのかよ!?」
「うむ。一度失敗したおかげで、なんとなく勘がつかめたからな」
「は、早いわね、理不尽なまでに……」
「俺は気を武器に通すからな。似たような作業に慣れているのが大きいのではないか?」
そういう問題なのか? と突っ込みたくなるユウの言葉に、思わず遠い目をしそうになるロイドとミルキー。
そもそもその理屈で問題なく付与ができるのであれば、エンチャントウェポンを使いこなしていれば誰でも軽くできるようになるはずだ。
「てか、ユウさん。さっきミスったのって、魔力不足が原因だったよな?」
「ああ」
「なんで、魔力が足りてんだよ? てか、回復するの、早くね?」
「消費した魔力は、気を魔力に変換して補充した。俺だとあまり使う機会のない技だが、魔法でしかできんことも多いから、魔力への変換精度だけは鍛えてある」
「そんな真似までできるのかよ……」
「本来ならティファにとって一番重要になりそうな技なのだがな。正直、こいつの魔力が枯渇するところを想像できんし、そもそも枯渇するような状況だといろんな意味で終わりだ」
マジックユーザーなら誰でも喉から手が出るほど欲しいであろう技を、そんな風に評するユウ。
基本的に戦士系であるユウはともかく、がっつりマジックユーザーであるティファにとって使い道がないというのは、何とも微妙な気分になる話である。
「えっと、ユウさん。一つ質問、いいですか?」
「ああ。なんだ?」
「もしかして、その技はロイド先輩やミルキー先輩だったら役に立つんじゃないでしょうか?」
「多分な。だが、一から鍛えんといかん都合上、いつ使い物になるか分からん」
「だったら、わたしと一緒に鍛えてもらうのはどうでしょうか?」
「それ自体は構わんが、こいつらの場合、基礎体力をつけるところからスタートだから、お前と一緒にというわけにはいかんと思うぞ?」
数日前、カレンに却下された話を蒸し返すティファに対し、そんな問題点を告げるユウ。
訓練開始当初のティファよりは体力があるだろうが、ロイドもミルキーも体を鍛えているとはいいがたい。
そんな彼らに気の扱いを教えるとなると、やはり基礎鍛錬だけで二カ月から三カ月は見ておく必要があるだろう。
「とはいえ、今後お前達だけで街の外に出たり、場合によってはダンジョンに潜ったりする必要も出てくるだろうから、可能であれば必要最低限の体力はつけさせたいところではあるが」
「ちょっと! なに勝手に話進めてんのよっ!」
「そうは言うが、何をするにしても体力は重要だ。それに、付与魔法使いであろうと最低限の攻撃や回復の魔法が使える以上、いざという時に戦いに動員されてる可能性は常に付きまとう」
「確かにそうかもしれないけど……」
当事者抜きの話に割り込んでみたものの、ユウに反撃され言葉に詰まるミルキー。
そこに畳み込むようにユウが話を進める。
「そもそも、どんな状況で戦闘に巻き込まれるか分からん時点で、せめて無事に戦闘から逃げ延びられるだけの脚力と必要最低限の体力は身につけておかねばいかん」
「それ、本当に必要最低限なんでしょうね……」
ユウの言葉に、即座にそう切り返すミルキー。
なんだかんだでユウの戦士としての力量と指導者としての力量は認めているミルキーだが、常識とか良識とか加減とか、そういったものに関しては一切信用していないのだ。
「必要だってのは認めた上で、正直できれば遠慮したいところだなあ……」
「あの、駄目でしょうか……」
「ティファと一緒に体力づくり、っての自体はいいんだよ、それ自体は。ただ、ユウさんの指導でってのがなあ……」
「そうなのよねえ。ただでさえ加減とかそういうのが不安なのに、ティファが一緒だと余計に増幅されてそうな感じがするのがねえ……」
何とも言えぬ不安について素直に口にしたロイドに、ミルキーが同調する。
優秀ではあるが基準とかそういうのがズレているユウを、必要以上に素直で従順で積極的なティファが増幅している感があるのが非常に不安である。
なんというか、普段のやり取りの時点ですでに、『混ぜるな危険』という言葉が見え隠れしている印象なのだ。
「何度も言うように、ティファだけなら問題ないのよ、正直」
「別に、無理にフォローしなくても、ミルキーがティファを大好きだってのは伝わってるぜ?」
「うるさいわねっ! いちいちそういうこと言うなっ!」
ロイドにからかうように突っ込まれ、反射的に吠えるミルキー。
そのあと深呼吸を一つ入れ、考え込むような態度をとりながら、一応歩み寄るような言葉を口にする。
「そうねえ。どうしてもって言うんだったら、付き合ってあげなくもないけど」
「そうですか……」
ミルキーの言葉と態度に、残念そうにしながらも素直に引き下がるティファ。
こういうことは無理強いしても身に付かないだろうし、本人が乗り気でなければ怪我のリスクも跳ね上がる。
ティファが素直に引き下がって、思わずほっとするミルキー。
そこにロイドが余計な口を挟む。
「知ってるか、ティファ、ユウさん。ミルキーの『どうしてもって言うのなら』は、ぜひともやりたいって意味なんだぜ?」
「そうなんですか?」
「ああ。こいつ、素直にうんと言えない症候群にかかってて、誘われたり頼まれたりしたら、こういう恩着せがましい言い方しつつ、内心ではものすごく喜んで……」
「ロイドっ、余計なこと言わないっ!」
ミルキーにとって何重もの意味で余計としか言えないことを言い出すロイドに、思わず全体重をかけながら肘を叩き込んでしまうミルキー。
さすがにこの一撃は効いたらしく、本気でうめいてしまうロイド。
確かにロイドの言っていることは、大体合ってはいる。
が、今回に限っては、本当にどうしても必要でなければやりたくなかったのだ。
今までの自分の態度が悪かったことは認めるが、その報いを受けるにしても、今回の内容はシャレで済まない。
「ふむ。ならば、こう言おう。どうしても必要なことだから、少なくとも基礎鍛錬は付き合え」
「……分かったわよ! 付き合えばいいんでしょ、付き合えば!」
「良かったな、ミルキー。愛しのティファと毎朝一緒だぞ?」
「何を他人事のように言っている? お前も一緒に決まっているだろうが」
「ええ!? 俺も!?」
「当たり前だ。下級生が二人も今後のために鍛えているのに、お前だけ遊んでいていざという時に後輩の足を引っ張るなど、恥以外の何物でもなかろうが。しかも、相手は筋肉が付きにくい女子だぞ?」
ユウのきつい指摘に、ぐうの音も出ませんという感じで突っ伏すロイド。
完全に藪蛇である。
「明日から、みんなで鍛錬ですね!」
「うむ。心配せずともできんことはやらせんから、そう不安そうな顔をするな」
みんなで一緒に強くなれる、ということに対して純粋に嬉しそうにするティファと、妙にやる気を見せているユウ。
その様子に今さら駄々をこねることもできず、いろいろ覚悟を決めざるを得なくなるミルキーとロイド。
「……あんたのせいだからね……」
「……なんかすまん……」
相手の方が一枚上手だったことにうなだれつつ、あまりのショックにミルキーに素直に謝ることしかできないロイドであった。




