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プロローグ ある日の修行風景

1巻部分を読みやすく統合したものを再投稿します。

正常に投稿されていることが確認できましたら、以前の投稿は削除させていただきます。

しばらくは分かりづらい表示で申し訳ございません。

「はっはっはっはっ」


「もう少しでゴールだ。頑張れ、ティファ」


 クリューウェル大陸唯一の国家、トライオン。その首都アルトでは、鍛え上げられた肉体を持つ大柄な男と、まったく血のつながりその他を感じさせない幼い少女という不思議な組み合わせのコンビのジョギング姿が近頃の早朝の名物となりつつあった。


「よし、ここがゴールだ」


「……はあ、はあ、はあ……」


 同じだけの距離を走っていたというのに、ゴールであるアルト中央公園にたどり着いた時点では、男の方は汗一つかいていない。


 大人と子供である以上、当たり前のことではあるが、男と少女の間には隔絶した体力の差が存在しているようである。


「距離の新記録達成だ。よく頑張った」


「……はあ、はあ、はあ……」


 男の言葉に、息を乱したまま嬉しそうな笑顔を見せる少女。乱れて張り付いた長い金髪も、今は気にならないようだ。


 男の名はユウ・ブラウン。こことは別の大陸出身の新米冒険者。いろいろあってそこそこの地位まで昇進した騎士団を辞め、わざわざ冒険者になるためにクリューウェル大陸まで渡って来た二十五歳。名前の通りとでもいえばいいのか、ダークブラウンの無駄に意思の強そうな瞳が印象的な、そこそこの男前である。


 少女の名はティファ・ベイカー。名が体を表しているかのように、アルトの隣村で唯一のパン屋の娘。魔術師や魔導士を育成する教育機関としてはトライオン最高峰の学校であるアルト魔法学院の元特待生。極端な大魔力を持って生まれたがゆえに特待生として迎え入れられ、その魔力の特殊さゆえに魔法学院のカリキュラムと相性が悪く、成績不振で特待生資格を剥奪された八歳児。


 金の髪とアメジストを思わせる紫の瞳が目を引く、将来の成長が非常に楽しみな、繊細で整った容姿の美少女である。


 この二人の関係がどういうものかというと、いわゆる師弟といった感じであり、ユウがティファに『魔法』を教えているのである。


 もっとも、知らない人にその話をしても、まず誰も信じないだろう。


 何しろ、ユウがティファに行っているのは、現状九割以上が体力作りか武術的な指導なのだから、正直、見たら見当違いの訓練にしか見えない。


「さて、息が整ってきたら、杖術の訓練に移るぞ」


「はい!」


 ユウの指示に元気よく従い、差し出された杖を受け取るティファ。そのまま基本となる型を十分ほどなぞり、軽い打ち合いの稽古へと移る。


 と言っても、所詮は八歳児としても小柄なほうのティファ。しかも今まで体力作りはしていても腕力や筋力の類は鍛えていない。脚力の方は走り込みの成果で同い年の男子にも負けなくなってきてはいるが、まともに打ち合って大の大人を殴り倒すような能力はない。


 あくまで、白兵戦の間合いまで敵に接近されたときに身を守るための訓練であり、体力づくりの一環というかついでに行っているものである。


 が、そんな内容でも身につく、というか磨かれる能力はあるわけで……。


「まだまだだが、随分と勘と反応は良くなってきたな」


「ユウさんが分かりやすく予備動作を行ってくれるので、反応できるようになっただけだと思います。多分、もう少しでも本気で動かれると、反応どころか見栄もしないかと」


「前に他の新米や若手冒険者に試したら、割とあっさり引っかかっていたんだがな」


「そうなんですか?」


「まあ、あまり対人戦をやってない連中だったようだし、杖術というやつは冒険者の技能としてはマイナーだからな。予備動作がどんなものかも知らんのが普通らしい」


「そういうものですか?」


「そういうものらしい」


 打ち合いを続けながら、そんなとぼけた話を続けるユウとティファ。ユウの訓練の成果か、最近のティファは割と死角気味になっている場所から何かが飛んできても、普通に反応するようになっている。


 ただし、反射神経は良くても運動神経はまだまだなので、反応が間に合っても対応が間に合うかどうかは五分五分より分が悪いところではあるが。


「さて、この分ならそろそろ次のステップに移っても大丈夫そうだな」


「次のステップですか!?」


「ああ。これだけ勘がよくなっているのなら、魔力以外のものもそろそろ感知できるようになってきているだろうからな。その、魔力以外のものを動かすやり方を教える」


「魔力以外のもの、ですか」


「ああ。俺が学んだ流派では『気』と、流派によっては『プラーナ』だの『チャクラ』だのと呼ばれることもある類の物だ。まあ、平たく言えば生命エネルギーの類だな」


「もしかして、それを扱う方法を魔力の扱いに応用すれば?」


「いや、ティファの場合はもう一工夫必要だ。何にしても、まずは基礎でもいいから気の扱いを身につけないと話にもならん」


「分かりました! 頑張ります!」


 ユウの説明を聞き、ついに念願の魔力の扱いが見えてきたことに顔を輝かせるティファ。


 魔力を扱うために武術をある程度極める必要がある点に関しては、特に疑問の類はないらしい。


「それにしても、ついにですね……」


「ああ、ついに、だな」


「もし、このままうまくいって魔力が扱えるようになっても、ユウさんは私の師匠を続けてくださいますか?」


「続けるも何も、その程度で教えることがなくなると思っているなら、なめているにもほどがある。最低でも五年は下積みをせねば、半人前にも届かんぞ」




 ユウの厳しい、というか希望や自負といったものを叩き潰すような言葉に、やたらと嬉しそうな顔を見せるティファ。


 それを見て、思わず遠い目をするユウ。


(とはいえ、どの程度まで仕込むのが妥当か、と言われると難しいところだが。まあ、体もできてきたことだし、しばらくは徹底的に叩き込むか)


(やった! あと五年はユウさんの弟子でいられる!)


 それぞれに現状と今後の事についての正直な感想を心にしまいつつ、今の関係になるまでの経緯に思いをはせる二人であった。

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