本当の気持ち
このページを開いていただきありがとうございます。
「たまもや」と申します。
今回は三題噺企画、第三弾となります。
お題は、
「苺大福、橋、背伸び」です。
【当県出身のあの有名人も大絶賛!】
店先に掲げられたポップな登戸は裏腹に、歴史を感じる店構え。特に寄る予定はなかったが、その宣伝文句にまんまと引っかかってしまい、店内に入る。
目の前に広がるショーケースには、色とりどりの和菓子が並べられている。その中でも一際目を引くのが、大福だ。白だけでなく、桃色、緑、橙といろんな色があり、中身もオーソドックスな餡子はもちろん、杏子、梅、チェリー、リンゴとバラエティに富んでいる。
「苺大福…」
聞きなれたその言葉は、今日待ち合わせしている彼女がたまに呼ばれているあだ名だった。おそらく白い肌が、照れるとものすごく赤くなるからだと思う。これはいじりのネタになると思い、苺大福を2つ購入する。
先ほどの大福を右手にぶら下げ、観光名所としても有名な橋へと向かう。橋が見える頃になると、待ち合わせ相手の白崎加奈子の姿が見えた。待ち合わせ時間の18時まであと10分もあるのにもう着いているとは、えらいなと感心する。このあたりの高校の中ではかわいいと評判のうちの制服に身を包み、名前の通りの白い肌、黒く艶のあるセミロングの髪を一つ結びにしている彼女は、20メートルくらい離れた場所からだと、清楚系かつ大人しめのお嬢様に見えなくもない。
「ゆうくーん!」
こちらの存在に気付いたのだろうか、周りの目を気にすることもなく大きな声で僕を呼び、大きな動きで手を振る。僕は、それを完全に無視し、彼女のもとへと向かう。
「なんで無視するのよー」
「でかい声で呼ぶなよ、恥ずかしい」
「えー、別にいいじゃん」
ふくれっ面でぶーぶー言っている彼女は、僕の持っている袋に気が付いたらしく、
「何もってるの?」
「あ、これ。お前」
そういって、2つの小さい箱のうち1つを彼女に渡した。包みをはがすなり彼女は僕の左足を思いっきり蹴ってきた。
「誰が苺大福よ!バカ!」
「呼ばれてるだろ?」
「不本意なの!」
そういって再び蹴りを入れられる。まあまあ、と宥めながら近くのベンチに腰掛ける。
「参考書買いに行くんだっけ?」
先ほどのふくれっ面とは打って変わって、こっちまで微笑んでしまいそうな笑顔で共食いをする彼女に問いかける。
「そうそう。自分じゃどれがいいとかわからないからさ。ゆうくんなら詳しいかなって」
「まあ、一人で選ぶよりかはいいかもな」
学園祭が終わると、自称進学校のうちの高校では一気に受験ムードになる。そのムードに飲み込まれたのか、彼女もついに本腰を入れて勉強するつもりらしい。
「ゆうくんはさ、志望校、中大だっけ?」
中大は、県唯一の国立大学で、難易度はうちの高校からだと割と高めだ。
「ああ、まあな」
「そっかー」
しばしの沈黙が流れる。どうしたのかと彼女のほうを向くと、
「私も同じとこにしよっかな、なんて!」
と言いながら、勢いよく立ち上がる。
「今のお前じゃ厳しいだろ」
頭めがけてチョップする。
「やっぱり厳しいかな」
本当にへこんでいるのではないかと思えるような表情で問いかけてくる。
「まあ、今のままでは」
「そうだよね」
「うん」
「まぁ、まだ時間はあるよね!」
「余裕ぶっこいてると、痛い目見るぞ」
「そんなこと言わないの!もう!」
そう言いながら、歩いて行ってしまう。ごめんごめん、と僕は怒る彼女の後ろをついていく。
先ほど通ってきた橋の中央に差し掛かった時、
「そういえばさ?」
急に彼女が振り返った。
「どうした?」
「そこの出っ張りに小銭が乗せられたら願いが叶う、って噂なかった?」
そう言いながら、橋の側面を指さす。その先には、いくつもの小銭が積み重なっていた。
「そんなのあったな」
「やってみようよ」
「いや、迷信だろ」
「また、そういうこと言う!」
「神頼みはやることやってからだから」
「そ、そうだけど」
あからさまに落ち込む彼女を見ていると、罪悪感に押しつぶされそうになったので、
「まあ、やらないよりはやったほうがいいかもな」
「そうだよね!」
さっきの落ち込みはどこに行ったのだろうか。
元気になった彼女は、財布の中から五円玉を取り出した。距離は約2メートル。そっと離した五円玉は、出っ張りに当たりはしたものの、川に落ちてしまった。
「あらら」
「まだまだ!」
そういうと彼女は2枚目の五円玉を取り出した。手すりから乗り出し、背伸びをして真剣に出っ張りを狙う彼女。その横顔は、とてもバカにすることが出来ないほど真剣で、綺麗だった。
彼女の指先を離れた五円玉は、先ほどよりも内側に当たったものの、ほかの小銭を巻き込んで下に落ちてしまった。しばらく落ちた先の波紋を眺めていた彼女は、
「なんか、罪悪感が」
と、顔を曇らせた。僕は、彼女のこういう表情に弱いらしい。
「もう願いが叶ったから落ちたのかもよ」
さすがに無理があるか、と思ったが、
「ありがとう」
そういうと、3枚目の五円玉を取り出し、戦闘態勢に入る。大きく深呼吸をし、ちらっとこちらを見る。
「がんばれ」
声をかけると、彼女は大きくうなずき、乗せる先だけをしっかりと見据える。
手を離れた五円玉。カラン、と音を立てたそれは、危なげもなく、見事に出っ張りに乗っかった。一気に肺に空気が流れ込む。僕も呼吸を忘れていたみたいだ。
「やった!!」
そう叫ぶと、僕の方を向いて両手を挙げた。それに応えるため、僕も両手を上げ、大きくハイタッチをする。それを見ていたのだろうか、側でアイスを売っていたおばあちゃんが拍手で祝福してくれていた。
「ほら、願い事しないと」
「そうだった!」
出っ張りに向かって手を合わせる彼女。やはり黙っていれば綺麗だと思う。
「これでよしっと」
「何をお願いしたの?」
「え、気になる?」
「まあ、あれだけ真剣にやってたら気にもなるだろ」
「じゃあ、お祝いにアイス買ってくれたら教えてあげる」
「なんのお祝いだよ」
「乗っかったお祝い?」
何度考えても、祝うことだとは思えなかったが、気になったままなのも嫌なので、さっきのおばあちゃんからアイスを二つ買った。
「それで。何をお願いしたの?」
「えーとねぇ」
それでもなお、はぐらかしてくる彼女。
「そんなに大事なことか?」
「うん、大事」
さっきまでのトーンより少し低いその声は、本当に大事なのだと思うのに十分だった。
「笑わない?」
「うん、たぶん」
「たぶんじゃ、だめだよ」
「じゃあ笑わない」
そういうと彼女は、背中を向けて、
「少しでも長くゆうくんと一緒に居られますように、って」
予想と違う答え、そして何より震える声に動揺してしまい、
「そ、そうか」
と、上ずった変な返事をしてしまう。すると、彼女は振り返り、
「もう、本気なんだからね」
夕日を背景に、伏し目がちで、瞳を濡らし、髪を揺らしながら、頬を赤くした彼女に、僕は完全に奪われてしまった。
「は、はい」
「なにそれ」
あはは、と笑い、目をこすりながら、再び橋を渡り始める彼女。僕の心拍数はまだ元には戻らず、顔は火が出るように熱かった。
「ほら、早く行くよ」
2、3歩先で彼女が手招きしている。僕はその手を掴み、彼女を追い抜き、その手を引く。
「買うのはとりあえず中大の赤本な」
前を向きながら話しかける。えっ、と一瞬戸惑った彼女に、
「一緒に頑張ってみないの?」
と再び声をかけると、
「頑張る」
その一言を発して、小走りした。そして僕の隣にまで来ると、
「勉強するときも一緒にいられるね」
いつも通りの笑顔で微笑みかける彼女を、直視することはできなかった。
せっかくあとがきがありますので、今後は少し解説や、書いた感想を書いていきたいと思います。
今回は、白崎と、黒石の考えていることの「ズレ」を書きたかったのですが、伝わったでしょうか。
説明せずに伝えるというのは、難しいと改めて感じられました。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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明日も更新予定です。
三題噺のお題に関しましては、以下のホームページを参考にさせていただきました。
http://youbuntan.net/3dai/