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第4話

 神話物語マイスクロニクル、略称マイクロ。

 わたしの前世では、けっこう有名でファンも多数いるゲームシリーズである「クロニクルシリーズ」のタイトルのうちの一つだ。

 確かこのタイトルをプレイしたとき、私は中学生くらい。ざっくりとした内容は覚えているけどストーリーの細かいところはもう忘れている。


 内容は王道ファンタジーRPGで、剣と魔法とドラゴンがいるような世界で一人の少年が旅に出るところから物語が始まる。

 主人公は住み慣れた村を出て、神官であるヒロインや頼れる仲間たちと出会う。彼らと協力して魔物や悪者たちと戦い、成長しながら旅をしていく。そして、頼まれた問題を解決していくうちに彼は『勇者』と呼ばれるようになり、この世界が抱える問題と対峙していくことになるのだ。


 そして作中で主人公の勇者一行に滅ぼされる魔族たちの最期の国が、「ディアボロス魔王国」だ。


 悪逆非道を尽くし人々を苦しめた諸悪の根源である魔族を、勇者たちが根絶やしにする。それが、その後天界と人間の大戦争に繋がるのだったか━━まぁそれは、今はどうでも良い。


「このままだと根絶やしにされるのか……」

「物騒なことを。どうかしたの?」


 不思議そうに問うてきたジグは、権能である室内インテリアコーディネートでダンジョンの中で作り出した鉢植えを、せっせと外に運び出して植え替えている。

 家はともかく、庭までは移動できなかったらしい。前の家にもあった季節の花が植えられた花壇と、たぶん野菜を作っているのであろう、小さなかわいらしい家庭菜園が完成しつつあった。


(魔王じゃなくて、庭師にでもなった方がいいんじゃないかな?)


 マイクロのゲーム中だと魔族は全員極悪非道、倒さないと人類がヤバい。

 そんな設定だったけど。


「ジグってやっぱり一日一殺を信条にしてて、若い娘の生き血が大好物だったりする?」

「えっ、なにそれこわい……」


 真顔で返された。なにそれこわいって……。

 突然の質問に怪訝な顔をしたシグだが、少し考えてから答えた。


「あ、もしかして、僕が魔王だからそう思ったの? もちろん魔王の中には人族に敵対的な奴もいるけど、僕は殺し合いとか苦手だからね」

「うん、そう見えるね……」


 殺人が好きな極悪魔王は、ガーデニングとかしないんじゃないかな?

 そもそも魔王とはいえ、レベル1でどうやって人を殺せるというのだ。スライム相手ですら危ないんじゃないか。


「僕はのんびりと美味しい料理を食べたり、お花を育てたりしながら暮らしたいだけなんだ」

「魔王じゃなくて、人間に生まれた方が性にあってたんじゃない?」

「そうだね。でも、魔王権能のおかげで無料で自分のダンジョンに住めるし、こうやって異世界のお花も手に入る。そう考えると、魔王も悪くないかなって思うよ?」


 室内インテリアコーディネートは、家の中に置けるインテリアを異世界から取り寄せることができる能力だ。

 魔王の権能としてはよく分からないが、何もない場所から食材や家具を出せるのは便利だと思う。

 今ジグが大事そうに植えている黄色いパンジーも、この世界には存在しない種類の花だという。

 ━━私には、見慣れた花だけど。地球からするとこちらが異世界なように、この世界でいう異世界とはつまり地球のことなのかもしれない。


「あと、魔王じゃなかったらリンネにも会えなかったしね」

「えっ、突然口説くのやめてもらっていいですか!?」

「そういう意味じゃないけど……。僕はずっと、一緒にいてくれる誰かに会いたかったんだよ」


 ジグいわく、魔王はある日突然大人の身体と精神を持ってこの世界に誕生するらしい。

 母親はおらず、生まれたその場所を治めていた魔王を慣習的に父親と呼んでいるが、関係性としては非常に薄く、すぐに放り出されることが多い。ジグのようにたった数ヶ月とはいえ、庇護化に置くことは珍しいそうだ。


「ディアボロス様は慈悲深い魔王様だからね。魔王国は治安もいいし、ご飯も美味しい」

「悪い魔族がたくさんいる……というわけではないんだね」

「何をもって悪いとするかは分からないけど、僕からしたら魔王国の住民よりも人族の方が怖いかな」


 元々人のリンネには申し訳ないけど。と言って、ジグは話し出した。


「人族はいつだって戦争や殺し合いをしていると聞くから。

 魔王はそう定められて生まれたモノだから、従僕サーヴァントと共に人族や他の魔王と争うけど、普通の魔族はそれぞれ部族ことに分かれて争うことなく共存しているからね」

「魔族同士での戦争はないの?」

「僕の知る限りだと、ここ1000年はないかな」


 1000年。人間よりは長生きな魔族にしても、とても長い時間だ。

 今を生きている魔族たちは、戦争を知らない。魔王と従僕サーヴァントという戦いを定められたごく一部以外は、戦火ともそれによる傷や死とも無縁な人々。


「魔王が治める領域内では、基本的に魔物は常に排除されているから、一般の住民で戦闘行為ができる人は少ない。ディアボロスのような大きい国では軍隊があるけど、大半は従僕サーヴァントとして生まれた者たちで構成されている」

「なるほど……」

「魔王じゃなくて、この国の普通の住人に生まれていたら、平穏に暮らせたかもね」


 もちろん魔王が嫌なわけではないんだけどね、と前置きしたうえで、もしそうだったらお花屋さんか庭師になりたかったなぁと笑う。

 やっぱり魔王より庭師が向いてるって自分でも思ってるんだ……。


(どうして悪逆非道な魔族を滅ぼした……なんてことになるんだろう。)


 戦争なんて1000年前の話なんだったら、勇者が攻めてきた時に全滅するのも頷ける……のかな?

 魔王は人間の領域を侵すこともあるみたいだけど、平和に生きてる魔族の人たちが死ななければいけないのはおかしいんじゃないかと思う。


(ううん……、知らないヒトたちのことを考えても仕方がないか。とりあえずこのボケボケな庭師様……じゃなくて、わたしの魔王様を守らないとね。)


 パンジーの植え替えが終わり満足げな顔をしているジグの顔を見て、私はそう思った。


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