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第七話:深夜の来訪者 その2

「『いただきます』」

「ハハハハイッ!!・・(ねぇ悠治、桜井さんあんなもので良かったのかしら・・)」

あんたは自分で作ったアブナイ料理を息子には食わせるのか?


「悠兄!どうゆう事!ちゃんと説明しなさいよ!」

俺だってなんでか聞きたいぐらいだよマイシスター。


「すげーな!悠司、彼女とどうゆう関係なんだ?」

どうもこうも・・ただのクラスメイト・・のはずなんだけどなぁ


「う・・美しい・・・・」

五月蠅いオヤジめ!あんたは母さん一筋じゃなかったのか?!


桜井美花が家で飯を食っている。あの桜井美花だぞ。

総資産ウン十兆円の桜井コーポレーションの一人娘で、今や国民的アイドルの美少女だぞ。


あぁぁ・・・美花が使った箸なんていくらで売れるだろう・・・あぁぁ・・・その口に付けたお椀ならいくらだろう・・・


どうやら彼女は今朝言った事をきちんと守ってくれたようだった。


ーーー「いや!よくない!!今度家に来い!!ちゃんとしたモン食わしてやるから!!」ーーー


確かに言った。

でもクラスメイトの、しかも男の家にそんなに簡単に来れるものなのか?

それに彼女は只の女の子ではない。日本の八割は好感の支持を得ているアイドルだぞ。

自覚があるのか・・・いや、なくはないだろう。

美花の生活を見聞きする限り・・・


『・・・君・・・小松君』

「え!あ、はい?」

『聞いてますか? どうしてご家族の方に今晩お邪魔しますって言っといてもらえなかったのですか? おかげでご迷惑かけてしまいました・・・』

「いいのよ!岩崎さん!あなたみたいなかわいい子、いつでも家にきてくれて!」

「母さんの言う通りだよ」

「ねぇねぇ美花さん、ご飯食べたら有希の部屋で一緒に遊びませんか?」

「う・・美しい・・・」

『ありがとうございます。 有希ちゃん、じゃあ後で一緒にお話ししましょう』


どうやら勝手に盛り上がってくれてたようだ。

有希の奴なんか両手上げて喜んでいる。こんな妹を見たのは久しぶりだ。




「ゆ〜じ〜!これじゃあ逆に疲れたわ〜」

「そりゃあ・・・そうだったな。家には五月蝿いのばっかりだしね」

「でも・・・楽しかった。 なんか一家団欒っていうの? いいよね。 料理もおいしかった」


美花が俺のベッドの上で天井を見ながら呟いてる。

仰向けに寝転がりながら、その長い足だけはベッドの横から垂れ下がり、時折上下にブラブラさせて。

俺は隣の勉強机と言う名の物置のイスに。



美花はあれからリビングで、我が家のマシンガントークをデザートとしては重たすぎる程堪能して、約束通り有希の部屋で小一時間程話をしてきた。


「それにしても悠司は顔はお母さんだけど性格はお父さん似?」

「家は母さん筆頭に兄貴と有希がもっぱら話続けるからね。 俺は聞き役なの」

「へ〜。 そういえば私、初めて男の子の部屋に入った。」

「は?そうなのか?」

「当たり前じゃない!悠司は一体私の事どう思ってた訳〜!」

「そ、そうじゃなくて・・・いや、俺の部屋が最初で良かったのかなと・・」

「はぁ? そんなの関係ないじゃない。」


そう言いながら本棚にあった漫画を二、三冊持ち出してきてベッドの上で読み出した。

それもあぐらで。

アイドルがあぐらで漫画を読むなんて。


美花が漫画に目の色を変えて没頭してしまい、特に会話も続かなかったため、俺も漫画を読む事にした。

本当なら女の子が自分の部屋に居るのに、漫画なんか読む事は無いと思う。それも既に五回は読み返したモノを。


特に読みたくなった訳ではないので、殆ど流し読みで軽快にページを進めていく。


どのくらいたっただろう。

悪い癖だ。

絵だけを目で追っているとはいえ、いつも漫画を読むと時間も、場所も問わず没頭してしまう。


「ねえ」


突然声をかけられ、手元の本から目を離し、顔を上げる・・・と、美花の顔が至近距離に。

いきなり女性の顔が目の前に現れたら、誰だって驚くだろう。しかもそれが絶世の美女ならば。


「あんた、なんて顔してるのよ」


その顔がよっぽど面白かったらしく、腹を抱えてベッドの上で転げ回る。


「な、なんだよ。 そんなに笑わなくてもいいじゃねぇか」

「だ、だってさっきの悠司の顔。 ククク・・・」

「うるせーなぁ・・で、なんだよ」

「ヒー・・・ヒー・・・ああ、そうそう。 岩崎さん、なんで来てたの?」

「あ・・・」


思い出した。


俺、今日フラれたんだ、


ハハ、こんなすぐ忘れてたなんて。


「ちょ、悠司?どうしたの?」

「へ?」

「いきなり暗い顔して」

「い、いや何でも無い。 いや、なんでもなくない! 岩崎さん、まだ俺たちをくっつけようと考えてたぞ!」

「なによ『まだ』って。 私、初耳なんだけど」

「あ〜・・・」


そうだ。美花は俺が屋上に呼び出された事も、・・・振られた事も知らないんだった。


「いや〜・・実は岩崎さんには俺達が付き合ってないって事を説明したんだが、どういう訳か彼女が勘違いして俺達をくっつけようとして・・」

「はぁ〜?なにそれ? なんで私が悠司とくっつかなきゃいけない訳〜?」

「さ、さぁ・・俺も聞きたいんだけど・・」

「それに私、弱い男に興味ないし」

「だ、だよなぁ〜」


俺には岩崎さんという好きな子がいるじゃないか!なのに、それなのに・・実際に女の子から『興味ない』って言われると、かなりショックが・・・


「・・も〜!そんな顔しないでよ!私が悪モンみたいじゃん」

「なな、なんでもね〜よ!」

「まったく〜・・・あ、もうこんな時間だ!」


そう言われて俺も顔を上げて壁に掛けてある時計に目をやると・・・夜中の3時。


「おお!いつのまに!!」

「まぁ来たのが遅かったからね〜。じゃあそろそろおいとまするかな」

「え、あ、そうか。じゃあ送るよ」

「い〜よ、もうこんな時間だし〜」

「こんな時間だから送るんだろ?」

「あ、そっか・・・じゃあお願いしよっかな」


ベッドから跳ねる様に立ち上がった美花は、ベッドの足下に置いてあった黒いスプリングコートに袖を通す。

俺はイスに掛けてあったジャンパーを羽織り、美花の準備が整ったのを確認したので、自室から廊下に出るドアを開けた。

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